戸惑い
「お呼びでしょうか?」
紺色の逆立った髪に赤みかかったサングラス。
躰にヒットしたライダースーツに身を包んだ男が現れる。
「ブルーノ 君に頼みたい事があるんだ。」
白いまるでオームガイの様な機械に鎮座する男。
機械に覆われている所為で表情を伺い知る事は、出来ない。
「私に頼み事とは、如何様な事でしょう?」
「君には、現世に行ってもらい不動遊星にアクセルシンクロを伝授して欲しい。」
「アクセルシンクロを!!お言葉ですがその男にそれだけの技術があるのですか?」
ブルーノは、男に訪ねると男は
「今の時点では、それだけの技術は無い。それにアクセルシンクロの存在でさえ知らない。
君が不動遊星にアクセルシンクロの存在と技術を教えるのだ。」
ブルーノは、戸惑った。
アクセルシンクロを教えるにしても学校の授業の様に簡単に教えられるモノじゃない。
実際技術だけでどうなるモノでも無い。
アクセルシンクロは、己の心との闘い。
己の心に勝って初めて手にする事が出来るモノなのだ。
「君にしか頼めない。それに既に時間が無い。君には、イステリアルの存在を既に教えているね。」
「はい・・・」
「イステリアルが不動遊星達に闘いを挑んで来ている事も・・・。」
「承知しています。しかし時間が無いと言うのは?」
男は、背後の空間を歪め映像と写しだした。
「こっ・・・これは・・・」
驚くブルーノ。
ブルーノには、これが何か解っているからこその反応。
「闇の神殿が現世に姿を現しつつある。それを阻止する為には、イステリアルの三皇帝が操る機皇帝に打ち
勝たなければならない。しかし彼等にそんな力は皆無・・・」
今の状況では、不動遊星達に勝ち目は無い。
もし神殿が出現すれば生きとし生けるモノ全てが絶命する。
「これが・・・アクセルシンクロで勝てるのですか?」
強大な力に対抗しうるのか気になる。
「愚問だね。君は、ただ自信を持って不動遊星にアクセルシンクロを教えればいいのだよ。」
「他の者達は?」
「彼等には、彼等に合った進化方法が在る。それは、君がどうこう出来るモノでは無い。」
ブルーノは、目の前に居る相手が全てを知っていると確信していた。
だが彼は、必要最低限の事しか自分に知らせないのも解っている。
彼の瞳に浮かぶ困惑の色。
彼自身迷っているのだ。自分に全てを告げるのかどうか・・・。
「解りました。私は、貴方の指示通り不動遊星にアクセルシンクロを伝授します。ただ・・・私の頼みを聞いて
貰えますか?」
「頼み?君が私に頼み事をするなんて珍しいね。いいよ、私が協力出来る範囲なら・・・」
「私を彼等と同行させて欲しいのです。」
想像していなかった発言に少々驚きは、しつつも
「どうしてなのだい?」
「貴方が気に掛ける彼等の事を私なりに知りたいのです。」
「君の好きにするといいよ。」
男の声と視線が穏やかになったのを感じ取りブルーノは、内心ホッとした。
「ありがとうございます。それでは、彼等の元に行って来ます。」
ブルーノは、一礼するとその場を立ち去る。
「彼に真実を告げずに良かったのですか?」
本の僅かな沈黙を打ち破る声。
それは、荒ぶるモノでは無く穏やかな声だった。
「君達は、何時になったら成仏するんだい?」
「貴方が成仏していない以上私達だけが成仏する事は、出来ません。一時袂を分かったとは、言え私達は・・・
私達の心は、3人で行動を共にしていた。」
「兄の言うように心は、同じ方向に向いていたと思っています不動博士。」
「ならば君達は、成仏しないといけないね。君達が師と仰いでいた不動博士は、この世に存在していない。
既に過去の人物。ゼロリバースの時命を落しているのだからね。
そうそうダークシグナーの闘いの時地縛霊達を導く為に最後の力をふり絞りそのまま消滅したかもしれない。」
「それを言うのでしたら私達兄弟もあの時絶命しています。そしてココに居るのは、不動博士に思い寄せている
哀れな残骸。」
「貴方1人にこれ以上重荷を背をわせるつもりなんて在りませんよ。第一我々は、イステリアルに恨みが在りま
すのでそれ相応の事をさせていただかなくては、気が済みません。」
『不動博士』と呼ばれた男は、呆気に取られながらも軽く溜息を吐くと
「何を言っても無駄なようだね。君達の好きにするといいよ。」
「「在り難き御言葉。」」
「但しココに居る以上君達にもこれから先何が起こるのか解って貰うために暫く時間の旅に出てもらう。
楽観出来る様なものじゃない。寧ろ悲観的に・・・絶望的になるかもしれない・・・」
真摯な瞳で2人を見つめる。
「貴方を今一度失う事に比べたら・・・」
1度愛するモノを失う辛さ。
「時間の中で何が起きても私達は、もう自分を見失いません。」
孤独の中で生きる辛さ。
それを想うと3人で居る以上どんな辛い事でも乗り越えられると思った。
「行って来るといいよ。」
開かれる空間。
2人は、その空間を潜る。
3人を見送った後・・・
「君達は、私に多大なる信頼を寄せているようだけど・・・私は、大切な者を守る為なら君達を利用し裏切る
事なんて容易いんだよ?」
言葉を区切りながら冷酷とも取れる事を言う。
だがその表情は、何処か陰を落しておりまるで何かに耐えているかのように感じた。
彼自身迷っているのだ。
真実・・・未来・・・気持ち・・・
今彼自身が抱えているモノを告げていいのかどうか。