夢の世界から貴方へ・・・
海馬達が高校を卒業して数年の歳月が流れた。
「兄さまもう止めようよ・・・。」
海馬が居るのは、海馬Co.本社に在る海馬専用の研究室。
この部屋に入室出来るのは、海馬自身が認めた者のみ。
海馬は、闇の遊戯が冥界に戻って直に彼の復活を願って色々と研究を開始した。
現実主義の兄が非ィ現実な事に取り組みだし正直モクバは、戸惑った。
何度失敗しようとも諦め無い海馬。
その都度落胆する兄の姿にモクバは、心を痛めた。
兄の研究を止めるべきなのかどうか・・・。
兄の闇遊戯に対する想いを知っている故に戸惑われたが意を決し兄に言うと
「案ずるな。遊戯は、必ず復活をする。俺としては、オカルトなんぞ信じたくないしその力を使いたいと思わぬが
その力無くして遊戯が手に入らぬと言うなら利用するまで・・・。」
兄の突拍子も無い言葉にモクバは、眩暈を感じた。
オカルトを信じない兄がオカルトに手を出すと言うのだ。
しかし幾らなんでも人1人・・・しかも3000年前に死した人間を生き返らせる事なんて出来るのだろうか?。
そんな事例なんて聞いた事が無い。事例じゃないそんな前例なんて知らない。
そもそも肉体が朽ちてどうする事も出来ないだろう。
ただでさえ遊戯には、肉体が無いのだ。
武藤遊戯の肉体を借りて少しの間現世に居ただけ。
「兄さま遊戯の肉体は、どうするのさ。幾らオカルトの力を借りるにしても肉体無くして遊戯の復活なんて
有り得ないぜ。」
「案ずるなモクバ。遊戯の肉体は、既に在る。」
そう言うと海馬は、モクバを奥の部屋に案内する。
「え!!」
そこには、古代の衣装を身に纏った褐色の肌をした遊戯が横たわっていた。
まるで生きているかのような遊戯の姿。
兄の説明によるとこの遊戯は、何等かの秘術によって肉体の損傷を免れていると言う。
その秘術を行ったのは、六神官の1人であり遊戯ことアテムの寵愛を一身に受けていた海馬の前世・・・。
千年ロットの所有者神官セトだった。
彼は、最愛なるアテムが眠りに付いた時来世で今一度彼に会う事を夢見彼と共に歩む事を望み彼の
肉体を禁術である秘術を行った。
神に対する冒涜行為・・・。
まぁ無神論者である兄には、関係無い事かもしれないが・・・。
「でも兄さま幾ら肉体が在っても遊戯自身の魂が冥界に居るんじゃ意味無いぜ。」
その言葉の通り『生きる屍』の肉体、どうやって魂を呼び寄せるのか?
「そんな心配など要らぬ。遊戯の魂は、遊戯に未練たっぷりヤツが呼びに行く。」
その言葉にモクバは、苦笑いしか出来ない。
多分兄が言っているのは、神官セトの事だろうから・・・でもその人は、兄の前世でありまた兄も遊戯に
未練たっぷりなのだ。
「しかしさその人は、何処にいるのさ?」
神官セトは、既に過去の人なのだ。
「今 俺の傍に居る。貴様本当に遊戯を呼びに行くのだろうな?」
兄の視線は、既に何も無い宙に向いている。
そしてモクバには、見えない相手に話しかけているのだ。
何も知らない人から見れば≪海馬瀬人は、精神に異常をきたした。≫と囁くだろう。
[案ずるな。私は、嘘偽りは申さぬ。ファラオの魂は、必ず連れて来る。お前も私との約束を違えるな。]
「フン。遊戯は、元々この俺のモノ。この俺が2度とアイツを手放す筈が無かろう。」
闘いの義の事を思い出す度に苦々しい気持ちになる。
何故あの時自分は、遊戯が冥界の門を潜るのを見送ったのか?
本当に冥界に戻る事を遊戯が望んだのか?
遊戯が冥界に戻るのを阻止出来た筈・・・あの時遊戯の魂は、武藤遊戯から離れていたのだ。
繰り返される後悔。
(遊戯 この俺に要らぬ心配をさせたのだその代償は、貴様に払って貰うからな。)
海馬の元から離れ暫し姿を消していたセトが何処からか戻って来た。
その手には、光り輝く球体を大切そうに抱えて。
「これが遊戯の魂か?」
[そう・・・]
2人が何かしら会話しているのが解るがモクバに聞こえるのは、兄の声のみ。
だがそのモクバの目にも光り輝く球体の姿が見える。
神々しい光なのに何処か温かく包み込んでくれる様な光・・・。
まるで遊戯がそこに居るかのように・・・彼の姿が見える様な気がした。
[ファラオの魂を肉体の上にかざして]
セトの言葉に渋々と従う海馬。
誰かの指図されるなんて彼の性格上我慢出来ない事だろうがそれもこれも遊戯を取り戻す為と思えば我慢
出来た。
肉体の上にかざされる球体。
すると遊戯の躰を中心に巨大なサークルが描かれる。
淡い光を放つサークルと同時に浮かび上がるヒエログリフ。
驚くモクバだが海馬は、至って平然をしセトが唱える詠唱の後を追って唱えている。
海馬が唱えている間球体は、その形を崩し遊戯の躰に流れ落ちる。
肉体に染み込むかの様に注ぎ込まれる光の液体。
それが注ぎ込まれた時遊戯の肉体が淡い光に包まれる。
[これで儀式は、全て終了した。後は、ファラオの魂が肉体に定着さえすれば目覚める。]
長い間肉体と魂が離れていたため結びつくのかどか定かでは、無い。
[これで私の役目は、終わった。海馬よファラオを頼んだぞ。]
そう言うとセトは、消えた。
消えたと言うより返るべき場所に返ったのかもしれない。
海馬自身の魂に・・・。
セトの事、この日を想像し自身の魂の一部を冥界に残していただろうから。
全ては、アテムの為だけに・・・。
「兄さま・・・」
驚きのあまり声が上擦ってしまっているモクバ。
海馬は、モクバの呼びかけに応える事無く遊戯の躰を抱き上げるとそのまま研究室から出て行く。
そんな海馬の後を急いで付いていくモクバ。
私邸に早く戻りたいだろうに会社の社長たる立場故に海馬は、社長室で執務に取りかかる。
仮眠室には、遊戯が眠ったまま。
「兄さま 遊戯は・・・」
「眠っているだけだ。」
「じゃぁ・・・遊戯は、甦ったの?」
兄の言葉を信じない訳じゃないが3000年前に没した人間が甦る非ィ現実な事にモクバの頭が付いて行け
ないのだ。
しかも没する前の若々しい肉体で・・・。
「遊戯が目覚めるのが楽しみだぜ。」
「そうだな。」
そっけない兄の言葉にモクバは、苦笑する。
だって誰より遊戯の復活を望み尽力を尽くしてきたのだ。
その労が叶ったのだ嬉しくない筈が無い。
ただその嬉しさをどう表現していいのか解らないだけ。
(遊戯 早く目を開けろよ。これ以上兄さまを待たせるな。)
遊戯の魂が肉体に戻って2週間が過ぎ様としていた。
魂の定着まで2〜3日程度だと思っていた海馬だったが1週間が過ぎても何の反応も見せない遊戯に不安
を抱きだしたもののもう少し待ってみた。
遊戯を最初に失って3000年も待った。
そして2度目に失って数年待ったのだ。だったら数週間ぐらい待てる。
そう思うとたいぶと待つ事に慣れたものだと感じてしまう。
だが2週間となると多少なりと焦りを感じる。
「遊戯 何時になったら貴様の紅い瞳を俺に向けてくれる。」
私邸の私室のベッドに横たわる遊戯の顔を撫でながらその温もりを感じ取る。
何時遊戯が目覚めてもいい様に海馬は、仕事を私邸で行うようになった。
それでも業務に支障が出そうな時は、会社なり研究施設になり赴く様にしている。
(何時か読んだ物語の様に王子様のキスでないと目覚めないつもりなのか?)
子供の頃に読んだ童話。それを思い出す。
一か八かの賭け。
(そう言えば俺もコイツも勝負師だったな。だったらこれもゲームだな。)
思い出される遊戯の柔らかい唇。
今の肉体でもその柔らかいままなのだろうか?。
海馬の唇が遊戯の唇に触れ様とした時。
「我慢の限界か?」
「!!」
掠れているが懐かしい声。
「貴様 狸寝入りか?」
「そんな事無いぜ。」
「何時目覚めた?」
「今朝・・・意識が戻ったのは、多分3〜4日前だと思う。」
「意識が戻っているのに目覚めるのに時間がかかってないか?」
今尚瞼を下ろしたままの遊戯。
「意識が戻っても浮上と降下を繰り返していた・・・それにお前の体温が気持ちよくて・・・」
夜な夜な遊戯の隣で眠っていた海馬の体温が気持ち良いと遊戯。
意識の浮上と降下を何度も繰り返していた所為でなかなか声が口を突いて出てこなかったと言う。
それに不安だったのかもしれない。もし目覚めたして浦島太郎の様な事になっていたら。
もし海馬が結婚していたら?不安故に様子を伺っていてもオカシクは、ないだろう。
「遊戯 いい加減目を開けろ。」
「キスしてくれたら考えて・・・ん・・・」
遊戯の言葉が終わる前に海馬の唇によって塞がれる。
性急な所は、相変わらずだと遊戯は心の中で思ったが彼のそんな所が変わって無くて嬉しく思ってしまう。
どれだけそうしていたのか解らない。
海馬の唇が少し離れたら違いを繋ぐ銀糸が見えた。
「海馬・・・相変わらず・・・だぜ。」
荒い吐息を吐く遊戯に対し海馬は、平然としている。
濡れた紅い瞳が今、海馬に向けられている。
追い求めた紅い瞳。
その瞳に自分の姿が写っている。
咽が乾く・・・
急に襲って来る飢餓感。
欲しい・・・今すぐに欲しい・・・。
「かいば・・・?」
自分を見つめ動かない海馬に対し気恥ずかしい想いで目を逸らしたい気持ちになるが逸らせない。
見て居たかった。
海馬の澄んだ蒼い瞳を・・・自分だけを写し出す蒼い瞳を。
(ああ・・・海馬は、オレの瞳に写る自分の姿を見ているのだ。オレが海馬の蒼い瞳に写る自分を見ている
のと同じ様に・・・)
ナルシスト?と問われれば答えは『NO』だ。断じて自分達は、ナルシストでは、無い。
だったら何故違いの瞳に写る自分を見ているのか・・・。
相手の瞳に自分自身が写ると言う事は、相手の瞳を自分が独占している証だからだ。
もし少しでも視線がずれていたらその瞳に自分の姿は、写らないだろう。
「かいば・・・」
「俺は、今すぐにでも貴様が欲しい。だが今の貴様では、ダメだ。」
「?」
「今の貴様の体力では、俺を満足させる事なんて夢のまた夢でしかないだろうからな。」
海馬が何を言っているのか解った遊戯の頬は、赤みを注して来る。
「おっ・・・お前・・・」
「嬉しかろう?この俺に抱かれるのだから。だから早く体力を回復させろ。そして貴様を味わせろ。」
直球で求められ何も言えない遊戯だったが海馬が言うように海馬に求められる事に嬉しさを感じていた。
口には、出さないが遊戯だって海馬の熱を感じたいのだ。
「・・・?・・・かいば?」
「早く・・・貴様を感じさせろ・・・いいな。」
華奢な遊戯の躰を抱き起し強く抱きしめる。
それが今の海馬に出来る精一杯の事だから・・・。
そしてそれに応えるかの様に遊戯も海馬の躰に腕を回し抱きしめる。
その力が例え弱くてもそれが遊戯の力一杯の抱擁だから。
時間のズレによって永遠に会えなかったかもしれない2人が会えた喜び。
禁忌を犯したたった1人の神官に感謝をした。
もう2度と離れない事を誓いながら・・・。