晴天の霹靂


2月14日は、Saint Valentine's Day・・・。

元々イエス・キリストなる人物の弟子の名前らしいがこの日は、意中の相手に告白出来る日。

この日ばかりは、心にでも鉛が付いているのか重い。

それが自分の足取りにまで出ているのか靴底を引きずりノロノロとしている。 

「学校に行きたく無い!!」と駄々を捏ねる子供と同じ様に研究所に出向きたくない。

研究所に行けば見たくも無い光景を目の当たりにするのだから・・・。

レクスどうしてお前は、今日に限って出張したのだ?。

 

 

+++数日前+++

「研究所に行きたく無いって兄さん正気ですか?」

「し・・・正気だが・・・」

驚くレクスにルドガーは、視線を合わせられず反らしている。

「異常な程博士に執着している兄さんの言葉とは、思えないですね。何が有ったのですか?」

『異常』と言う言葉は、ほっといて欲しいルドガーだったが自分が唯一相談出来るレクスに全てを打ち明ける

と呆れ顔をされた。

軽蔑されるよりマシだと判断したルドガーは、

「私だって子供じみていると思っているがどうしようもないだろう・・・。」

博士の助手になりたての頃は、博士の元に届けられるチョコに誇りを感じていた。

チョコの数だけ博士が認められていると勘違いをしていたから・・・。

でも毎年毎年博士の元に届けられるチョコを見る度に嫉妬して来たのだ。

(博士の事を何一つ知らない連中が博士に好意を抱くなぞ痴がましい)

そして送られて来るチョコは、どれも博士の口に入る事が無かった。

博士は、甘党なのに目の前のチョコには手を付けずレクスが作るケーキのみを口にした。

それ以外の日は、いろんなスイーツショップのケーキを口にすると言うのにバレンタインデーだけ博士は、

口にしなかった。

しかし博士にスイーツを提供していたレクスは、出張で留守。

今年は、ルドガーが用意したのだが・・・正直博士の好みが解らない。

レクスに訪ねても答えてくれない・・・仕方が無いので試行錯誤の上でオリジナルのチョコが完成した。

味は、レクスのお墨付きなので問題無い。

 

重い足取りで研究所の扉を潜る。

女性スタッフに掴まらない様に足早に不動博士の研究室に入る。

内心不動博士が室内に居ない事を祈りながら入室した。

否 博士が自分より早く出勤してくるなんて無い。

もし居るとしたら徹夜した時のみ。

(昨日博士が帰宅を確認しているから今は、居ない筈。)

そう思いながら扉を開けると・・・。

「おはようルドガー!」

予想外の声にルドガーの躰が固まる。

(まさか・・・まさか・・・まさか・・・)

そんな言葉が脳内を駆け巡る。

(何故?幻聴?そんな筈は、無い・・・こんな時間に居る筈が無い・・・)

自分が余計な事を想像していた所為で幻聴を聞いたのだと考えるルドガーだったが彼からの反応が無い事

に声の主は、不思議に思ったのか。

「私の声が聞こえないのかい?」

再度声を掛けて来る。

それに確信を抱いたのかルドガーは、声の主の方に向き直ると

「博士、おはよう御座います。申し訳御座いません。少々考え事をしていたので・・・それより今日は、早い

出勤ですね。いかがされましたか?」

そう博士は、自分より早く来る事なんて無いのだ。

「女性陣に掴まりたくなくてね。」

苦笑いをする博士。何故博士が早く来たのか察しがついた。

彼は、バレンタインチョコを受け取りたく無いのだ。

「だから今日は、食堂に行きたく無い一心で弁当まで作ってしまったよ。」

そう言うとカバンの中から弁当を取り出す。

しかしそれは、1人分にしては大きいサイズ。

博士1人では、到底食べきれない分量だろう。

1人だと味気ないから君の分まで作ったんだ。良かったら一緒に食べよう。」

思いがけない博士の誘いにルドガーは、顔を赤らめながら

「身に余る有りがたい御言葉。博士の折角のお誘い・・・御一緒させて頂きます。」

何時ものルドガーらしからぬ態度に博士は、笑みを浮かべている。

「君も何時もより早くないかい?」

少し視線を時計にずらしながら訪ねてくる博士に対しルドガーは、

「私も博士と同じ気持ちで少々早く出勤してまいりました。」

確かに女性陣に掴まりたく無い気持ちは、あったがそれより何時どの様なタイミングで博士にチョコを渡せば

いいのか・・・寧ろ受け取ってもらえるのか・・・そんな事を考えていたら一睡も出来なかったのだ。

我ながら情けないと思う。

「博士コーヒーでもいかがです?」

デスクに上着を置きながら訪ねる。

「そうだね・・・仕事前に飲むのも悪く無い。それに君が煎れてくれたコーヒーは、美味しいからね。」

ルドガーは、何とか何時もの自分らしく冷静にを居ようと心がけたが動揺している所為で冷静になる事叶わず

デスクの上に置いたカバンに手が当り落してしまう。

「どうしたんだい?」

ルドガーの様子に違和感を感じ不動博士が声をかけながら落ちたカバンを拾とした。

「あっ・・・いえ・・・何でも無いです。」

慌ててカバンを拾うが手が滑ってしまい再度落すがその際中身がバラけてしまい綺麗にラッピングされたチョコ

まで姿を現した。

「君らしくないなぁ。」

そう言いながらカバンの中身を拾う博士は、綺麗にラッピングされた小箱を手にして

「しっかり貰ってしまったんだ・・・。」

それをルドガーに手渡す。

博士に勘違いをされてしまい焦るルドガー。

彼の口を思わず突いて出たのが

「違います。これは、私が博士の為に作ったんです。博士の事が好きなんです!!。

怒鳴るような大きな声。

予想していなかった告白。

顔を真っ赤にし強く瞼を閉じ必死に告白するルドガーの迫力に博士は、呆然とする。

瞼を閉じたままなので博士の表情が見えないルドガーは、告白をした事を後悔する。

もしこれが切っ掛けで嫌われたら?助手を解任されたら?相手されなくなったら?負のスパイラルに陥る。

唇に触れる不意に触れる柔らかい感触。

「君が言う『好き』には、こう言う行為も含まれているのかな?それとも憧れだけの『好き』なのかな?」

間近に見える博士の顔。

ルドガーの思考回路が停止する。

しかしルドガーの思考を停止させるだけでは、なく彼の筋肉を緩和させる効果があったのかルドガーは、尻餅を

ついてしまう。

両手で躰を支え何とか後ろに倒れる事は、防げたが・・・。

「もう1度君に訪ねるよ。君が私を『好き』と言うのは・・・」

博士が全てを訪ね直す前にルドガーが博士の躰を抱き寄せ。

「貴方に嫌われたく無い。貴方の傍に居たい。貴方の声を傍で聞きたい。貴方の姿を見つづけたい・・・それが

今迄の私の願いであり幸せだったのです。」

強く・・・力強く抱きしめる。

博士の耳元で力強く自分の気持ちを伝える。

しかし博士の口を突いて出たのは、

「私の問いの答えになってないよ。」

だった。

自分の気持ちを伝えたのに・・・博士に伝わってない?

「私は、君が言う『好き』には、こう言う行為も含まれているのかな?それとも憧れだけの『好き』なのかな?と

問うた筈だが?」

強く抱きしめられているのに・・・その事に苦情を言わない。

「・・・っそ・・・それは・・・」

これでもかって言わんばかりに真っ赤になるルドガー。

そんな彼の彼の躰を押しやり少し離れると不安そうに見つめて来る。

捨てられる事に怯える子犬?否 ルドガーの体格からにして大型犬なのだが・・・。

博士は、ルドガーに先程手渡したチョコを取り上げると包装紙を破り箱の中に入っているチョコを1摘まみ取ると

ルドガーの唇に咥えさせそっと自分の唇を重ねる。

度重なる博士の奇行に翻弄されるルドガー。

既に彼の脳内は、止まっている。

 

 

理性が溶けていく・・・

 

 

呼び起こされる本能・・・

 

 

唇の間で溶けるチョコ

 

 

博士の顔が離れ様としている

 

 

離れさせない・・・

 

 

博士の後頭部を掴むと自身の舌を博士の口腔内に突き入れ激しく絡める。

激しく自分より細い躰を抱きしめそのまま床に押し倒す。

自分の気持ちが躰がキス以上を求める。

しかしそれ以上に進めない。

「ルドガー。私の質問には、行動では無く言葉で返しなさい。」

激しくキスをしたつもりなのに博士は、息を乱してない。

寧ろ冷静な表情で自分を見上げている。

「私の気持ちなんて口に出さずとも行動で解る筈です。」

「そうかな?だったら君には、口なんて・・・言葉なんて必要無いとでも言うのかね?」

「ええ・・・必要なんて無いです。」

「嘘だね。口や言葉が必要無いなんて有りえない。だったら君は、どうやって明日から私と会話をすると言うん

だい?筆談かね?だが食事をする上で口は、必要だよね?」

この人は、意地悪を言っている。

自分の気持ちなんて解っているクセに・・・。

言わせたいのだ自分の気持ちを・・・。

「私は、貴方とキスがしたいしSEXもしたい。貴方が私のモノになる事をどれだけ夢見た事か。貴方が好き

です。」

ウットリする様な夢心地。

博士からキスされるなんて・・・そして自分からもキスをするなんて・・・しかも今博士は、自分に組敷かれて

いるのだ。

この光景を何度夢見ただろう。

博士の一つ一つの言葉が可愛くて一つ一つの動作が愛おしくて全ての言動が自分を狂わせる。

 

ルドガーがキス以上の事をしようとした時

「これ以上は、ダメだよ。」

博士の人差し指がルドガーの唇に押し当てられる。

「博士?」

困惑するルドガー。

1つのイベントで初めて出来る行為は、1回だけ。今回は、キスだけだよ。」

意地悪そうな笑みを浮かべる。

 

まさかこんなサプライズが毎月続くのか?

出来る事なら7月7日には、博士の全てを頂きたい。

 

思いがけない出来事にルドガーは、胸を高鳴らせた。

 

博士の躰を抱きしめながら

「解りました・・・」

そう答えた。

 

夢が完全に叶うまで時間がかかるがそれまでの出来事が全てゲーム。

ゲームの始まりは、予想していなかった事から始まるもの。

思いもしなかった出来事から始まる出来事にルドガーは、楽しみだった。

終わりの見えない・・・終わりの無いゲームに・・・

 

 

---一方---

「兄さんちゃんと博士に渡せたのかなぁ?」

出張先に兄の身を案じるレクスが居ました。


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