卵の中の恋 -1-
ピィピィ・・・
淡いブルーの卵の中から誕生した可愛い子竜
綺麗なブルーの瞳は、スカイブルーの様に澄んで綺麗だった。
「そう言えば西家に子供が誕生したらしい」
「まぁどんな御子なのかしら」
リビングで寛ぎながら先日西家に誕生した子竜の話をしている
両親を横目にアメジスト色の瞳をした少年はハードカバーの本を
読書している
西家って確か俺達と同じ貴族階級の竜だったよな
頭の片隅でそんな事を考えていると
「クリティウスこれが先日西家に生まれた子竜だぞ」
「可愛いでしょvvv」
そう言いながら子竜のクリスタルに映ったビジョンをクリティウスに見せて来る両親
子竜に感心は無いが両親の勧めでクリスタルを渋々見てみると
そこに映し出されているのは可愛い子竜
しかも卵のカケラで作られたベッドでフカフカの敷布の上にチョコンと座りこちらを見ている
光景なのだ
残念な事に声まで聞こえない
きっと可愛い鳴き声なのだろうなぁって思わせる程の可愛い子竜
そんな子竜を見ながらドキドキと心音が高鳴るのを感じる
初めて感じる高鳴りにクリティウスは戸惑いを感じるものの
それは全く不愉快では無く楽しいモノだった。
きっと一目惚れなのだろう
心の何処かでそう思う
「父上 この子竜に名前は付いているのですか?」
初めて物事に関心を寄せる息子に驚きながらも
「この子竜の名前はティマイオスと言うらしい」
ティマイオス・・・まるで男の子の様な名前だなぁ
ティマイオスどんな大人に育つのだろう?
「この子が関心を抱くなんて」
「ああ・・・だがティマイオスは・・・だぞ」
「そんな事関係ありませんわ
西家には長子が居られますもの
それに西家には秘薬がありますわ」
「そうだな 西家の当主に話して御承諾を頂かなくてはな」
両親の肝心な言葉も耳に入らない程食い入る様にクリスタルを見詰めるクリティウス
大人になったらきっと素敵な竜になるだろう
そうなればオスの竜からの婚姻の申し出が殺到するかもしれない
クリティウスはティマイオスを見た目だけでメスだと思い込んでいる様だが・・・
しかもティマイオスが求婚される心配を今からしだす始末
「父上 西家に行く予定は無いのですか?」
どうしてもティマイオスに逢いたい衝動に駆られる
ティマイオスを自分の将来の伴侶にしたくティマイオスの両親にその旨を伝えたいのだ
それ程までに生まれたばかりの子竜ティマイオスに心奪われたクリティウス
将来の伴侶・・・ちなみに言わせて貰えばこの時のクリティウスは未だ5歳の子竜なのだ
クリティウスの両親は苦笑するしかなかった
「明後日 御祝いにいくつもりだがクリティウスも一緒に行くか?」
その問いかけに
「もちろんです」
と即答・・・
翌日・・・
「クリティウス クリスタルを見かけませんでしたか?」
母親が自室に居るクリティウスにクリスタルの在りかを訊ねて来ると
「あら・・・貴方が持っていたの?」
クリスタルを眺めているクリティウスの姿が
「あっ・・・母上申し訳在りません」
母親の姿を見
勝手に両親の部屋からクリスタルを持ち出した事に罪悪感を感じる
「かまいませんよ もしかしてティマイオスを見ていたのですか?」
クリスタルに映るティマイオスの姿
しかしこの映像は、ティマイオスの両親から送られて来た映像をクリスタル内に記憶
させたモノ
今現在を映し出しているワケでは無い
(クリスタルには映像や持ち主の記憶を記録すると言われている)
しかも未だ子供のクリティウスには、クリスタルの力を引き出す事が出来ない
「明日には本物のティマイオスに逢えますよ」
「はい」
嬉しそうな我が子・・・
もしかして本当にティマイオスの性別を理解していないのでは?
と思わせる
「早くティマに逢いたいなぁ」
ティマイオスのビジョンを見て嬉しそうな我が子を前に苦笑せざる得ない
西家にはティマイオスの性別をクリティウスに告げない様言っておかなければ!!
そんな母心を知らないクリティウスは
大人になったら絶対ティマを俺のお嫁さんにするんだ!!
等と意気込んでいました。
翌々日
西家までの長距離を子供であるクリティウスでは飛行する事が困難なので父親の背に
乗せて貰っていた
屋敷の方は兄が留守番する事になっている
早くティマに逢いたいなvvv
逸る思いに胸ときめかせながら西家に向かう
そんな息子に両親は複雑な心境でしかない
「ようこそ西家へ どうぞ寛いで下さい」
西家の当主は鼻の下と顎に見事な髭を蓄えているがそれは、髭が無いと年のわりに若く見られるだ
少しでも年相応に見られたいらしい
その西家の当主に案内されリビングへ
しかしクリティウスは一刻も早くティマイオスに逢いたい
だが西家と東家の挨拶が済むまで両親の傍から離れられない
ましてや他人の屋敷・・・間取りが解らないのでティマイオスのもとへ行きたくても行けないのだ
逢いたくても逢えない もどかしい心境
落ち着き無くソワソワしているクリティウスに西家の婦人が
「いかがされました?」
と優しく訊ねると
「あの・・・ティマは?ティマに逢いたいのですが・・・」
「ティマに逢いに来てくれたの?御免なさいね ティマは今御昼寝中なの」
少し苦笑するティマイオスの婦人・・・ティマイオスの母親だったが
「ティマの寝姿でもいいので逢ってもいいですか?」
ここまで来て逢いたいと言う思いを抑える事が出来ないクリティウス
彼とてまだ子供なのだ
自分の欲には素直なのだ
「いいわよ こっちよ」
優しく手招きしてくれる婦人にクリティウスは着いて行く
東家と同じぐらい大きな屋敷
王国を東西南北に別れて守護しているドラゴンの一族
その一角 東側を守護しているのがクリティウスの一族で西側がティマイオスの一族
数百年前の戦争で北側の北家は全滅してしまい今は空席となっている
「ここがティマの部屋よ」
子供を一人にしておくなんて無用心かもしれないがそこはしっかりと結界を張ってあるので安全なのだ
しかもドラゴンの子供を狙おうなんてヤカラは早々に居ない
扉を開けて中に入ると
部屋の隅の方に半分に割れた卵が・・・
卵の淵はシルクの生地を可愛くあしらい子竜が怪我をしない様に工夫されている
「少しの間 ティマを見ててくれるかしら?」
そう言うと婦人は部屋から出て行った。
クリティウスが心臓をドキドキさせながらその卵に近づき覗くとスヤスヤと寝息を立てて眠るティマイオスの姿が
ミルクを貰っている夢でも見ているのか時折小さな口をモゴモゴさせている
柔らかそうな頬を人指し指に押してみるとプニプニしている
何回か押していると眉間に皺を寄せながら
ン〜ン〜と顔を左右に振り出す
そんなティマイオスを見ながら自ずと顔がほころんで来る
微かに動くまぶた
「・・・ピィ・・・」
小さく鳴くとまぶたが開きスカイブルーの瞳が覗きだす
「可愛い・・・」
眠気眼のティマイオスと思わず目が合う
「ピィ・・・ピィ・・・」
その声に誘われるかの様に指を指し出すと
ピチャピチャ
小さな手を添えられながら小さな口に含まれ吸われる
舌も微妙な動きをする
それがくすぐったい
「あら?ティマそれはミルクじゃないわよ」
そう言って婦人は哺乳瓶を片手に戻って来る
「御免なさいね ティマはお腹が空いているみたいね
貴方の指を哺乳瓶と思ったのかしら」
クリティウスに指しだされた哺乳瓶
「飲ませてみる?」
コクン・・・
思わず首を縦に振ってしまう
婦人は柔らかく微笑みながらティマイオスを卵の中から出すとクリティウスに近くの
ソファに座る様に指示を出す
そしてクリティウスの膝の上に横向かせるかの様にティマイオスを座らせながらミルク
を与える時の抱き方を教える
婦人の指示通りティマイオスにミルクを上げると美味しそうに
ングング・・・と喉を鳴らしながらミルクを飲み出した
「ティマが私以外の者からミルクを素直に貰うなんて初めてだわ」
それに初対面の人に警戒しないのも・・・
美味しそうにミルクを飲むティマイオスにクリティウスは、くすぐったい気持ちになる
「おお!!ティマが人からミルクを貰うなんて!」
西家の当主がミルクを飲むティマイオスの光景を見て感嘆の声を上げると同時に
「ティマよ!何故 父である私がミルクを上げても飲んでくれないのに他家の者から
のミルクは素直に飲むのだ」
思いもよらない言葉を発する
「クリティウスよ もう暫くティマにミルクを飲ませてくれぬか?
ティマは私がミルクを上げても飲んでくれぬ
しかもその愛くるしい姿をなかなか見せてくれぬ」
ティマイオスのミルクを飲む姿を嬉しそうに見つめる西家の当主
ミルクを飲み終えると婦人がクリティウスの肩に少し厚めの布地を乗せティマイオス
の顎をその布地に乗せると
「背中を軽く数回叩いてくれるかしら?」
「えっ・・・でも・・・」
「ミルクを飲み終えると背中を数回叩いてゲップをさせるのよ」