Fondness -1-
「はぁぁ・・・ううう・・・」
下肢を貫く熱い楔
声をあげ身を捩り体内に駆け巡る熱を発散させたい
「どうした俺に舞と唄を奉納するのではなかったのか?」
自分の躯を貫く男に突き上げられ揺れ動く腰
細身の躯に似あわぬ大きな胸を下から鷲掴みにされ
胸の飾りを痛い程摘ままれる
自分は、何故こんな事をしているのだろうか?
時折そんな事を思う
数日前
自分の生まれ育った国に大災害が起きた
洪水が起き街々が飲み込まれ多くの人が命を落とした
だが今度は水が干上がり田畑が枯れ疫病が流行したのだ
その原因は空を覆う大きな暗雲
占いをする者が一様に
『地獄の皇帝の怒り』だと言う
その怒りを鎮める為には、舞と唄を奉納すればいいのだが
神の怒りを鎮めるだけの舞と唄を奉納出来る名手なんて
早々に居ない
ただこの国の姫を除いて・・・
「兄さん 私が舞と唄を地獄の皇帝に献上します
私の舞や唄を気に入って怒りを鎮めてくれるのか解らないけど
このまま民を苦しめる事なんて出来ない」
「しかし明日香 それによって君まで命を落とすかもしれないの
だよ?」
「民があっての国 民があっての王族です
民の命を犠牲にしてまで私は生き延びたいと思いません」
だが明日香は来週には隣国に嫁ぐ身なのだ
妹姫の幸せを願う兄としては、この件に関して妹姫に関わって
欲しくなかった。
だがこの妹姫は一度決めた事をなかなか覆す性格では無い
兄王は民の命と妹姫を天秤にかけ苦渋の選択として妹姫を
差し出す事に決めた。
2日後『地獄の皇帝』に舞と唄を奉納する日が決まる
くしくもその日は妹姫明日香が隣国に嫁ぐ日だった
日取りが決まれば奉納の舞の時に着る衣装を決めなければならない
舞を舞う以上動きやすい衣装を用意するのだが余りにも簡素な衣装
を身にまとうワケにはいかない
奉納する相手が神である以上・・・
衣装を用意する傍ら明日香は舞と唄の練習を欠かす事無く行う
自分の唄と舞で神の怒りを鎮めなくてはならないからだ
失敗は許されない
奉納当日明日香は仕立てられた真新しい衣装を身にまとい
森の奥深くにある古木の前に兄王と数名の近衛隊と女官数名と来ていた
「兄さん心配しないで神の怒りを鎮めたら必ず戻って来るから」
心配顔の兄王に笑みで言う明日香
その心は恐怖でいっぱいだった
「明日香・・・元気で・・・」
本当の事は言えない
奉納の出された者は生きてこの地に戻って来れない事を・・・
奉納された者は生贄でしかない事を・・・
それを知らない最愛なる妹
女官達は各々涙を流し言葉少なく明日香に挨拶をする
未練が残れば行き難くなるので簡単に挨拶を終えると明日香は古木の前まで
歩を勧める
すると古木から異空に繋がる扉が開き中から背の小さい眼鏡をかけた少年が
姿を現した
「皇帝の命を受け御迎えにあがりました明日香姫」
「行きましょう・・・」
神の御前での舞と唄・・・
神殿で神像を前にして舞や唄を捧げるのとはワケが違う
神が直接御覧になる
余りのプレッシャーに足がすくむ
「魔城に着くまで僕の傍から離れないで下さいね
僕の傍から離れたら命の保証は有りませんので」
明日香を促す様にしながら古木へと姿を消す少年
明日香はその後を追う様に古木の中へと姿を消す
古木の前では泣き崩れる女官と声を押し殺し涙する近衛隊
それさえも耐える兄王が残された。
「皇帝とは、どの様な方なの?」
「眉目秀麗・冷静沈着かな」
そこに<冷酷非情>って言う言葉も追加して欲しい・・・
「ねぇ貴方の名前教えてくれる?
だって貴方は私の名前知ってるのに私が知らないなんておかしいわ」
ふぅ〜軽く溜息を吐く少年
「君は、これから魔界に行くんだよ?怖いって言う感情無いの?」
明日香から恐怖や緊張なんて感じない
それ故に不思議そうに訊ねてくる少年に
「怖いわよ・・・怖いからそれを紛らわそうとしてるんじゃない・・・」
黙っていると恐怖に足がすくんで前に進めないかもしれない
だから喋って気を紛らわせようとしているのだ
「僕の名前は翔・・・」
「翔・・・良い名前ね 私が魔界に居る間仲良くしてね」
「???」
不思議そうな表情を崩さない・・・寧ろ更に不思議そうな表情をされる
「一応 僕が暫くの間君の身の回りの世話をするように言い付かってるよ」