Fondness -2-

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魔城に到着後すぐ皇帝の会えるとばかり思っていたが

通されたのは個室

「僕が呼びに来るまでここで休んでるといいよ」

そう言って翔は部屋を後にした。

一人部屋に残され心寂しい状態になる

せめて話し相手ぐらい欲しいものだ

そこへ現れた黒猫

「あら・・・貴方は?お城によく遊びに来ていた・・・」

何時の頃か忘れたが時折城に遊びに来ていた黒猫

遊びに・・・とは言っても誰かにじゃれるワケでも無い

ただ城に来ては明日香の唄を聞いていただけ

唄が終わると何処かへ行ってしまう・・・気まぐれな存在

「ねぇ・・・少し話し相手になってくれる?」

言葉が話せない動物を相手に会話なんて成立しないが

少しは気が紛れると言うもの

「私 ここに舞と唄を皇帝前で披露するの

そうする事で国に降りかかっている災害を治める事が出来る

らしいのよ・・・ 御役目が終われば私は、また兄の下に戻る

のだけど今度は隣国に嫁がないとイケナイのよ」

何時もは距離を保っていた黒猫

それなのに今日は明日香の膝の上で丸くなり

そのしなやかな躯を撫でさせている

「私 嫁ぎたく無いの・・・

だって嫁ぎ先の王様には正妃を含め5人の妻が居るのよ

私は6番目の妻・・・

私の我がままかもしれないけど私は1人の人に愛し愛されたいの

でも私の生まれ育った国は、大きく無いしそれ程武力だって強く

無い・・・強国と政略結婚により国を守るしかないのよ」

国を守る為だけに好きでも無い男に嫁ぐ

しかも相手の王は自分とは孫程の年が離れているのだ

「初めての相手は好きな人としたかったのに・・・

猫ちゃんが人間だったら私の最初の人になって欲しかったけど」

好きでも無い相手が初体験相手だなんて

しかも<おじいちゃん>と呼んでもおかしくない年の差

まぁ・・・猫に言った所で人間の言葉の意味なんて解らないだろう

そんな気持ちで最後の言葉を言ったのだ

「ここの皇帝ってどんな方なのかなぁ〜

翔って言う子が眉目秀麗だって言っていたけど美的感覚は人間と

同じなのかなぁ?」

種族によって美的感覚は違うと兄が以前言っていた

しかも同種族でもその感覚は違うとも言っていた

我が国で通用する事でも他国では通用しない事も・・・

暫くして黒猫は軽く伸びをすると明日香の膝から降りもと来た

場所から姿を消した。

コンコン・・・

「明日香姫こちらへ」

翔が正装して明日香を迎えに来た。

この後 皇帝の御前で舞と唄を奉納する

もしお気に召されたら国に降りかかっている災害が収まり

もとの活気溢れる国になるだろう

もしお気に召されなかったら国は滅ぶしかないのだ

そう思うと足元から震えが出てくる

 

大きな扉の前

「この扉の向こうが大広間

姫が舞と唄を皇帝に捧げる宴の場所

解っていると思うけど変な気は起こさないでね」

翔が言う<変な気>それは皇帝暗殺の事を言っているのだろう

神を相手にそんな気を起こす人間なんて居るのだろうか?

居るとしたら無謀な事だ

 

胸元に手を当て祈る様な気持ちでうつむく

そして意を決したかの様に顔を上げ目の前の扉を見つめる

ゆっくりと開けられる扉

微かに聞こえる喧騒

完全に開け放たれると翔は大広間に足を進め明日香もそれに

続く・・・

何度も兄の名代で他国に訪れ

その度に大広間や謁見の間に通され場慣れしていた筈なのに

相手が神だと思うと心臓がドキドキと高鳴り

息が出来なくなる

このまま逃げ出したい心境だ

「皇帝陛下 明日香姫を御連れしました」

恭しく頭を下げる翔

明日香は、その後ろで両膝を床に着け頭を下げる

{神の声が掛かるまで決して顔を上げてはならない・・・}

そう神官から聞かされた

神に対する侮辱行為だからだそうだ

「御苦労だった翔  よくぞ参られた明日香姫

面を上げられよ」

その言葉に明日香は顔を上げ神を見る

グリーン系の髪と瞳・・・

 

そう言えば・・・この神は元々緑を司る心優しき神だと聞いた事が

ある

そしてこの神は魔界では無く天界に住んでいたのだと

天に居る時 神々の気まぐれで起こされる天災に怒り抗議をし

人間を守った事で天界を追放され魔界に住んだとか

そしてこの神を慕う幾多の神々もまた魔界に居住を移したと・・・

何故そんな神が我が国に災害を起こしたのだろうか?

魔界に長く居たから?

知りたい・・・

 

笑みを浮かべる神・・・

まるで自分の考えを読まれた気がして来る

「明日香よ お前がココに来た理由は、お前自身解っているな?」

「はい」

「では我に捧げると言う舞と唄を見せ聞かせよ」

「御意」

そう言うと明日香は、立ち上がり

呼吸を整える為少し下を向く

 

兄さん・・・私頑張ります

だから兄さんも頑張って下さい


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