恋慕-1-

 


目の前に横たわる存在

 

壁一面をクリスタルで出来た室内

祭壇さえもクリスタルで出来ている

3000年前に眠りについた王・・・

その姿は、本当に3000年に眠りについたのか疑いたくなる

干からびたミイラではないからだ

まるでつい先程眠ったかの様に想える

程よくついている肉

触れてみれば柔らかい

服装にも痛みなんて見受けられない

見事なまでの手織物 

身に付けし宝飾品でさえ色あせる事無く輝いている

ただそれらを身に着けている存在に比べてしまえば大した

輝きでは、無いのだろうけど

 

海馬は、恐る恐る横たわる存在の鼻先に手を当てる

微かに呼吸をしている事が解り安堵する

胸元に耳を当てれば心音も弱いなりに聞こえて来る

 

 

イシズからアテム王の墓を見つけたと連絡が入った時は

疑ってしまった。

アテム王は3000年前に闇を封じその後深い眠りについた

その魂は、千年パズルに入り封じた闇が目覚める事を阻止

していたのだから

その闇を今世紀に入り新たな仲間と共に暗黒の世界に封じ

役目を終えた王は冥界に戻った。

ヤツ自身復活ではなく転生の道を選び歩んだのだ

それなのに・・・

今目の前に居るのは紛れも無く遊戯そのもの

海馬は、自分が着ていたジャケットを遊戯の上半身に被せると

抱き抱えクリスタルで出来た室内から出た

それと同時に崩れる室内

ただ王を眠らせる為だけに存在し役目が終えれば姿を消す

 

「瀬人 ファラオをどうする御つもりです?」

ここまでの道中を案内してくれたイシズに

「これは、俺のモノだ 俺の手元に置いておく」

「もう一人の<遊戯>には、知らせないのですか?」

「知らせる理由なんてない」

それに遊戯が目覚める確信なんて今の状態では無いのだ

余計な心配をさせるつもりも更々無い

「では、ファラオが御目覚めになられたら一度挨拶に伺わせて

もらいます」

「好きにしろ」

 

カイロ市内にある一流ホテル

海馬は、そのホテルの最上階にあるスイートに宿泊をしていた

ベッドに寝かせている遊戯

遊戯をクリスタルで出来た室内で見た時は嬉しさの余り気には

なら無かったが今・・・

 

元々華奢な躰だったが更に華奢になったような

微かに膨らんだ胸元

身に纏いし衣装

何処をどう見ても女の様にしか見えない・・・

確か武藤遊戯だった頃は男だったはず

過去のビジョンも男だった筈・・・なのに何故?

想い出したくない過去の記憶の中に答えが隠されていると言うのか?

認めたく無い!!自分に眠る3000年前の過去など非ィ現実的だ!!

頭を左右に振りながら否定するもそうねれば目の前に眠る存在でさえ

否定しなければならない

なんせ3000年前に生きていた人物なのだから

 

しかしながら自分を前にこの人物は何時まで眠っているつもりなんだ?

いい加減目を醒ましその真紅の瞳に自分を写し出してもらいたいものだ

そう想うと急に喉が乾く

遊戯に触れたいと気持ちが騒ぐ

抑えられない衝動に突き動かされるまま柔らかい頬に触れてみる

温かい・・・

生きている証に安堵する

少しずつ手を移動させ薄くて柔らかい唇を撫でる

唇を少し開かせ指を挿し込めば湿った生温かい感触に振れる

恐る恐るその柔らかい唇に自分のを重ねる

久しぶりの感触

フルフルと震えだす瞼

まさか童話同様王子様のキスで目覚めるパターンなのか!?

信じ難い現象に頭を抱えたくなる

まぁ・・・キスで目覚めるなんて夢物語なんですが遊戯の場合たまたま

タイミングがあっただけの事

微かに開く瞼の奥

潤んだ瞳は、紅く海馬の気持ちを昂揚させるに充分だった

 

目覚めてから少しばかり時間が経ち

遊戯は、海馬から手渡されたシャツを羽織っていた

「なぁ・・・海馬 なんでオレがお前のシャツを着てないとイケナイんだ?

別にさっきまで着てた服でも問題ないだろ?」

ソファに座り長い袖は、折られ

長い裾は、膝上まであった

小柄な遊戯には、大き過ぎる海馬のシャツ

「俺の前で非ィ現実的な衣装で居られたのでは不愉快だ」

あからま様な海馬の発言と態度に思わず吹き出してしまう

「お前 相変わらず独占欲が強いよな〜

まぁその独占欲がオレだけに向けられているのは、嬉しいんだど・・・」

「帰国の準備が整い次第ココを出発する」

「解った その時は見送りに行ってやるよ」

遊戯の発言に一瞬固まる海馬だったが

「貴様・・・もしかしてエジプトに残るつもりか?」

「・・・そうだけど・・・」

海馬の言いたい事が何となく解る・・・でも・・・

「ほら 国籍の問題とか戸籍の問題とかあるだろ?」

遊戯には、国籍も戸籍も無い

それ故に日本に渡れば密入国になってしまう

エジプトに居ればイシズが何とかしてくれると思った

遊戯にしてみれば他力本願は、嫌なんだが

「貴様は、俺と一緒に童実野町に戻るんだ」

「でも、オレ国籍も戸籍も持ってないんだぜ」

「それがどうした?そんなモンどうとでもなる」

そんな発言に遊戯は、呆れてしまうがよくよく考えてみれば

海馬は、政財界に顔が利く

そのスジの人物に頼べばイイだけの事

まぁ・・・見返りを要求される可能性は有るが

「でもオレにはお前の様に苗字なんてのも無い」

「そんなモン 俺の姓を名乗っていればいいだろ?」

「でも・・・」

「それ以外にまだ何かあるのか?」

「あ・・・いや・・・別に無いぜ」

有ったとしてもこの男には通用しないと思った

きっと何が何でも連れて帰る気なんだ

「それにしても貴様が女だったのには、驚いたが・・・」

遊戯の向いの席に腰を降ろす海馬

<武藤遊戯>とニ心同体だった頃は、間違い無く目の前に居る

遊戯は、男だったのだ

そう何度も躰を重ねて来たのだから間違い無い

「その姿が貴様の本当の姿なのか?」

海馬が訊ねて来るのももっともだ

「お前がセトの記憶を持っているのならオレが女だと解ってる筈だぜ

オレがセトと夫婦だったのも・・・」

海馬の眉がピクッと反応する

「俺は、セトでは無い ヤツと混同するな

それに貴様がヤツと夫婦だったと・・・そんな話し俺の前でするな

不愉快だ」

機嫌を損ねた海馬は、まるで子供の様に目線を逸らす

「まるで子供の様だぜ」

軽く溜息を吐くと頬杖を付きながらボヤク

 

そう言えばセトもそんな所があったな

本とお前達は、似ているぜ

まぁ同じ魂を持っているのだから似るのは当然か・・・

 

思わず優しい表情をしてしまう

そんな遊戯に海馬は、冷静さを失いそうになるが何とか

気を逸らしながら





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