恋慕-2-
暫くして無事にエジプトからアテムをお持ち帰りした海馬
その表情は、嬉しそうだ
そして屋敷の方で出迎えてくれたモクバは、遊戯が女だと
知ると「姉さまが出来る!」と大はしゃぎ
だが海馬邸に来たものの遊戯には、これと言ってする事が無い
屋敷の敷地内から出る事が許されてないので<遊戯>達と
逢う事が出来ないのだ
しかも海馬は、遊戯と手を繋いだり抱きしめたりはしてくれるものの
その先の行為は全くと言ってイイ程無い
海馬にしてみれば傍に置いておきたい恋しい者が傍に居るのだ
手を出したいと思っているものの相手は女なのだ
どう扱っていいのか解らない
それに遊戯が男だったら高きプライド故に自分以外の男に心奪われる
事なんて無いと思うが女で有る以上誰に好意を抱こうが勝手なのだ
自分以外の男を選ぶかもしれない・・・
もしかしたら遊戯は、今もセトの事を想っているのかもしれないし自分は
その代わりなのかもしれない
もし行為の最中にセトの名前が出たら・・・と思うと流石の海馬もショック
でしかない
だから海馬は、穏やかに眠っている遊戯にしかキスが出来ない
この俺が・・・
こんな小さな存在が俺の傍を離れる事を恐れているとは
らしくもない
苦笑せざるえない
だがそれは、何故か心を甘い気持ちでイッパイにしてくれる
眠っている遊戯の髪を梳きながら
来週貴様の嫌いなパーティがあるがそれに俺と同行して貰うぞ
パーティ嫌いな遊戯
<遊戯>とニ心同体だった頃何度も同行させようと試みたものの
その都度逃げられたのだ
だが今回のパーティは、遊戯の国籍や戸籍等取得の為に煩わしい
連中に協力を求めた
そしてその見返りにパーティの出席を求められた
パーティと称した御見合いに・・・
そして海馬は悩んだのだ
女として遊戯を連れて行くのかどうか・・・
ドレスに身を包んだ遊戯は、さぞかし綺麗だろう
そしてそれに心奪われるのは、自分だけでは無い
その場に居た者は老弱男女問わず心奪われる
そんな美しい存在を自分のモノにしている優越感
だがそれは、遊戯を狙われる可能性だってあるのだ
まぁ・・・それを言えば男の格好をしていても同じ危険性が含まれるのだが
そんな苦悩を知らない遊戯は、夢の中・・・
翌朝 海馬と遊戯とモクバの3人で朝食を取っていると海馬は、来週行われる
パーティの事を切り出した
「・・・解ったぜ・・・」
不承不承であるものの遊戯からの承諾
遊戯に理由なんて不要だった
解っているから・・・
「兄さま オレ今日は学校に行ってから会社に行くね
行ってきます!!!」
そう言うと急いでランドセルを背負って玄関に・・・
「そう言えばモクバってまだ義務教育中なんだよな」
頭の回転が早く大人顔負けの発言に行動力
彼が義務教育中の子供である事を忘れさせる
「海馬もそろそろ出勤準備しないと」
「ああ・・・」
その前に食後の歯磨き・・・
人と逢うのに食べ物の臭いをさせるワケには行かない
玄関先まで遊戯に見送って貰い出社する海馬
メイドの一人が急いで来るものの
既に車は、出た後
息を切らしているメイドに
「そんなに急いでどうしたんだ?」
「遊戯さま 先程テーブルの上を片付けていたら・・・」
手渡され茶封筒
封をされてないので少し中を見たら重要書類らしく
右上に『重要』の印が押されている
海馬のヤツ こんな大事な書類を忘れるなんて・・・
「大門 オレこの書類を届けてくるぜ」
「しかし遊戯さま・・・」
「それにたまには、外の景色も見たいんだ」
ココに来て遊戯が見ているのは海馬邸の敷地内だけ
門をくぐる事が出来ないのだ
「解りました 遊戯さま
お気を付けて行って来てください」
「大門さま・・・」
「いいのです」
大門は、感じていたのだ
遊戯の魂は決して捉える事も囚われ事も出来ない事を
それは、本人が望まない限り・・・
瀬人とは別の高貴故にか
剛三郎とは別の畏怖故にか
何者も近付けない不思議なオーラを身に纏いながら風の様に自由な存在
遊戯さま このまま瀬人さまの御傍に留まっていて下さい
遊戯は、書類をカバンの中に仕舞い込みながらバスに乗り海馬Co.へ
ボンヤリ車窓を眺めていると
「ねえ 君一人?俺達と遊びに行かない?」
乗りの軽そうな数人の男達に声を掛けられる
前にも同じ様な事があり意味が解らないまま相手に連れて行かれそになった
その時は、海馬が現れ事無きを得たが
後で散々文句を言われる羽目にあったのだ
その事が脳裏に過ったのと今の自分は、大事な用事があるのとで
「用事があるから断る」
と言い相手を無視する事にした
「そんな事言わずにさぁ〜」
腕を掴まれそうになり相手を睨んでしまった
遊戯は、気が付いてないが遊戯が睨んだ瞬間周りの空気が変り
その場に居た全てのモノを威圧したのだ
<武藤遊戯>だった頃には無かった闇の力とは別の力
その身に染み込んだ王としての力が・・・
男達は、冷や汗を無意識の内にかきながらその場から逃げ出したい
心境に陥る
運転手だって心臓は、ドキドキものだっただろう
程無くして見えてきた海馬Co,本社ビル
遊戯は、ブザーを押すとバスを降りそのまま何事も無かったかの様に歩き出す
遊戯が降りた時車内の緊張感が一気に消え所々で溜息が漏れたらしい
そうとは知らない遊戯は、海馬Co,の受付に居た
「遊戯さまお久しぶりです!!」
「久しぶり あっ・・・今海馬居るのか?」
「はい居られます 社長に連絡入れましょうか?」
「ああ頼むぜ」
<遊戯>とニ心同体だった頃何時もの様に社長室に入った
そうしたら重役と仕事の打合せ中だったのだ
異様な空気に思わず逃げ出しそうになった
磯野が気を利かし別室に案内され社会人としての必要最低限の
常識を教えて貰った。
その時の無知さに恥かしかった
ピィー
「何だ?」
[遊戯さまが御見えですが御通ししても良いでしょうか?]
女性秘書の声
「ああ 通せ」
遊戯が会社に?何の用で?
あれ程屋敷敷地内から出るなと言っておいたのに
遊戯がこの世に戻って来てから初めての外出
何故か嬉しい
程なくして聞こえて来たノック音
入室を促すとヒョッコリと顔を覗かせ辺りを伺う遊戯
海馬以外居ない事を悟ると室内に入ってくる
「別にそこまで警戒しなくても今は俺以外誰も居らん
まぁ居るとしたら貴様だけだ」
もし大事な話中なら秘書達に別室に案内されている頃なので海馬以外
この部屋に誰も居ない事は容易に解るのだが以前が以前だけに警戒してしまう
「それにしても貴様から会社に来るとは・・・何の用だ?」
クリーム色のロングコートにベージュのパンツ
首元には、カシミアのマフラー
マフラーのお陰で中の服のまでは、解らない
海馬が遊戯に買い与えた服にデニム系の衣服は一着も無い
海馬が会社に到着して20分は、過ぎている
「お前の忘れ物を届に来た」
カバンの中から取り出された茶封筒
今朝方自分が読んでいた書類・・・
慌てて自分のカバンの中を確認すると入ってない
「大事な書類じゃないのか?」
今日の午後に会議で使う予定の書類
「磯野にでも届けさせれば良かったのに」
「会社との往復時間を考えたら時間の無駄だぜ」
確かに遊戯の言う通り
往復分の時間を仕事に換算すればある程度片付くだろう
「貴様は、この後どうするんだ?」
当然帰宅するものだと思ってた
「これから出かけるんだぜ」
そんな遊戯の発言に海馬の眉がピクリと反応する
「出かけるだと? まさか相棒だの凡骨だとの下らんヤツ等と逢うと言うのか?」
呆れた表情をする遊戯
「あのさぁ 城之内君は凡骨じゃないぜ
それにオレが男友達と逢うのを嫌うと思って舞や杏子・静香ちゃんしたんだぜ」
本当は相棒達とも逢いたいと言う気持ちを言外にして
「じゃぁ〜行って来るぜ」
そう言うとそそくさと扉を開ける
「ゆう・・・」
バタン・・・
無情にも海馬が声を掛けるとほぼ同時に締まる扉
これが原因で海馬の機嫌は急降下
海馬に直接仕える部下は冷や汗モノだった