恋慕-14-

 


書斎に足を踏み入れたが遊戯の姿が無い

メイドのあの様子からにして遊戯が書斎に居るとは思えなかったが

海馬は、寝室の方に足を向ける事にした

昼間だと言うのにカーテンが引かれ薄暗くなっている室内

微かに差し込む日差しに写し出されたのは器具に吊るされた点滴

 

「どうだった?」

少し弱いが遊戯の声がする

「海馬が帰ってきたんだろ?」

返って来ない返事に遊戯は気になり少し身を起す

 

自分を遊戯の表情が驚いている

だが自分を写し出している紅い瞳には怯えた色が写し出されいる

身を堅くし視線を反らす遊戯

「お・・・お帰り・・・あっ・・・まだ・・・仕事中なんだよな」

忘れ物を取りに帰ってきたんだよな・・・

 

時計を見ればまだ帰宅するには早い時間

 

細い腕に繋がる点滴の管・・・

前々から細いと思っていた腕が更に細くなっている様に思える

 

腕を伸ばし抱きしめようとすると亀の様に首をすくめる

まるで怯えている子供の様に

「遊戯・・・」

海馬は遊戯の顔を両手で挟み込むように包むと自分の方に向かせ

「何故 そんなに怯える?」

優しいく訊ねるがその蒼い瞳には、不安の色が見え隠れしている

無理矢理海馬の方を向けされた遊戯

海馬の片頬が少し赤くなっている事に気付く

誰かに叩かれた痕

舞に?と思ったが震える手で触れてみれば熱い・・・

つい先程叩かれた様な熱さ

もしかしたら・・・

「お前 あのメイドを解雇するのか?」

自分の身の回りを世話してくれていたメイドの姿が浮かぶ

「ああ・・・己が主に手を上げたのだ当然だろ?」

怯えていた紅い瞳が閉じられゆっくりとした口調で

「彼女が出て行くのなら オレもこの屋敷を出て行く

彼女は、オレの為にいろいろと尽くしてくれた お前に手を上げたのだってオレの為だと思う」

「だから貴様も出てイクだと?」

落ち着いた口調だがその中に含まれているのは怒気

「俺が貴様を手放すとでも言うのか?貴様は、俺のモノだ手放したりしない

貴様が何処に居様が探し出し連れ戻す!」

強く抱きしめられ強く求められ嬉しいと思う

「その言葉 他の女にも言っているのだろ?」

「?」

「オレは、つくづく馬鹿だよな・・・オレの本当の姿を否定され存在までも無かった事に

されようとしているのに・・・

そんな酷い奴をセトの事思い出せないほど好きになるなんて・・・

海馬 オレはお前の邪魔になりたくないしお前に迷惑をかけるつもりも無い

だからオレを捨ててくれ」

決死の思い

肯定されるかもしれない

別れたくない・・・

でももう限界だった

これ以上海馬の傍に居れば本当に離れられなくなる

それに自分の感情故に彼を手に掛けるかも知れなかった

自分の感情を抑えていられる内に別れてしまおう

そして彼の迷惑にならない様に自分が居るべき世界・・・冥界に帰ろう

「!」

最後の方は絞り出される様にして言われた言葉

「遊戯 貴様なんて言った?」

「オレを捨ててくれ・・・」

何でこんな言葉を2回も言わないといけないんだ?

「その前だ!」

「お前の邪魔にもなりたくないし・・・迷惑・・・」

あれ・・・?声が上手く出ない目の前が霞む・・・

「その前・・・」

「うっ・・・セトの・・・こと・・・思い出せない・・・お前の事・・・好き・・・んて・・・」

嗚咽混じりで途切れ途切れ

それでも何とか最後まで言いきれた

「セトより・・・貴様の前夫より 俺の事が好きなんだな」

「う・・・ん・・・」

「俺の事が好きなんだな?」

「うん・・・」

強く抱きしめられる

揺れる点滴

「貴様は、俺のモノだ・・・貴様の持てる全てが俺のモノだ」

「それでもお前はオレのモノじゃない・・・」

お前は舞のモノ

「遊戯?俺は貴様のモノだ 何故その事を解ろうとしない?否定する?」

「お前が・・・朝女と一緒の車に居るのをみた・・・」

俺が女と一緒に?

しばし考えてみたが思い当たるフシが一つだけある

数週間前 遊戯が会社にフロッピーを届に来た日

あの日確かに自分の車に女が乗っていた

だがその女と何も無い

「遊戯 貴様が言っているのは孔雀舞の事では無いのか?」

ビックと震える躰

間違い無いと確信する

「あの女とは 貴様が気に病む様な事は何一つ無い

寧ろあの女に言われたのだ『何時になったら遊戯にプロポーズするの』かとな」

舞がそんな事を?

「貴様が言っている日も あの女は、俺が屋敷に帰宅していない事を知り怒鳴り込んで

来たのだ」

そんな・・・じゃ・・・オレの早とちり?思い違いの勘違い?

「何で・・・言ってくれなかった・・・」

「貴様が気に病むとは思っていなかった・・・それに貴様のその姿だってそうだ

別に否定したくてしているワケではない

不本意だがセトの記憶が言っているのだ貴様がファラオだった時

貴様はセトと初めて逢った時男の姿をし皇子として振舞っていたと

それに<武藤遊戯>とニ心同体だった頃もそうだ

俺の前でも貴様は男だったでは無いか?

それを急に「女になりました認めてください」と言われて「ハイそうですか」と簡単に受け入れられると

思うか?」

確かに海馬の言う通り人の記憶に刻まれたモノを簡単に認め切り替えるなんて早々簡単なモノじゃない

戸惑いと困惑が同居してしまう

「貴様の存在を無き者にしようとしているのでは無い・・・怖いからだ

外の世界を知れば貴様は俺の元を離れるかもしれない

他の男の元に行くかもしれない

それなら屋敷の中に閉じ込めておけば貴様は俺の元を去らないと思ったのだ

そう言えば貴様 俺が渡した携帯は、どうした?」

「屋敷に居るから要らないと思って・・・」

「あれは貴様と俺とを繋ぐ物だ 解約してないのなら電源を入れてもっていろ」

何故自分はこんな事を言っているのだろう?

でも言わないと自分が誰のモノかを教えておかないと目の前の存在は不安がって怯えて

それが元で俺の前から消えるかもしれない・・・

あれ程態度で示していると言うのに・・・

「じゃ・・・何故この部屋から出る事を許さない?」

「部屋を出る事を許さないのじゃない貴様がこの部屋を使うのなら屋敷内を今迄通り

散策すればいいと思ったのだ・・・それを貴様は勘違いをし自ら閉じ篭ったのだろう?」

「それじゃ・・・お前は今もオレの事好きなのか?」

急に視界が動き出す

トスン・・・

柔らかいシーツの上に両手を縫いつけられる感じで寝かされ

「早く良くなれ そして貴様の中に俺を挿れさせろ」

貴様を無理矢理抱けば・・・俺に嫌気を差し出て行く事を恐れたが俺の元を離れないと確信

した今 恐れる事は無い

「かいば!!!」

「俺は今迄禁欲していたのだ しかも自分で処理もしていない」

俺が満足するまで相手をしてもらうからな

 

額に落とされる優しい唇に込み上げる愛しさ・・・





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