恋慕-13-
「俺が何故貴様の様に何の取りえも無いヤツを傍に置くと思う?
貴様の存在が俺を脅かすからだ 強いては海馬Co.を脅かすのだ
そのために貴様を手元に置いている」
海馬の蒼い瞳が冷ややかに自分に降り注がれる
「だがその為に俺は、屋敷に迎えいれたい女を迎え入れる事が出来ない
貴様は俺にとって忌々しい存在」
「かい・・・ば・・・」
ああ・・・やっぱりオレは海馬にとって邪魔な存在なのだ
「だったらオレをあのままエジプトに置いておけばよかったんだ」
何でオレを連れてきた?
オレは、お前の邪魔をする気なんて更々無いのに
「海馬Co.を狙う輩からすれば貴様は貴重な存在
貴様を俺の監視下に置く事でそんな輩から海馬Co.を守る事が出来る」
貴様を幽閉しその存在を隠せば俺の邪魔をする奴は現れない
オレの存在がお前にとって邪魔なのなら
このまま冥界に帰ろう
「海馬・・・お前の手でオレを殺してくれ・・・」
悔いなく旅立ちたいから
もう流れる事は無いと思っていた涙が溢れ出す
彼の事が好きだから・・・
何時から自分は、こんなに弱くなったのだろう?
相棒と一緒だった時はこんなに弱くなかった
海馬といっぱい口論した
それこそ感情のままに・・・
しかし今のオレは、ビクビクして過ごす毎日
ああ・・・あの時は自分を見放す存在が無かったから
何時でも誰かが手を差し伸べてくれていたから
強気で居られたんだ
でも今は、その逆なんだ
泣き叫んで自分の想いを吐き出せたらどんなにいいだろう・・・
「俺の手を貴様の血で汚すつもりか?煩わしい
自分の始末は自分でつけろ」
冷ややかな瞳に写る自分の惨めな姿
踵を返すと海馬は遊戯の前から立ち去る
その先には孔雀舞の姿
舞は自分にヒラヒラと手を振りながら海馬の腕に絡み付く
「・・・か・・・い・・・」
涙を流し魘され汗まみれの遊戯
その涙と汗を拭きながら
遊戯さま 余ほど辛い夢を見ておられるんですね
時折「かいば」って言っておられるけど・・・
結局遊戯に逢う事無くモクバは会社に出社する事になった
きっと兄は自分に遊戯の事を聞いてくるだろう・・・だけど遊戯に逢ってない事を
何と言おうか困り果てていた
何度も遊戯の携帯に電話をかけているのに出ない事とメールを出しても返事が返って来ない
事に疑問を持っていた海馬
モクバが出社したと聞いて早速副社長室に自ら足を運んだ
兄の急な来訪に慌てるモクバ
間違い無く兄は自分に遊戯の事を訊ねると感じた
そして危惧していた通り
「遊戯は、どうしていた?」
「えっ・・・あっ・・・オレが帰宅した時は、既に寝ていただんだ
何でもジグソーパズルに集中し過ぎて疲れてしまったんだって」
モクバだって遊戯がジグソーパズルをやっていた事ぐらい知っている
それに本当の事は言えない
海馬も遊戯がジグソーパズルをやっているのは知っていた
遊戯のとんでもない集中力の事も・・・
だから疲れて眠ってしまうのも肯けるのでそれ以上モクバに追求をしなかった
しかし何故かモクバが本当の事を言っているとは思えなかった
それはデュエリストの感なのか・・・それとも遊戯の事を想う自分の心からなのか・・・
モクバの言葉の節々に違和感を感じていた
CM撮影も終えている自分が手助けする様な事は、全て終えた
後はモクバと企画スタッフでも出来る内容ばかり
「モクバ 後はお前と企画スタッフで何とかするんだ」
「???兄さま」
「俺は一度屋敷に戻る」
「!!」
そう言うと海馬は磯野に車の手配を命じた
これに慌てたモクバは、急ぎ大門に連絡を入れる
車中
久しぶりに逢う遊戯に想いを馳せる
あの美しい真紅の瞳を見たい
自分だけに向けられる瞳を
あの華奢な躰から香る甘い匂いを堪能したい
あの華奢な躰を抱きしめ温もりを感じたい
・・・
まだ躰を重ねた事が無いのに自分の雄が反応する
本当は、躰を重ねたい・・・
『少年』と遊戯が呼ばれた時 自分は何故否定しなかったのか
今も海馬の心に引っかかる
間違い無く自分の心の何処かに『遊戯が男だったら』と言う気持ちがあった
遊戯が男だったらその気高きプライド故に自分以外の男の元に行かないと言う想いがあった
しかし女だったら自分以外の男の元に行くかしれない・・・そんな恐怖があった
そんな気持ちが『少年』と言う言葉を否定させなかった
屋敷に戻った海馬
まだ昼過ぎ
主の早い帰宅に大門は出迎える
「大門 遊戯は?」
「遊戯様は御部屋に居られます」
海馬の部屋の前にはメイド達の姿が
「瀬人さま お帰りなさいませ」
綺麗な御辞儀で挨拶をするものの部屋の前から動こうとしない
「そこを退け」
冷ややかな落ち着いた声
メイド達は見を堅くし首を左右に振る
「そこを退け」
「瀬人様 きっと遊戯様はお召し替えをされているのですよ」
何とか大門が声をかけるもそんな事 御構い無しに海馬はメイド達を押しのける
数分前寝室
薄っすらと目を開けた遊戯は
「か・・・いば・・・が帰って・・・きた・・・」
意識がハッキリしないまま傍にいたメイドに告げる
まさか・・・と思いながら時計を見ればまだ昼過ぎ
帰宅するにしても早すぎる
だが遊戯の感は鋭い
「遊戯さま 部屋の外を見て来ますのでもう少し御休みになって下さい」
そう言うと寝室を出て部屋の扉へ・・・
扉に耳を当てて外の様子を伺えば微かに聞こえて来る主の声
メイドはドアノブに手をかけゆっくりと扉を開ける
自分が開け様とした扉が開き驚く海馬
そこから姿を現したメイドに睨まれる
「貴様・・・」
そこまで言った瞬間小気味よい音と供に頬に感じる痛み
一瞬何が起ったのか解らなかった
しかし頬に感じる痛みとメイドの腕の位置からにして自分は頬を叩かれた事に気付く
「貴様 この俺に対して!!」
「痛いですか?でも遊戯様が瀬人様から受けた仕打ちは、こんなもんじゃない」
俺が遊戯に与えた仕打ち?
何の事なのか解らない
「ここでは遊戯様が心配されるかもしれないので」
そう言うとメイドは空部屋に海馬を連れて行く
余りの事に大門も扉前に居たメイドも唖然としてしまう
それは連れて行かれる海馬もだ
「貴様 この俺に対してこんな事をすればどう言う処分を受けるのか解っているのだろうな」
「解雇とでも言うのですが?上等です!あんな遊戯様を黙ってほったらかしにしているぐらい
なら言いたい事を言った上で辞めさせて頂きます」
自分に睨まれているのにも関わらずひるむ事無く意見してくるメイド
そのメイドは、海馬が気にて居る事もズケズケと言って来る
口が達者な海馬が反論出来ない
イシズと同じぐらいに苦手な相手と判断してしまう
しかし遊戯の事をこれほど迄に思っている使用人が居ようとは・・・
「それで遊戯は・・・」
メイドの話しを一方的に聞いていた海馬
「御自身で確認して下さい」
部屋から海馬と出て来たメイドは大門に何かしら言うと扉前に居るメイドに告げる
心配そうな顔をしながら扉から離れるメイド達
「これでいいの?」
「何時までも隠しておけるワケが無いから・・・」
何時かバレルなら・・・それにあの主が簡単に引き下がらないと思ったから