恋慕-12-

 


遊戯の事が気になり昼過ぎに様子を見に行ったメイドが見たのは

ソファの上で蹲る遊戯の姿

慌てて遊戯に近寄ると息が荒い

顔も少し赤い

額に手を当てれば熱い

 

メイドは遊戯を抱き抱えると何とか寝室に連れて行った

幾ら体重が軽いとは言え力の抜けた相手を運ぶのは大変なのだ

 

遊戯を横たえシーツをかける

一先ず主である海馬に連絡を入れようとその場を離れ様とした時スカートを掴まれた

「・・・かい・・・連絡・・・しないで・・・邪魔・・・したく・・・ない・・・」

苦しいのか途切れ途切れに訴えてくる

「大丈夫です 大門様にお知らせしに行くだけです

それと御医者様に御こしになっていただかないと」

出来るだけ笑顔を見せるメイド

不安そうな遊戯を出来るだけ安心させたいのだ

 

部屋を出ると急いで大門の元へ向い指示を仰ぐ

「ここは一先ず遊戯様の御言葉通り瀬人様への連絡は避けましょう

先生の方には連絡を急いで入れてください

それと何時でも水分補給が出来るようにと看護をする者を・・・」

 

 

暫くして訪れた医師

遊戯を診断した結果

「ストレスから来る体調不良です。くれぐれも安静にして上げてください

それと今は、ストレスがかからない様に気を着けてあげてください」

遊戯の前で告げられた言葉だったが部屋を出ると医師は大門に

「神経症(ノイローゼ)にかかって居られる様子です

このまま進行すれば鬱になられる可能性も否定出来ません」

と告げ安定剤と胃薬を処方した

 

 

 

「兄さま オレ一度屋敷に戻るね」

中々逢えない遊戯に逢うために・・・

「ああ・・・」

書面に目を通しながら返事する兄

 

兄さまは遊戯の事心配じゃないのかな?

 

車中でモクバは、どんな話しを遊戯としようか思案をしていた

海馬邸の門から出てくる一台の車に目が止まる

 

もしかして遊戯?

 

だがガラス越しに見えるのは医師の姿

遊戯の姿が見当たらない

 

もしかして・・・遊戯の身に何か?

 

屋敷内に入り遊戯が居る筈の兄の部屋に向うと部屋の前にメイドの姿が

まるで誰も入室させないと言った雰囲気を漂わせながら・・・

モクバが近付くと

「お帰りなさいませモクバさま」

綺麗な御辞儀をしてくる

「遊戯は居るのか?」

「はい」

「遊戯に逢いたいだからそこを退け」

子供ながら腹の立つ命令口調

「出来ません」

キッパリ断るメイド

「誰に向ってそんな口を聞いているんだ」

「例えモクバ様であっても御通しする事は出来ません」

ドアノブを隠すように立たれては簡単に開ける事叶わない

 

 

スヤスヤ眠る遊戯

その細い腕には痛々しさを感じさせる点滴針

殆ど食事を取らない遊戯に点滴を使って栄養を取らせているのだ

遊戯の額にあてがわれているタオルを交換する為に伸ばされたメイドの手

汗ばんだ遊戯の顔を軽く拭くと水の入った洗面器に浸し絞ると又遊戯の額に乗せる

 

 

「遊戯に一目逢うだけなんだぜ」

「遊戯様は御休みになって居られます」

「どうされました?」

メイド頭が余りの騒がしさにやって来た

「コイツが邪魔をするんだぜ」

「モクバさま申しワケ御座いませんが遊戯様は御休みになって居られます

余り大声を出さないで下さい」

咎められるモクバ『御休みになって居られます』以外

理由を聞かせて貰えない

イライラしてくる

 

自分の事何だと思っているのだ!

子供とは言え自分は、この屋敷の主の弟であり海馬Co.社長なのだ

 

感情のまま怒りながら自分の部屋に戻ると

次第に取り戻されて行く冷静さ・・・

使用人達は何を隠しているのか・・・

遊戯絡みだと言う事は解る

 

そう言えば帰宅時 門前で見た車

それに乗っていたのは医師・・・

まさか?遊戯の身に何か・・・

気になりは、するものの様子が確認出来ない

メイド達は一様に口を閉ざすだろうから

 

気になりつつも仕事疲れから眠ってしまうモクバ

朝目が覚めたらもう一度遊戯の居る兄の部屋に行ってみようと思っていた

 

 

しかし翌朝になっても遊戯の居る部屋の前にはメイドの姿

話しかけても「お答えできません」の一点張り

ただ「モクバさま これも遊戯様の御為なのです」と言われる

 

やはり遊戯の具合が何処か悪いのか?

 

気になり大門を問いただすと

「遊戯様の事についてお答えする事は出来ません

ですが瀬人様に御内密にしていただきたいのです

それが今の遊戯様の望みですから」

今の遊戯の状況を聞けば兄は仕事を捨ててまでも帰ってくるだろう

だけど遊戯の様子を報告しないと兄の手は疎かになり帰ってくる可能性だってある

ここ暫く兄は、遊戯に逢えずストレスを貯めこんでいるのだから

 

 

 

「・・・」

ボンヤリ天涯を眺めていると

「遊戯様 御目覚めになられましたか おはよう御座います」

笑顔で挨拶してくるメイドの姿

「ああ・・・おはよう」

自分の腕から伸びる管・・・

昨日の事を思い出そうとするが記憶が曖昧だ

「オレ・・・いったい・・・?」

「昨日お昼過ぎに御部屋に来ましたら遊戯様が苦しそうにソファの上で蹲っていた

そうです」

そう言えば昨日朝から少し躰の調子が悪かったんだった・・・

次第に思い出される

「御医者様に見ていただきましたら御風邪だそうです」

本当の事は言えない

使用人達で決めた口裏合わせ

宙に視線を漂わせながら

「海馬には言ってないよな」

「はい」

海馬に知られたくナイ

邪魔をしたくナイ

 

でもオレが海馬邸に居るのは海馬にとって迷惑なのかもしれナイ

オレが海馬邸に居る以上海馬は外で逢っている女を屋敷に迎え入れる事が出来ないのだから

 

今の自分は海馬にとって邪魔な存在で在り御荷物・・・

 

「遊戯様余り気に病まないで下さい

体調を崩している時は、心に隙が出来てしまいます

今は御身体をいたわって下さい」

と言いながらメイドはサイドテーブルの扉を開け何かゴソゴソとしだす

「遊戯様 お腹空いてません?

お腹が空くと碌でもない事ばかり考えてしまいます

今はお腹を満たしましょうね」

サイドテーブルの上に並べられたのは、即席麺・・・しかも御湯を注ぐだけでイイのばかり

「オレ・・・あんまり・・・」

食べたく無いと言いかけたが

「私の両親事ある事にラーメン送ってくるので部屋の台所は乾麺だらけなんですよ〜

あっこれなんてどうです?御野菜タップリですよ」

いろいろ並んでいる即席麺を見ていると

「あっ このカップラーメン相棒の家にもあった いろんな味が出ているんだな」

「このカップラーメン『とんこつ味噌味』は最近出たばっかりなんです

こっちのは地域限定品 それとこっちは期間限定品 これはオマケ付きみたいですね」

「でも・・・御湯は・・・」

「御心配無用です」

サイドテーブル横から電気ポットの姿が・・・

そして引き出しの中から割り箸・・・

主の部屋のモノを勝手に使ってイイのだろうか?

「瀬人様のサイドテーブルはアチラにありますよ」

遊戯の心の中を察したのか部屋の隅を指差す

「流石に勝手にイジレませんから」

何だか思わず吹き出してしまう

それと同時に鳴るお腹の虫

「遊戯様どれを召し上がります」

「そうだなオレは、その地域限定のを・・・」

「これですね ついでだから私は、こっちの方を・・・」

コポコポ・・・と注がれる御湯

何だか懐かしい

それに何だか楽しい

忘れていた感覚

遊戯の自然に出る笑みにメイドは魅せられてしまう

 

カップラーメンを完食した遊戯は薬を飲んだ後眠ってしまった。

 

メイドは今も心臓をドキドキさせている

何時も自分達が見る遊戯の笑顔は、何処か寂しく儚ささえ感じていたから

憂いをおびた笑みも綺麗だけど嬉しそうに楽しそうに浮かべる笑みは格段に綺麗だと思った

そしてまた見て見たいと・・・

 

空容器を手に室外に居るメイドに話しかける

「遊戯さまの御容体は、どう?」

「今さっきラーメンを召し上がられて眠られたわ」

「・・・あんた 遊戯さまにカップラーメンを食べさせたの?」

「懐かしいと言われながら食べられたわよ」

「そんな事よくやるわね」

室外で空容器を受け取るメイド

「あのさ・・・何時も遊戯さまって寂しそうな笑みを浮かべるじゃない・・・」

「そうね」

「でもね 楽しそうな笑みを浮かべる遊戯さまって綺麗だな・・・って思ったの」

「楽しそうな笑み・・・か・・・そう言えばこの御屋敷に来られてからそんなの見た事ないな

昔は良く見れたのに」

しみじみと思い出す





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