恋慕-11-
大企業の社長だと言うのに海馬の朝は普通の従業員と同じ時間に出社
下手をすれば従業員より早く出社する場合だってある
遊戯が海馬の部屋に連れ戻されてから3日程経つ
朝は海馬と一緒に食事を取るが海馬が出社した後は部屋に篭ってしまう
一度篭れば翌朝の朝食時間まで出て来ない
元々食が細い遊戯だったが部屋に篭る様になってから遊戯の食事は朝食のみとなった
今迄夕飯を供にしていたモクバも仕事が忙しい所為で帰宅するのが遅いと言うのもある
遊戯が組み立てていたノイシュバンシュタイン城のジグソーパズルは完成をしメイド達はジグソー
パズルのカタログを手に新しいのを勧めるが
「海馬の邪魔になるといけないから・・・」
と寂しそうな笑みを浮かべながら断る
メイド達の楽しみの一つである御着替えも断っている
一日中部屋に篭るのも躰に良くないので散歩を勧めるがそれも断ってしまう
ゲームをするのでもなくインターネットをするのでもなく書棚に在る本を手にとって読んでいる
解らない文字が在れば調べては居るが・・・
そんな遊戯の生活を海馬は知らない
彼が帰宅すると既に遊戯は就寝しているし日中の事は遊戯が使用人に口止めをさせているから
そんなある朝
「今日から暫く会社で寝泊まりをする」
との海馬・・・
新作ゲームに不具合が発生したのだ
モニターの時には見つからなかった不具合・・・
色の点滅に問題があったらしい
何とか発売日を延期する事無く片付けたいらしい
海馬には、一つの決意があったから
この仕事が一段落着いたら遊戯にプロポーズをすると決めていたのだ
そんな海馬の気持ちを知らない遊戯
「わかったぜ」
遊戯の心の中には、それを口実にもしかしたら海馬は女と逢うかもしれないと不信を抱いているのだ
それでも心の何処かでは海馬を『信じたい』と言う思いも在るから海馬邸を出ないで居る
翌日から朝食時にでさえ現れなくなった遊戯
朝食は一応部屋に運んで貰っている
クロワッサン1個とベーコンエッグに野菜サラダそして少し暖めたミルク
「食欲が無い」
と残してしまう状態だ
「大門さま このままだと遊戯様は御身体を壊してしまいます」
「遊戯様の食事に出来るだけを取っていただく様に進言してはいるのだが・・・」
やはり瀬人様に何とかしていただいた方がいいのかもしれない
だがそんな事をすれば・・・
せめてモクバさまの帰宅が早ければ・・・
「社長 遊戯元気にしてるの?」
社長室・・・連日の様に姿を見せる孔雀舞
受付けや秘書にはアポ無し客人は追い返す様に言っている
それなのに彼女は来る
受付けや秘書が止めるのも無視して
「フン・・・俺に聞かずとも貴様等は互いに連絡を取りあっているのだろ」
「そんな事してないわよ それに遊戯に逢いたくなって遊びに行く誘いメールをしてるんだけど
返信来ないし最近じゃエラーメールとして帰って来たりするのよね
だから社長に聞いてるの」
携帯を取り出しメールを打つ舞
海馬に聞けば遊戯の近況が解ると思ったらしい
だが海馬は最近帰宅していない
ゲームの不具合を改善する方を選んだから
そう言えば最近遊戯の声を聞いてないな・・・
急に湧き起る飢え
遊戯の声を聞きたいと思った
だが自分以外の人間が居る場所で電話をかけたくなかった
イメージがどうのこうのと言うわけでは無い
ただ茶々を入れられるのが不愉快なのときっと自分の電話を横取りされかねなかいから
遊戯との会話は誰からの邪魔を受けず自分一人だけで聞きたいのだ
心が狭いかもしれない
独占欲が強いかもしれない
遊戯と言う自分物を前にするとその全てを欲してしまうのだ 躰だけじゃない心までも・・・
孔雀舞が帰った後 遊戯の携帯に電話をするが全く通じない
何度かけてもだ
メールを出しても返事が帰って来ない
些か不安になり屋敷に電話をすると遊戯が在宅との事
遊戯に替わる様に言うが遊戯は昼寝中との事
時計を見れば昼前・・・
「遊戯さま瀬人さまから電話が入ってますが・・・」
「寝ていると言っておいてくれ」
「よろしいのですか?」
「かまわない・・・」
彼の邪魔をしたくないから
折角モクバが企画したゲームが完成まじかなのだから
今は邪魔したくない
遊戯は、俺に電話の一本も入れて来ない
俺の事何だと思っているのだ?
俺は、まがりなりにも貴様の恋人だと言うのに
その恋人の声を聞きたくないのか?
遊戯の声聞きたさにかけた電話だったが目的である遊戯の声を聞く事が出来なかった
胸の内に溜まる不平不満
そう言う自分は、帰宅する事なく仕事にかまけていると言うのに
何処までいっても自分本位でしか考えない海馬
早く仕事を片付けて遊戯に・・・
募る想いこのままだと抑えきれなくなりそうだ
目の前が霞む
意識が遠くなりそうだ
ソファに身を預けボンヤリしている遊戯
メイド達は、室内の掃除を終え
次の仕事に移っている
一人残された室内
その身は、次第に横に崩れて行く