Recollection(追憶)-9-
自分が力を求めるのはアテムを守る為
神の子にして宇宙に最初に存在したアテム神の名を戴く尊くそして唯一の存在
その存在に崇高な想いを抱きはしても私情を抱く事は許されない
ましてや自分の想いを告げるなんて死罪だろう
だがそんな相手に自分は想いを寄せている
叶わない恋だと解っているのに
今彼女は一人身・・・
もし婚姻の話しが上がればどうなるのだろう?
素性を晒し男と婚姻関係を結ぶのか
素性を隠したまま夜伽の時は、暗闇の中己が代理のモノに女の相手をさせるのか
それとも素性を知っている女を妾とるのか・・・
その中には自分は存在しない・・・
自分はアテムの想いを知らない
もしかしたらアテムは、自分の事を今尚親友と想っているだけなのかもしれない
彼女の行動から自分に対して主従とは想っていない事が解るから
だがその反面彼女が自分に対して恋愛感情を抱いていない事も・・・
彼女が好意を抱いているのは兄の様に慕うマハード・・・
自分では無いのだ
マハードに負けたくなくて勉学にも魔術にも剣技にも磨きをかけた
アテムを想う気持ちさえマハードに負けてない筈なのに・・・
どんなに努力してもマハードには叶わない
数日後 民の祈り虚しくアクナムカノンが崩御し70日後清められた身は、その後王家の谷で
眠りにつく
覚悟をしていた事とは言えアテムには泣く事が許されない
気丈に振舞っているアテムの姿が痛々しい
人前で泣けないから人知れず自室のベッドの上で泣いているアテム
出来る事なら俺の前では自分を曝け出し泣いて欲しい
事前に準備されていた戴冠式
父王を亡くしたばかりだが王としての職務は待ってくれない
戴冠式を終えれば持ち上がるのは結婚の話し
エジプトにおいて王位継承権は女性が持っている
王位継承権の持った女性と婚姻関係を結ぶ事で王として認められる
しかし今の王家にアテム以上に王位継承権を持った女なんて居るのだろうか?
アテムが女だと知らない大臣達は、王家とは親族関係にある娘を探す
親族とは言え遠縁では意味が無い現王家にもっとも近い親族・・・
王妃には無理だが側室に自分の娘を勧め様としてくる輩も居る
己が娘でさえ権力の道具でしかない
父王が何故自分を皇子として育てたのか何となくだが理解出来る
しかし今のアテムには結婚より行政の方を優先したい
病の床に伏したアクナムカノンの代わりに皇子の時から行政に関わっていたが背負う責務は
皇子の時と異なり重大になる
自分の言動一つで国の未来が変ってしまうかも知れないのだ
そんなアテムの姿に大臣達は、なかなか結婚の話しを持ちかけられないで居た
王として責務に追われる日々
夜になりその責務から解放され自室のベランダで夜空を眺めていた
今の状態が何時まで続くのか・・・
色濃くなる闇の障気 邪神復活が刻一刻と近付いている証
だが国を思い子を思ってその命で王都に結界を張ったアクナムカノン
その結界の効力は、少しずつだが弱まって来ているとは言え健在
その思いの強さにアテムは、父王同様自分も国の為民の為に命をかける事を誓う
マハード・・・今どうしている?
王の葬儀の時と戴冠式の時に戻って来たマハード
しかし式が終われば調査の為王家の谷に向った
「ファラオ・アテムどうされた?」
夜更けに王の部屋に来る者なんて彼ぐらいだろう
だからアテムは、声の主の方を見る事無く
「考え事をしていた・・・」
「僅かな自分の時間でさえ考え事ですか?」
「お前も気付いているだろ?ココ最近色濃くなった闇の瘴気の事」
その言葉に反応せざる得ない
「ええ・・・今は亡きアクナムカノン王が張られた結界によって王都は守られていますが・・・」
それが何時まで続くか
正直解らない
「もし邪神が復活したらオレは、その邪神を今一度封印する事が出来るのだろうか?」
神を倒すなんて事出来ないかもしれないだが封印なら何とか出来るかも・・・
「それは、何とも言えません」
しばしの沈黙・・・
「なぁ 何でお前は、オレに敬語なんて使うんだ?
今この部屋にいるのは、オレとお前だけなのに・・・」
最初にその沈黙を破ったのはアテムだった
自分が王になってからセトは態度を変えた
今迄親友として接してくれていたのに王になった途端主従関係になってしまった。
孤独になった気持ちだった・・・
否 元々孤独だったのかもしれない
「貴方は、この国の王・・・そして私は、ただの神官です」
身分と言う壁が自分達の間には有るのだ。
「オレは、オレなのに・・・」
呟く様に発せられた言葉
「何か言われましたか?」
その言葉はセトの耳には届いてない
「いや・・・別に何でも無い」
自分の気持ちを隠してしまう
「ファラオ これ以上夜風に当たっていては御身体に障ります
御部屋に御入り下さい」
セトに促され仕方が無く室内に入る
「なぁセト 久しぶりにゲームでもしないか?」
ファラオになってからゲームなんてしてない
気晴らしに・・・と思い声をかけてみるが
「連日の責務 それ故に疲れが溜まっているはず
早く御休みになり疲れを癒して下さい」
アッサリと断られる
セトにとって気遣っている事なのだが言われたアテムの心には微かな疵が出来る
「別に一回ぐらい・・・」
「明日もファラオとしての勤めがあるのです
影響が出ては」
「解ったぜ」
オレは、アテムじゃなく一国のファラオ
オレにはオレとしての意志なんて存在しない
オレは、国の御飾りでしかない
国の為に生き国の為に死す
解りきっていた事・・・
自分には、自由は無い事ぐらい
アテムは、寝所に向いながら溜息を吐く
気分転換したかった
セトとのゲームは他の誰とするより楽しくスリリングだから
イヤな事も忘れていられるのに・・・
何時も凛とした姿を見せるアテムが心なしか頼りない感じに見えた
アテムが寝所に入るのを見届けたセトは、アテムの部屋を出て廊下を歩きながら
俺は、貴方を守る神官・・・否 俺は、貴方を・・・アテム貴方だけを守る
他の者がどうなろうと知った事じゃない
自分には、幼い頃よりアテムだけなのだ・・・