Recollection(追憶)-8-
全ての日程を終えアテムは自室の戻る
連日に及ぶ政務に追われ心身とも疲れていた
しかしこれで泣き事を言えば自分が統治する時もっと泣き事を言わなければ
ならないかもしれない
ベッドに横たわりながらアテムは
セトは、オレの事どう思っているのだろうか?
オレを守るのはオレが王族だから・・・
それとも・・・
先日衛兵達がセトが女を囲っていると噂していたのを聞いた
セトが誰と付き合おうがセトの自由
自分とセトの間にあるのは主従関係と親友としての立場のみ
恋愛感情なんて存在してない
チック・・・胸を刺す痛みに寂しさを宿す
常々セトは「俺は貴様を守る神官だ」と言っている
職務だから自分を守ると・・・
オレは王族だから・・・やっぱり御飾りなんだろうなぁ
寂しい感情に支配される
セトの気持ちが知りたい
もしセトがオレの気持ちを知ったら迷惑になるんだろうな・・・
それ以前にセトはアテムが女だと言う事実を知らない
アテムは自分が女だと知った時セトにこの事を言おうとしたがアイシスに
「セトに教えてはなりません」
「どうして?」
「セトだけでは有りませんシャダやカリムそしてアクナディン様にも・・・です」
他言すればその者達の命は無いでしょ
と脅したのだ
大切な人が自分の所為で処分されかねない恐怖からアテムは自分の正体を他言
していない
それ故に事実を知る者は病床に伏しているファラオと宰相シモン世話係兼神官のアイシス
教育係兼神官のマハードのみ
アテムを取り上げた助産婦も暇を貰い王宮を去った乳母達は既にこの世には居ない
その事実がどれだけアテムを苦しめてきた事か・・・
もしセトに知られてしまえば彼とて無事で済まされないかもしれない
そんな苦痛を胸に抱きアテムは眠りに着いた
5日後-鴨狩り-
「アテム様ようこそおこし下された
さぁさぁアテム様がお乗りになられる舟はコチラに用意させていただきました」
しっかりした作りの葦の小舟
大臣はセトに目もくれずアテムを葦の小舟に乗せた
セトも別の葦の小舟に乗り込みアテムが乗る葦の小舟の傍に陣取った
屈強な男が数人ナイルに見を浸し葦の小舟を押し進む
生い茂る背の高い葦の間を潜り進むと
何も知らない鴨の群れ
舟に乗る者達は各々鴨追い棒を鴨めがけて投げる
アテムも鴨追い棒を投げる
数本投げられた棒の内1本は鴨に当たったのか水面に横たわる鴨の姿が
神への供物だと解っていてもその痛々しい姿に胸が締め付けられる思いがする
その時
「皇子!危ない!!」
1人の衛兵が大声を上げると
ガツン!!!
アテムの頭部に鴨追い棒が命中
そのショックからかアテムはバランスを崩しナイルへ
急ぎセトもナイルへと飛び込むが兵の誰もアテムに近付かない
否近付けないのだ
セトは、その事に苛立ちを感じた
感じはしたものの今病床に伏しているファラオが元気だった頃何が有ってもアテムに触れては
ならないと厳命されていたのだ
セトがアテムを助け出した時アテムは気を失っていた
額からは流れ出る血・・・
ナイルから上がるとセトは着いて来た女官にアテムの着替えを命じるが女官は
かたくなにそれを拒んだ
セトは女官からアテムの着替えと包帯を受け取ると簡易に設らえたテントに入る
皇子の一大事に誰も助けに行かぬとは何と愚かな事か
その原因を招いたファラオはアテムの事をどう思っているのだ?
アテムの濡れた衣服を脱がし胸元に捲かれている包帯を取り目にした事実に
セトは驚いた
今迄華奢な躰つきに違和感があったが男だと信じていた・・・
しかし目の前に居るのは男ではない女・・・
緩やかなカーブを描く胸
下肢には男なら有るべきモノが無い
その事実がどれだけセトにショックを与えた事か
それでもセトはアテムの着替えを済ませ頭部の傷の手当てをする
幸い出血は多かったものの傷事態それほど大きなモノでもない
外から聞こえる馬の蹄
きっと早駆けの馬が王宮に行き
王宮からアイシスが急いで来たのだろう
セトがテントから出ると思った通りの人物の姿が
「セト アテム様は・・・」
「気を失っている」
それだけを言い残しセトは衛兵の元へ
アテムを傷つけた犯人を探し出す為に
テントに入ったアイシスが目にしたのは着替えを済ませ治療されたアテムの
姿・・・
瞬時に悟った
アテムの秘密をセトも知った事を・・・
仲間であるセトを始末するかどうかシモンと協議しないといけない事を
結局犯人は見つからなかった
もし見つかったとしても「手が滑って誤って皇子の所に・・・」と言われるだろう
大方犯人のメボシが着いているが証拠が無いのだ
王宮に戻りアテムを鴨狩りに誘った大臣はシモンにアテムの容体を訊ね
無事だと知ると些か眉を歪めたらしい
当のアテムは王宮に戻る前に意識を取り戻していた
そしてアイシスから聞かされたのだ
セトが自分の秘密を知った事を・・・
アテムの胸を締め付ける
もしかしたらセトが・・・
嫌な光景が脳裏を掠める
そんなアテムの心境を知ってか知らないでかシモンから下された言葉は
「セトが秘密を盾に脅して来たら処分といたしましょう」
今は、一人でも欠ける事が出来ない
シモンの言葉でアテムは胸を撫で下ろす
そしてセトが自分達を威して来ない事を心の中で祈った
数日過ぎたがセトの態度は何時もと何等変り無くアテムの剣術に着き合ったり
口論も何時もの様にあったり
まるで何も知らないと言うような態度
もしかしたら本当に知らないのは?と思える程
アテムの秘密を知った時の衝撃・・・
どれだけセトを悩ませた事か
何故アテムは、自分に真実を話してくれなかったのか?
自分達の間にある親友としての立場は?
そう思いもした
だがもしかしたら言えない様にされていたら?
衛兵や女官がアテムに触れる事を禁じられている様にアテムにも・・・
そう思うとアテムに真実を問いただせなかった
アテムを守る力が欲しい
最愛なる者を守る力
その力を得るには・・・
セトの脳裏に浮かぶのは先日助けた娘 キサラの姿
あの娘が宿している白き幻獣が我が手に入れば・・・
アテムを守れるのに
しかし白き幻獣を手に入れるにはキサラの命を奪わなければならない
カーとバーの融合・・・
カーとバーを切り離せたら彼女の命を奪う必要も無いのだが・・・