Recollection(追憶)-7-
「なぁ・・・アイシス」
「はい」
「オレにも誰かを好きになる事が許されるのかな?」
アテムの穏やかな表情
その裏にどんな感情が隠されているのか解らない
「急にどうされたのです?」
「いや・・・不意に思ったんだ オレにも誰かを好きになる事が
許されているのだろうか?って」
男装をしているとは言えアテムも年頃の女の子なのだ
誰かに好意を抱いていてもおかしくない
だが目の前に居るこの少女は王族・・・
しかも一部の人間にしか知られていないが王位継承権保持者
なのだ
好きだの何だのとそうそう言える立場では無い
今は男で在る以上 男性を好きになる事は出来ないのだ
「どなたかお気になる方でも御出来になられたのですか?」
「解らない・・・でも時折女官が色恋の話しをしているのを聞いた
それに城の外でも・・・」
「まぁ 未だに供も連れずに城外に出られているのですか?」
シマッタ・・・と言う顔をするも後の祭り
「自分の国の事を把握するのも王族の役目だ
王は民が在っての王であり国だ」
アテムは、自分が何故男装をしているのか知っている
彼が10歳の時父王から真実を打ち明けられていたから
その事実を知った時どれほどのショックを受けたか
セトに打ち明け様と思ったでもセトは自分が女だと
知らない・・・知ってしまえば今迄通り接してくれるのか
解らなかったから
アテムの心にもセトに対して甘い恋心が芽生えていたのだ
その恋心を誰にも打ち明ける事無く小さな胸の内にしまっている
その想いを感じたのかアイシスの心は悲しく切ないモノが駆け巡る
もしこの方が真の姿で御成長されていたのならいかなる者を敵に
回そうが応援したのに・・・
もし民だったらこんな苦しく辛い思いをしなくてすんだもかもしれない
のに・・・
だがその反面アテムが男として成長したお陰で誰の手にも簡単に落て
いないのだ
「アイシス 話しが代わるが父王の容態は・・・」
「芳しくありません」
数ヶ月前からアクナムカノン王が病の床ついた
「王家の谷周辺に起きている奇怪な現象は」
「今マハードが調査中です」
「まさかと思いたいが・・・」
「可能性は無いとは言えません」
「・・・」
邪神復活・・・
アクナムカノン王は自らの命を王都を守る結界に使う事にしたのだが
王自身高齢ともあり肉体が追いつかず床に付いてしまったのだ
「父王が存命中になんとか解決したいのだが・・・」
ただの戦なら敵が目に見えその戦力も解るが相手が邪神とは言え
神・・・
その力がどれほどのモノなのか解らない
苦悩するアテム
そんなアテムに何の助言も出来ないもどかしさがアイシスには辛かった
「アテム様!」
謁見の間に行こうとするアテムを呼び止める声
アテムにとって無視したい相手・・・
「どうした? 大臣と言えどこの回路を王族の許可無く歩行する事は許されて
いない筈だが?」
何かとアテムに言い寄るり隙あらば命を狙ってくる
「次期ファラオともあろう方が闊達で無くてどうされる?
私は、ファラオの健康回復を願い神々の供物に捧げる鴨をアテム様と一緒に
取りに参ろうと思ったのですよ」
父上の健康回復?
それを隠れ蓑にしオレの暗殺を計ろうと言う魂胆なんだろ・・・
「それは、有り難い申し出 しかし今は父王の代わりに政務を行なっている身
私の一存で決めるワケには行かない宰相シモンと話し合ってみよう」
「おお!こちらこそ有り難き御言葉 出来ましたら出来るだけ早く萬の神々に
祈願したく5日後に鴨狩りを決行したい所存で御座います」
5日後・・・6神官の殆どが出払って居る時・・・
オレの身を守る神官がてうすの時を狙うとは、考えたな
「考えておこう」
そう言うとアテムは踵を返をしその場を立ち去った
恭しく頭を下げる大臣
俯いた顔は、口角を上げ{計画通りに事が運んだ}と確信を
した表情を浮かべていた
「アテム様 よろしかったのですか?」
「何がだ?」
「何が・・・って鴨狩りの事ですよ」
「ああ・・・その事かもしあの場で断ろうモノならファラオに対する不敬だと
騒がれかねないからなぁ」
その場を取り繕うのもどうか・・・と思いはしたものの
そう応えるより今の時点では得策が無かった
シモンからアテムに手渡された書
事前に質問内容が書かれている
書に一通り目を通すとアテムは王座に着き片手を上げ謁見者を入室させる
衛兵はアテムからの合図で1組づつ入室させる
アテムは、自分なりに的確に指示を出しその場で答えられないモノに関しては
別の場にて検討し返事を出す様にしていた
謁見に来るのは大臣であったり献上品を持って来た商人だったり諸外国の王の名代の
者だったり
質疑の内容も来る者によって多種多様
全ての謁見を終え質疑に答えられなかった内容に関してシモンや神官団と話しあう場へ
移動する
王家の谷に出かけているマハードとファラオの延命を祈祷しているアクナディンを除く4神官
と宰相シモンが一室に集まる
「・・・となります故 ナイルが氾濫する前に・・・」
「・・・では、その様に執り行うように監督官に指示するように・・・」
「アテム様 鴨狩りの事を・・・」
アイシスが言うと
「アイシスよ 今は、享楽に関する話しをしている場では・・・」
シャダに咎められるが
「大臣からファラオの健康回復の為に神に捧げる供物に鴨を差し出したいそうだ
その為にオレと一緒に5日後鴨狩りをしたいと進言があった」
5日後・・・神官達は各々顔を見合わせた
「皇子は何と答えられた?」
「ファラオの為と言われれば答えは決まっていよう
ただコチラとていろいろな政務が有り段取りが有る
何時行くかは答えて無い」
しかし大臣の事強行手段を使い5日後に鴨狩りを行なうだろう
「俺を皇子の護衛に着く」
このまま討議しても答えは変らない
そう判断したセトが同行すると言って来た
セト一人では些か不安を持ちつつも見出せない打開策
それ故にアテムの身辺護衛をセトに任せる事になった
勿論衛兵も同行するし女官も数名同行する