廻り逢い-4-
2人掛けのソファに遊戯を降ろすと当たり前と言わんばかりに海馬は、その横に腰を降ろす
海馬の前に差し出されるお茶・・・
海馬の屋敷では、まず出される事のない安物のお茶
遊戯は、祖父と母親に先程起きた事を全て話す
「孫が世話になり申しワケ無い それに先程孫が言っておった事じゃが
見ず知らずの方に御迷惑を・・・」
「誰もタダで・・・とは言ってない」
「海馬?」
「遊戯 貴様バイトをする気は無いか?」
「バイト?」
「しかし・・・孫は・・・」
「ジジィ貴様に聞いておらぬ 遊戯貴様程ゲームに長けた者は、そうそう居ない
貴様のその才能を発揮したいと思わんか?」
「才能・・・オレにそんなモノ在るのか?」
半信半疑
一応今日初めて会話をしただけなのに・・・
遊戯には幼い頃海馬と遊んだ記憶が在るが海馬の記憶には遊戯の存在は無い
それなのに海馬は、何故こうも親切にしてくれのだ?
「貴様の所に大手企業からの勧誘が来ているのだろ?」
車中での会話を思い出す
「ああ・・・来ているぜ」
「貴様に何の才能も無いのなら勧誘なんぞ来るものか」
とんでもない言い方だが確かに大手企業が何のメリットも無い一個人
しかも高校生に高額の交渉金を提示して来ないだろう
それだけのお金を提示してくると言う事は、少し思いあがってもいいのだろうか?
「しかし貴様等は、呆気者の集まりなのか?」
「何が?」
急に呆気者と言われた
自分だけに言われるのならまだしも家族の事まで・・・
正直ムカついたが
「ヤミ金に金を借りたなら元金共々返済する必要性は無い
元々違法なのだからな
それにあんな取り立てをされているのなら営業妨害で警察にでも駆け込めばいいものを」
そう言われて正直驚いた
そんな話しは知らなかったからだ
寧ろ知っている者の方が少ないだろう
「それとヤミ金から紹介される弁護士は、信用するな
裏でつるんでる可能性がある」
全く自分は、何でこんな話しをしているのだろうか?
よくよく考えてみれば自分には関係の無い話しだと言うのに
「そうなのか・・・」
少し俯く遊戯
大方弁護士は弱い者の見方だと思い込んでいたのだろう
「あの・・・海馬君とやら やはり遊戯のはバイト・・・」
遊戯のバイトの件を断ろうする祖父だが遊戯は
「海馬 オレにもっといろんな事を教えてくれ!」
俯いていた顔を上げ海馬に詰め寄ろうとする
「オレに何が出来るのか・・・オレは知りたい」
「バイトの件は承諾すると言うのだな」
「ああ オレで良ければ」
予想外の展開だったが名実とともに遊戯は自分の元に来た
海馬の心の中に湧き起る歓喜
だがそれを表情に出さない所は流石としか言い様がない
「遊戯・・・」
「じいちゃん ママ オレだって何時かは、この家をでないといけない
何時までもじいちゃんやママに頼ってばかりじゃいけないんだ」
何時までも自分の殻に篭っていたって道は拓けない
「では、早速俺と一緒に来てもらおうか」
「早速って・・・????」
「手続き等が有る」
「明日じゃ ダメなのか?」
考える余裕なんて与えない
「今すぐだ」
「でも・・・」
「それともバイトの話しは白紙にするつもりなのか?」
「そんな事・・・解ったぜ・・・」
渋々といった様な感じがする
「それと貴様には俺の屋敷で住み込んでもらう」
「えっ?!」
「その方が貴様にとって好都合だと思うが?」
「好都合?」
「一日でも多く働けばその分借金返済が早まると言うもの
それに仕事の内容によっては社外に漏れては困るのもあるからな」
確かに海馬の言う通り一日でも多く働けばその分自分にとって収入になるし借金返済に当てる事
も出来る
「社外って・・・そんな大事な事もやらせる気かよ」
「貴様の才能を買って言っている事だからな」
謝金返済が済もうが俺は、貴様を手放したりしない
誰にも貴様を渡したりしない
「じゃが・・・何も遊戯に住み込みのバイトなんぞさせんでも通いでは、ダメなのか?」
孫と離れ離れになる事が心配な祖父双六
「通勤に費やす時間が有ればそれを仕事に当てる事の方が有意義だと思うが」
遊戯専属の運転手を付ける事もたやすい
だが遊戯を住み込みにすれば自分と接する時間が増える
もっともっと遊戯の事を知る事が出来る
「じいちゃん心配ないぜ 早く借金返済して帰って来るから
ママ オレの荷物頼むぜ」
「ええ・・・」
遊戯に促されて準備をしに行く母
その表情は、複雑そうで・・・・
暫くしてボストンバッグを持って来た母
バストンバッグの持ち手には千年パズルが着けられている
「遊戯 カバンに入らなかったの・・・」
そう言って手渡される箱
「ありがとうママ」
その箱の中に何が入っているのか遊戯には解っていたから
後の必要なモノは、宅急便で送ると言う母親に海馬は、「こちらで用意する」とだけ言い
遊戯を抱き上げるとそのまま自分の車に乗りこんだ
車中 手にした獲物を目の前にし御満悦な海馬
何故ここまで遊戯に拘るのか自分でも解らない
ただ《傍に置いておきたい》と思った
誰にも遊戯を手渡したく無いと思った
アノ夢が自分にそうさせた・・・
貴様に感じる懐かしさの意味も知る事が出来るかもしれない
先程から大事そうに抱えている箱
「その箱の中身は何だ?」
「えっ?これか?これは、アルバムだぜ 亡くなった兄貴との思い出の・・・」
そう言えば遊戯は、目の前で双子の兄を亡くしていたんだったな
幼い数年間の思い出・・・
もう記憶の中でしか逢う事の無い兄
「貴様のカバンに付いている奇妙な飾りは何だ?」
「千年パズルと言うんだぜ オレの願いを1つ叶えてくれるらしいんだ」
まぁ迷信かもしれないけど・・・
そう付け加える遊戯
「それでも1つぐらい望みを持ったて罰は、当たらないと思うから」
「くだらん 自分に望みがあるのなら自分の手で叶える努力をすればいい」
「確かに・・・でもこの中にオレにとって大事なモノも入っているから」
お前が昔くれたモノなんだぜ
まぁオレの事を覚えていないお前には関係ないのかもしれないがな
遊戯が大事にしているモノ・・・そのモノに興味を抱くがそれは追い追い聞けばいい
暫くして到着した海馬邸
大きな扉の向こうでは、数人の使用人が海馬を出迎えた
「大門 この車椅子を俺の部屋に運んでおけ」
執事とおぼしき初老の男にそう命じる
「貴様の部屋は、用意していない暫くの間俺の部屋を使えばいい」
「あっでもお前の仕事の邪魔にならないか?」
「寧ろ貴様にとって俺が傍に居る方が好都合だと思うが」
仕事で解らない事が有れば直に訊ねる事が出来るのだ
それにどの部屋も障害者向けに造られていない一人だと何かと不自由をするかもしれないのだ
こうして遊戯に始まった海馬邸での生活・・・