ニャンコな出逢い(海馬編)
窓が開いていたので思わず入ってしまった。
オカルトなんて信じない。
その存在も認めない。
そう自分に言い聞かせて来た。
しかし今鏡に写る自分の姿は、何だ?
鏡に写る一匹の白ネコが自分の方をジ〜と見ている。
まぁ見ているのも当然か・・・
そこに居るのは、紛れも無い自分自身なんだから。
一体何の呪いなのか・・・一体何世代続いているのか・・・
全てが謎。
でも自分の一族は、皆ネコに変化する力を持っている。
変化すると言っても完全にネコに変化出来る者は、殆ど居ない。
否ネコに完全変化出来る者は、数十年に一度しか産まれてこない。
俺の実の弟でさえ完全変化が出来ないのだから。
「兄さま 今日も出かけるの?」
ネコに変化している自分に話しかける弟モクバ。
「オカルトを否定している割には、最近ネコになる事多くない?」
グサッ・・・
足しかに自分は、オカルトを否定している。
だけど気になる事があるのだ。
海馬は、ベランダから外に出て枝伝いに塀を越える。
アレほどオカルトを否定しネコになる事を拒んでいたのに最近自分からネコに変化してるよな
オレも兄さまみたいに完全変化がしてみたいぜ。
塀を越えた海馬が向った先には、小さなおもちゃ屋があった。
そして珍しく開けられた窓を見つけ入ってしまった。
明かりの灯ってない部屋。
海馬は、瞳孔を開き辺りを見渡す。
自分の足元付近には、勉強机。
そこから離れた場所には、ベッド。
勉強机が在る事から部屋の主は、学生。
そして自分が忍び込んだおもちゃ屋に居る子供と言えば1人しか居ない。
この家のサーチは、既に済んでいる。
海馬は、躊躇する事無く部屋に入り込みベッドの上で寛ぐ。
ベッドのシーツには、この部屋の主の匂いが染み込んでいる。
我ながら見事なまでの変態行為に呆れてしまう。
暫くして部屋の扉が開けられ入って来たのは、紅葉頭の少年。
少年の名は、武藤遊戯。
この部屋の主だ。
遊戯は、自分を見て驚いた様な表情を浮かべている。
そして少年からかけられた一言が、
「お前 何処から来たんだ?」
だった。
ネコの姿でも人語は、話せるが如何せん今の自分は、ネコ。
『ニャ〜ニャ〜』と鳴くのが妥当だと思う。
ゆっくり戸惑いながら伸ばされる手。
自分に触れたいのだろう。
人の体温は、正直気持ち悪くて嫌だと思う。
でも何故か遊戯に触れて欲しいと思った。
自分に近付く遊戯の手を見つめた。
その手が自分に触れた時、気持ちイイと感じた。
余りの気持ち良さに目を閉じその温もりを感じてしまう。
思わず喉が『ゴロゴロ』となりそうになる。
でも自分は、あくまでも人間なのだ。そんな気持ちから喉を鳴らすのには、耐えた。
それを期に遊戯の部屋に赴く様になる。
モクバから「いい加減素直になれば?」と言われる。
自分の躰から他者の匂いがしてくるらしい。
そんなある日遊戯から
「なぁ・・・お前に名前つけていいかな?何時も『ネコ』じゃオカシイだろ?」
と言われた。
確かに何時まで経っても『ネコ』と呼ばれるのもいい気がしない。
だから肯定する意味で鳴き声を上げた。
それを遊戯は、肯定と思ってくれたのだろうか
「お前を始めてみた時オレのクラスメートを思い出したんだ。」
話し出した。
「お前の様に蒼い瞳をしたヤツで、そいつのイメージカラーが白だったんだ。
オレは、そいつの事何時も苗字で呼んでるんだ。
ソイツには、申しワケないけどお前にソイツの名前を着けたいと思ったんだ。
ソイツの名前は『海馬瀬人』って言うんだ。長身でイケ面で頭脳明晰。
非の打ち所が無いんだけど余り学校に来ない不登校児なんだぜ。」
俺を見て俺を思い出した。
遊戯の言葉は、自分を誉める言葉。
正直海馬は、恥かしかった。照れくさかった。
賛辞は、嫌って程耳にする。
だがそれは、海馬家の御曹司としての賛辞。
何の飾りっ気も無い賛辞を耳にするのいは、初めてでこんなに恥かしく照れくさく嬉しいモノだとは、
思いもしなかった。
それに心地いい。
きっと今の自分が人の姿だったら赤面しているだろう。
ネコの姿である事に感謝した。
海馬も遊戯の事が気になっていた。
何時も仕事で多忙を極めている。
だから学校に毎日行けない。
時間を調整して何とか学校に行くが人と慣れあう事を嫌う性格が禍して遊戯に話しかける事が出来ない
でいたのだ。
そのストレスからか出張先で紅葉関係のグッズを見ると遊戯の姿と重なりついつい購入してしまう。
お陰でモクバから貰うお土産でさえも紅葉関係。
(別に紅葉が好きと言うわけでも無いんだが・・・)
だが折角の行為無碍に出来ないので在り難く頂戴しておく。
遊戯に背中を撫でられながら
「ソイツの名前でもある『瀬人』をお前の名前にするぜ」
と言われた瞬間固まってしまった。
まさかそのまま本当の名前を付けられるとは、思っても居なかったから。
しかも名前で呼ばれるなんて・・・
肯定や否定を意味する鳴き声が出なかった。
その代わりに何か甘いものが胸の中で込み上げてくるのが解った。
海馬には、それが何なのか解らなかったし何故遊戯をここまで気にかけるのでさえ解らなかった。
ただ自分は、遊戯が嫌いでは無い事。
彼を特別視している事だけが今わかっている事だった。