チョコレートと気持ち


---2月14日夜---

「無用心だな」

ベランダ側のカーテンが微かに揺れると同時に聞こえて来る声。

部屋の主は、手にしていた本を見つめたまま話しかけてきた相手に振り向く事無く

「セキュリティーは、万全だからな。そう言う貴様こそたまには、玄関から入って来ればよかろう。

まるでコソ泥の様にベランダから入らずともよかろう」

だが遊戯がベランダから入って来る事は、解っていたからこそベランダ側のカギを掛けずに置いといたのだ。

その事に遊戯も気が付いている。

「海馬邸のセキュリティーは、オレにとってゲームと同じだぜ」

「貴様の所為で海馬Co.が開発するセキュリティーは、他社に比べて性能が格段にいい。

その点では、礼を言わねばならんな」

そう言いながらも本から目を離そうとしない海馬の傍まで行くと

「バレンタインデーだって言うのにお前の部屋には、チョコの姿が全く無いんだな」

彼が関心の無いモノを置く筈が無い事ぐらい重々承知だったがココまで無いと違和感がある。

「フン 企業戦略に踊らされて手当たり次第にチョコを買いあさり勝手に配りお返しは、3倍。

俺には、理解出来ん」

「お前宛てのチョコに義理なんてないだろう?」

「無いとは、言えんと思うが」

何時まで経っても座る気配が見えない。気になってくる・・・

だがココで遊戯の方を見れば自分が根負けした気持ちになる。

彼には・・・遊戯には、負けたくないのだ。

「何時までオレを無視する気なんだ?いい加減その本を閉じろよ」

「ほ〜この俺に指図する気か?」

それでも閉じ様としない本。

「お前の膝は、オレ専用の席なんだろう?本が邪魔で座れないぜ」

何故かそんな言葉にドキッとさせられてしまう。

今迄何度も遊戯に『貴様の席は、ココだ』と言って自分の膝の上に座らせようと試みたがその都度嫌がられて

来た。

なのに今日に限って自分から座ると言うのだ。

「どういう心境の変化だ?」

「今日みたいな日にお前に甘えるのもいいだろう?」

相棒が「バレンタインデーは、梳きな人と甘えて良い日なんだよ」って言ってた。

海馬に甘える自分の姿を何度も想像しその都度寒気が走った。

でも何時も忙しい海馬の労を労ってやりたいと言う気持ちもあったし多分14日は、オレに逢う為に時間を

空けてくれているかもしれないと思ったからどんなに寒気が走ろうともどんなに恥かしかろうとも彼に甘えてみる

気になった。

何度も何度も彼に甘えるシミュレーションを繰り返しながら・・・

 

『お前の膝は、オレ専用の席なんだろう?』何とか恥かしさを抑えながら言えた一言。

それでもやっぱり恥かしい。

 

『お前の膝は、オレ専用の席なんだろう?』まさかそんな一言を遊戯が言ってくるなんて・・・

夢の様に思える。

それに『お前に甘えるのもいいだろう?』・・・遊戯が俺に甘える。

遊戯ガ・・・俺ニ・・・

アノ遊戯ガ・・・

 

そう思うだけで躰中の血液が沸騰しそうになる。

それでも何とか冷静さを保ちながら本を閉じテーブルの上に置くとつかさず遊戯が横向きで座ってくる。

まるでカードをドローする時の素早さ。

 

そんな遊戯が一瞬だが固まってしまった。

 

海馬に言いたい事を上手く言えるかどうかを気にする余り彼が眼鏡をかけている事に気が付かなかったので

ある。

顔が熱くなる・・・自分でも顔が赤くなって来ている事が容易に解る。

(会社での眼鏡姿の海馬は、見慣れてるけど・・・プライベートで眼鏡をかけている海馬なんて早々に見る事

なんてないから・・・どうしよう・・・オレ・・・会社で眼鏡をかけている海馬は、嫌いだけどプライベートで眼鏡を

かけている海馬を見るとドキドキしてしまう。何時もと違う理知的な感じが好きなんだ。)

余りにも恥かしく海馬を直視出来ない遊戯は、海馬の首に抱きついてしまう。

何時もなら在り得ない遊戯の行動に海馬もタジタジしてしまう。

「お・・・俺に何か用でも有ったんじゃないのか?」

上ずってしまったが何とか最後まで言えた。

「用ってもんじゃないけど・・・」

今日が何の日かぐらい解っていると思う。

多分言わせたいのだろう。でも言ってやらない、海馬から言ってくるまで。

「貴様は、俺に言わせたいのだろう?今日が何の日なのか」

多分コイツは、俺が言わない限り言う気なんて更々無いだろう。

だから俺から言ってやる。何なら催促でもしてやろうか?

「俺に渡したいモノがあるんじゃないのか?そうだなチョコレートとか・・・」

ビクッとする遊戯だが一向に海馬の首筋から離れ様としない。

「確かにあるぜ・・・でもオレから手渡しなんてしない。欲しいのなら探せばいいぜ」

そう言うと遊戯は、海馬の眼鏡を外し軽くフレームにキスをしながら耳をかける部分を軽く齧る。

(ククク・・・そう来たか。本当に貴様は、俺を楽しませてくれる)

「だったら御言葉に甘えて貴様の躰を隅々まで探させてもらおうか」

服の上から躰を弄りポケットの中などを探したがそれらしきモノが見つからない。

だが遊戯を裸にした時点で直に見つかった。

遊戯が首から下げているシルバーネックレスの先に有る小さな小瓶。

その中に入っているのは、液体のチョコレート。

「貴様は、俺に渡すチョコレートを己が体温で溶かしてしまったのか?そそっかしいヤツめ」

呆れている声で言われるがそれは、予想の範囲内。

躰中を弄られ感じ息絶え絶えでも

「チョコなんて最初っから溶けていたさ。バレンタインに渡すチョコは、固形じゃないとダメってワケでは、無いんだろ」

確かにバレンタインに渡すチョコレートが必ずしも固形しかいけない訳では、無い。

だが液状で無いといけない訳でもない。だとしたら何かしら理由があるのだろうか?

それに小瓶に入っている所為か量的にも少ない。

「チョコは、媚薬みたいなモンだろ?少しのチョコでも貰えば、くれた相手の事が気になり何時の間にかその気

にさせてしまう。そこにチョットした言葉で告白されたら堕てしまう。しかもこのチョコは、お前だけに用意された

オレからの『媚薬』」

「媚薬は、大量に必要無いと言う事か?」

「ああ・・・お前は、既にオレのモノだからな」

「そう言う貴様こそ俺のモノでは、ないか」

そう言うと海馬は、遊戯を抱き抱えながら寝室に向う。

「媚薬共々貴様を堪能させてもらう」

「いいぜ・・・」

チョコを探す為に散々触られたのだ。

その間に篭ってしまった躰の熱をチョコレートと一緒に受け止めて欲しい。

 

ベッドの中で・・・


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