もう一度逢いたくて-おまけ-
「海馬・・・逢いたかった・・・」
久しぶりに感じる温もり。
自分の全てを包み込んでくれる海馬の胸に縋ってしまう。
「そんなに俺に逢いたかったのか?」
自分に素直に甘えて来る遊戯に心が踊る。
生前、<武藤遊戯>と躰を共有していた頃の彼は、こんなに甘えてくれた事なんてあっただろうか?
記憶の糸を手繰り寄せてもこんな彼を想い出す事が出来ない。
本当に彼は、自分が愛した相手なのだろうか?そんな事でさえ思ってしまう。
「毎年毎年・・・海馬がココに訪れてくれるのをどれだけ心待ちにしてたか・・・」
遊戯の口から零れた言葉に海馬は、驚いた。
そして更に・・・
「お前との会話が楽しみだったんだぜ。オレがココでしかお前と話す事しか出来ないから・・・」
今迄幻想と話しをしていたと思っていたがアレは、遊戯自身だったと言うのか?
もしかしたらこの遊戯も自分が造り出した幻想なのか?死して尚 俺は、自分の都合の良い幻想を生み
出しているのか?そんな疑いを抱いてしまう。
「ココは、オレの魂が眠っていた特別の場所なんだ。ここの地場を利用すればオレの望みを叶えてくれる。
だから海馬がココに来た時、オレは、オレにとって都合の良い夢を見ているんだと思っていた。」
遊戯も又、海馬と同じ様に自分の想いが造り出した幻想が自分に逢いに来ていたと思っていたのだ。
だがイシズやマリク・リシドが来てくれて彼等によって自分の元に本当に海馬が来てくれていると自覚したのだった。
遊戯も自分と同じ思いをしていた事を知った海馬は、彼に対して更に愛おしさが込み上げてくる。
抱き締める腕にも力が篭る。
「貴様は・・・俺の目の前に居るのは、本当に・・・本当に俺の遊戯なのだな?幻想でも無い。本物の
遊戯なのだな?」
それに応える様に海馬の背に回されている遊戯の腕にも力が込められる。
「ああ 勿論本物だぜ。海馬、もしかしてオレの事を忘れたのか?」
「忘れるモノか!!貴様を忘れた事なんて一日たりとも無い」
きつくて苦しい抱擁なのにそれが何故か心地好い。
その抱擁の合間にも啄む様なキスを繰り返し各度を変えながら深く互いの唾液が混じりあう迄重ねあう。
次第に躰中の力が抜け遊戯は、床の上に座りそうになるがその直前に海馬の手によって祭壇の上に座らせ
られる。
少し海馬より高い視線。
海馬は、遊戯の胸に顔を押し当て彼の匂いを嗅ぐ。
そんな海馬の頭を抱きながら
「オレ海馬に謝らないとイケナイ事があるんだ」
「謝らないといけない事?」
もしかして俺が傍に居ない間に浮気をしたとか?
そんな不安な気持ちになってしまうが
「昔『変な研究』をやってないかどうか聞いたよな?」
(ああ・・・確かそんな話しをしたような気がするな・・・)
今となっては、どうでもいいような話しだが海馬は、記憶の糸を手繰り寄せながら遊戯の言葉に耳を貸す。
「オレ海馬にやらないで欲しいと言った。『もし魂が宿ったとしてもそれは、オレの魂じゃない!!オレ自身
じゃない!!』と言った。」
「ああ確かにそんな事言ってたな。」
遊戯の話しが浮気の話しでは、無くて正直な所ホッとした。
「あれは・・・オレが禁断の魔術でお前を造りそして失敗したからなんだぜ・・・」
「!」
冥界に戻った後、暫くの間仲間と過す時間が楽しかった。
だが楽しい時間が永遠に続く筈も無い。
傍に居て欲しい人が傍に居ない寂しさが遊戯を襲ってきたのだ。
海馬に逢いたい。彼の温もりを感じたい。彼の声を聞きたい。
そして彼とデュエルがしたい・・・
そう願えど海馬は、冥界に居ないのだ。
海馬と同じ魂を持つセトが居てもセトは、海馬では、無い・・・
別人なのだ。
寂しさに胸が張り裂けそうになる。
苦しくて辛くてどうしようも無かった。
過去に読んだ事のある本を思い出す。
そこに書かれている内容は、禁呪だと解っていた。
神を冒涜する行為だと解っていた。
でも彼に逢いたいのだ。どうしようも無く逢いたいのだ。
抑えられない気持ちのまま遊戯は、海馬を造る事を決めた。
そして着工したのだ。
何度も失敗をした。
細胞分裂に失敗したり完成しれも外気に触れれば崩れてしまったり。
そして製作して行く段階で次第に気付いたのだ。
どんなに海馬のダミーを造ってもそこには、海馬の魂が宿らない事を・・・
彼は、生者なのだ。冥界に居ない・・・
当然の事だが魂自体が生者の世界に居る。
突き付けられる現実に遊戯は、泣き崩れた。
(もしかしたら海馬もオレのダミーを造るかもしれない・・・海馬にオレの様な思いは、させたくない)
だから遊戯は、海馬に研究をしないで欲しいと言ったのだ。
自分が行った愚行を彼には、してもらいたくなかったから。
遊戯の懺悔とも取れる言葉に海馬は、静かに聞き入っていた。
(遊戯も俺と同じ思いをしていたのか・・・)
涙を流す遊戯の目許に口付けながら
「貴様は、俺の為を思い忠告してくれた。そのおかげで俺は、貴様を失った時と同じ思いをしないで済んだ。
遊戯・・・礼を言うぞ。」
「・・・かいば・・・」
胸に閊えていたモノが溶け出して行く・・・
言うのが怖かった。
何て言われるのか解らなかったから・・・
でも勇気をふり絞って言って良かった。
「もう泣くな。これからは、一緒に居られるのだ。来世も貴様と共に居る事を誓おう」
不本意だがその時は、神官セトの魂も自分の魂と融合されているだろうが・・・
「オレも誓うぜ・・・海馬と共に居る事を・・・」
紅い瞳を潤ませながら何とか言いきる遊戯。
そんな遊戯の小鼻を摘まみながら
「まるで結婚式で誓う言葉のようだな」
海馬や遊戯にとって神聖な場所での誓い。
「////」
そしてどちらとも無く漏れる笑み。
「行こうか・・・」
「ああ・・・」
光り輝く場所に・・・