戸惑い-2-


自分の気持ちが解った今遊戯がする事は、只一つ・・・

海馬に自分の気持ちを伝える事だけなのにその只一つの事が出来ずズルズルと1ヶ月が過ぎ様としていた。

その間に何回相棒に「未だ言ってないの?」って呆れかえらた事か・・・

言えたのならこんなに悩んでない。

告白されて即答出来る人と出来ない人が居ると思う。

即答出来る人は、相手に対してハッキリとした感情があると思う。

でも後者の場合、相手に対するハッキリとした感情が無いとか感情が在っても上手く表現が出ないとかが

在るがこの場合前者だと相手に対する感情が曖昧。

答えが出た頃には、待たせすぎが原因で破局の可能性が在る。

自分も返事を待たせ過ぎたかもしれない。

もしかしたら破局!!なんて事になったら落ち込むしか無い。

もしかしたらそれが原因で立ち直れないとかトラウマになるとか・・・そんな余計な事まで考えてしまう。

考え過ぎだと言われるかもしれないが恋をすると思考回廊は、異常反応を示すと思う。

冷静な考えなんて何処吹く風状態・・・

何時?どやって返事をするかだけで時間が掛かる。

そんなこんなで向えた今日で何度目かの放課後と何百回と吐いた溜息。

カバンに荷物を入れて帰宅準備・・・

(誰かを好きになるって大変な事なんだなぁ)

今更ながら時々他人事の様に考えてしまう。

「遊戯 何か悩み事か?」

授業中殆ど寝ていた城之内は、放課後になると充電完了とでも言うかのように元気イッパイだ。

「別に大した事無いぜ」

そう自分にとって大切な事でも他人にとっては、そうで無い事なのだ。

「あのさ・・・ちょっと時間あるか?」

「時間?別に何の予定も無いからいいけど・・・」

不思議そうな表情を浮かべる遊戯に対して城之内の顔は、何かを決めた様な真剣な顔付き。

城之内に促されるまま遊戯は、屋上へと向う。

 

 

+++++++

 

放課後と言う事も在り校庭では、部活に勤しむ生徒や端の方を歩きながら下校する生徒達の姿が見える。

「こんな所に呼び出してどうしたんだ?何か悩み事でもあるのか?」

先ほど自分が問われた問いを城之内に投げかると

「遊戯には、好きなヤツ居るのか?」

「えっ?」

唐突な質問にどう反応していいのか解らない。

「あのさ・・・そのオレ・・・前々から遊戯の事気になってたんだ・・・」

「気になってたって相棒の事か?」

城之内は、〈遊戯〉の親友。それ故に何時も一緒に居る所を見かける。

「あっ・・・いや・・・〈遊戯〉の方じゃなくて遊戯の方・・・」

(かぁ〜何で兄弟して同じ名前なんだぁ〜!!)

遊戯の勘違いに落胆してしまう城之内だったが気を取りなおして

「ず〜と遊戯の事気になってた。何時も凛とした感じがカッコ良いと思ってた。でも心の何処かで守ってやりたい

と思ってもいた。」

一瞬だが遊戯の眉がピクッと反応する。

(守って・・・)

「遊戯 オレは、お前の事が好きだ。オレと付きあって欲しい」

男城之内一世一大の告白だった。

(もしかして海馬もオレの事守りたいと思ったのか?)

何処か聞いていない様な遊戯に城之内は、不安になってくる。

「遊戯・・・」

「ゴメン 嬉しい言葉なんだけど・・・城之内君の事友達としか見れない・・・ゴメン」

それだけを言い残し駆け出してしまった。

「遊戯!!」

返事の内容に申しワケ無く駆け出したのでは、無い。

確認したい事があったのだ。どうしても彼の口から聞きたい事があった。

バスに乗ればたいした距離では、無いのに何故か走ってしまった。

気持ちが急く。早く聞きたいと・・・

遊戯が向った先は、海馬Co.本社ビル

この最上階に居るであろう海馬瀬人に用事があった。

息を切らせながら受付けに向う。今の自分の格好が会社には、不釣合いな学生服である事なんて

気にしてられない。

「あ・・・海馬・・・居る・・・」

途切れ途切れの問い。

息が整わない。

息切れしている遊戯に満面の笑みを浮かべながら

「社長でしたら居られますよ。御連絡しますので少し御待ちになって下さい」

そう言いながら内線を掛け様した時、運良くと言うか到着したエレベーターに海馬が乗っていた。

「あっ丁度、社長が参られたようですよ」

受付け嬢が受話器を降ろしエレベーターの方を手を添えて指すと女性と何等か話しをしながら海馬の

姿が見えた。

長い黒髪で褐色の肌の民族衣装を纏った綺麗な女性。

その女性と笑みを浮かべながら歩いている海馬の姿を見て何故かショックを受けてしまう。

言い知れぬ胸の苦しさから駆け出してしまった。

後から聞こえる受付け嬢の声・・・だが何を言っているのか解らない。

慌てる受付け嬢に海馬が

「何があった?」

「あっ・・・いえ・・・社長に御用があると学生服を着た小柄な男の方が参られていたんですが・・・」

学生服を着た小柄な男・・・

「そいつに見覚えがあるのか?」

「はっはい・・・以前社長に面会に来られた方と瓜二つの方です・・・」

緊張の余り声が裏返ってしまった受付け嬢。

きっと彼女の脳裏には、海馬からのキツイお叱りを受ける自分の姿が想像されているのだろう。

「磯野後の事は、任せたぞ」

「しゃ・・・社長????」

血相を変えて社を飛び出した海馬。

既に飛び出してしまった遊戯の姿を宛も無く探した。

 

++++++++++

 

「はぁ・・・オレってつくづく馬鹿だよな・・・」

(海馬と一緒に居た女性は、もしかしたら外資系の取引先の人かもしれないのに勝手に変な方向に

勘違いして飛び出したりして受付の人に悪い事したような・・・)

後悔と反省・・・

でも海馬に自分の姿を見られたワケでは、無い。

もしかしたら受付け嬢は、飛び出した自分の事を海馬に言ってないかもしれない。

海馬だって多忙なんだし一々社に訪れた人間の事を受付けに確認しないだろう・・・

 

確かに一々受付けに来た人間の事は、聞かない。

だが海馬不在中や会議中で手が離せない時社長宛の客人の事は、一応秘書の方への報告義務が

在る。

当然の事だが今日遊戯が来た事も報告される。

 

童実野公園の中央噴水広場。

小さな子供が元気に鳩を追いかける姿を眺めながら自分の行動に落ち込んでしまう。

所々にアベックや休憩中のサラリーマンにOLが見える。

見えるのだが視界には、入ってない。

だから自分に近付いてくる人影にも気が付かない。

何度目かの溜息を吐きその場を去ろうとした。

日に当たりすぎたのか軽い眩暈がしたのだ。

木陰を探し入って一休みをしながら自分の行動を再度反省しようと思った。

「貴様 何処にいくつもりだ?」

聞き覚えの在る声。

だがその声主がこんな所に居る筈が無い。声の主がもし居るとしたらココでは、無く会社の方・・・

それでも声の方に向けば息を切らせた長身の男の姿が・・・

「なっ・・・海馬・・・どうしてココに・・・」

(在りえない・・・どうしてココに・・・??)

疑問が頭の中を駆け廻る。

海馬は、ジャケットを小脇に抱えキッチリ絞めていたネクタイを緩めながら自分の直側まで来る。

何時も整えられている髪が少し乱れている。

「貴様が俺に用あって来たと聞いた。」

「だからって・・・たいした用じゃ・・・」

語尾が小さくなってしまう。

海馬に報告されていたなんて・・・

そしてまさか自分が来たと聞いただけで探してくれたなんて・・・

本当にたいした用じゃないのに彼に探しに来させた事がとても申しワケ無く思ってしまう。

「ゴメン・・・迷惑かけて・・・」

謝罪の言葉が口を吐いて出た。

「謝る必要なんて無い」

海馬だって我慢の限界だった。

一目だけでも遊戯に逢いたくて仕事の調整を試みたが中々時間が取れない。

通学中の姿だけでも・・・と何度も思ったけど朝早くから夜遅くまで仕事が山積しそんなささやか事でさえ

出来なかった。

それに遊戯からまだ返事を貰ってない。

遊戯に変な虫が付かないか不安だった。もし変な虫に遊戯を奪われたら?そんな事を何度思った事か・・・

だが今遊戯を見てそんな心配は、無用だと解った。

「用は、何だ?」

「あっ・・・一先ず座ろうぜ・・・」

近くのベンチへと移動する事にした。

(公園で好きな相手と2人で居る・・・これってデートみたいなもんなのかな?)

そう思うと急に心臓が煩い程、脈打つ。

「仕事・・・忙しいんだろう?あんまり無茶するな。モクバが心配するぞ」

少し距離を置いて座る2人。

何処かぎこちない感じがする。

「貴様は、心配してくれないのか?」

率直に聞かれ

「今日見た。女性綺麗な人だった。何処の国の人なんだ?」

即答出来ない。

素直に「心配だ!」って言えたら良いけどそんな恥かしい事言えるワケが無い。

 

社交辞令でも良い遊戯から「心配してた」等と言われたらどんなに嬉しいか・・・それなのにその一言が聞けない。

「ああ・・・イシズの事か・・・エジプト考古学館長している。今度童実野町でエジプト展を開きたいから協力

して欲しいと言って来た。」

「大事な話ししてたんだろう?」

「担当者が居る。俺が居なくても大丈夫だ。」

「じゃ・・・海馬は、最終決定を下すだけなのか?」

「そうだ」

こんな話しがしたいワケじゃない・・・もっと別に聞きたい事が2人には、あった。

「それだけの用で来たのでは、あるまい。」

それに遊戯がイシズを見たのは、さっき会社での事・・・用事とは、もっと別の事。

他愛の無い言葉を投げかけつつも遊戯を少しずつだが確実に誘導尋問に掛ける。

「あのさ・・・どうして海馬は、オレの事好きになったんだ?オレの事《守りたい》とか思ったのか?」

小さい声でポツポツと質問をしだす遊戯だったがその顔は、地面を見たまま不安そうだった。

「《守りたい》?何故貴様を守らなければならない?もし俺が貴様を守るとしたら俺や会社に恨みを持つ

連中からだ。それ以外で俺が貴様を守る必要は、無い。それとも貴様は、誰かに守られないと無いと生きて

イケナイのか?俺が貴様に惚れた理由は、俺には、持っていないモノを貴様は、持っていた。

俺は、そこに惹かれた。守るなんて考えもしなかった」

考えなかったのでは、無い。遊戯が持つ強さと儚さを守りたいと思った事は、あった。

そしてそれは、自分を守って欲しいと思う心の現れだと気が付いた。

「もし本当に貴様を守るとしたらそれは、貴様に俺の弱い所を守ってもらわなければならない。

俺と貴様は、何時も対等で居なければならないのだから」

地面をただただ見ていた遊戯だったが海馬からの思いがけない言葉に戸惑っていた。

海馬が遊戯の事を好きになった理由・・・多分プライドの高い彼なら言わないだろうと思っていたから。

だが聞けた・・・きっと彼にしてみれば勇気が居る事だろう。

「そう言えば・・・オレ未だ海馬に返事してなかった。何度も返事しようと思っていた・・・でも勇気が無くて・・・

言えなかった。それにどうして海馬がオレの事何で好きになったのか理由も知りたかった・・・」

一息吐いて心を決め。

「オレなんかでよければこれからもヨロシク頼むぜ」

遊戯が一息吐いている間、気が気でなかった。

この一息の先に返事が在るのだと解ったから。

そして遊戯からの言葉。一瞬聞き間違いをしたのかと思った。

「貴様・・・その言葉・・・」

驚きの色を見せる海馬に遊戯の方は、真っ赤になり。

「オレだって海馬の事が好きだって言ったんだ・・・」

早口で自分の本心を言う。

聞き間違いでは、無い遊戯の心。

嬉しさの余り少しの距離を無視して遊戯の躰を抱き締める。

互いにベンチに座っているから楽な体勢では、無いがそんな事なんて関係無い。

今は、手に入った小さな存在を感じたいのだ。

「俺は、一度手に入れたモノは、そう簡単に手放したりは、しない・・・だからこれは、間違いだ。

無かった事にしてくれ・・・と言っても却下だからな」

「解ってる」

「独占欲も強い所有欲だって、それでも・・・」

「しつこいぜ・・・オレの言葉を疑うのか?」

遊戯にしてみれば決死の覚悟での返事なのだ。

〔告白した海馬も決死の覚悟だったのだが・・・〕

「夢では、無いのか?と思ってしまう」

頬に押し当てられる温かくて柔らかい感触。それが少しずつだが移動している。

擽ったい感じがするがそこでココが何処なのか気づいてしまう。

「か・・・海馬!!ちょっ・・・」

後もう少しで小さな口に触れそうだったのに小さな手を押し当てられて阻まれる。

「何だと言うのだ?」

「ここは、公園だ!!」

「それがどうした?」

「人目が・・・」

「そんな事気にするな。見せつけてやれば良い」

「気にする!!恥かしい」

遊戯の必死の抵抗に観念した海馬。

折角、遊戯を手に入れたのにここで喧嘩別れになっては、元も功も無い。

ジャケットから携帯電話を取り出すと何処かに電話を掛け出した。

「童実野公園に車を回せ」

秘書に連絡を入れ迎えに来させる。

簡単に連絡を入れると海馬は、遊戯の手を掴み公園入り口まで向う。

数分後滑る様にして止められる黒いリベンツ。

何度か海馬に乗せて貰った事があるとは、言え緊張する。

入り口付近で固くなっている遊戯。

自分との間に少し空間がある。

初々しい遊戯の態度に胸が温かくなる。

海馬の顔から自然と零れる笑み。

(何て顔して見るんだよ〜)

何度もチラ見しながら海馬の様子を窺う遊戯。

今迄ならこの距離でも緊張しなかったのに両想いになったとたん余りの恥かしさにどんな顔をして接したら

いいのか全く解らない。

「遊戯」

言葉と同時に伸ばされた海馬の腕に腕を掴まれ引き寄せられバランスを崩す。

「そんなに離れてないでもっと俺の傍に来い」

海馬に抱きとめられる形で居ると腰を抱き寄せられ密着度が増す。

「あっ・・・あんまり・・・その・・・だな・・・」

「人目が気になるか?」

「・・・うっ・・・」

真直で見る蒼い瞳にドキドキさせられる。

何時もと違う態度に戸惑う。

海馬の着けているコロンの匂いに眩暈がする。

顔を熱くなる・・・

次第に海馬の顔が見れなくなり視線を逸らしてしまう。

運転席と後部座席を区切る防音・防弾ガラス。

それが次第に曇り出す。

否 そのガラスだけでは無い。後部座席付近の窓ガラス全てが曇りだしたのだ。

「これで心おきなく貴様の唇を堪能出来る」

耳元で囁かれる甘い声。

顎を持ち逸らされている顔を自分の方に向けるとゆっくりと確実に重ね合わせる。

柔らかい感触を何度も啄む様に堪能する。

多分キスをするのは、初めてなのだろう。

固く閉ざされた口に簡単に舌を入れる事が出来ない。

「遊戯・・・」

真直で見る紅い瞳に浮かぶ戸惑いの彩が艶めかしい。

これから先一緒に居る中で何度この瞳に魅入られるのだろう・・・

それを思えば楽しい気持ちになる。

「遊戯 俺の事を貴様に色々と教えてやる。その代わり貴様の事を俺に色々と教えろ。

いいな?」

 

貴様が俺無しでは、生きられないように・・・俺だけを求める様に・・・

 

そんな海馬の発言を聞いて更に戸惑う遊戯。

(オレの何を知りたいんだ???)

 

この後2人が向ったのは、海馬Co.の社長室。

程無くして手に入れた最愛の人を傍に置き超御機嫌の社長様。

その隣で落ちつき無くカチコチに固まっている遊戯。

部下達の間でこれから流行る(?)かもしれない海馬が不機嫌な時の『遊戯頼み』。

多分遊戯は、海馬に続く忙しい学生になるだろう・・・

 

+++++++

 

「城之内君 もう一人の僕に告白したんだって?」

「はぁ・・・フラレちまったけどなぁ」

「そう落ち込まないでよ。あの2人元々両想いだったんだし・・・」

「あの2人って?」

「知らないの?海馬君ともう一人の僕の事?」

「!!!!」

バタ・・・

「あらあら・・・御愁傷様」


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