変貌-3-


「こんな所に何の用だ?」

「何の用って・・・ジャックに逢いたくて来たんじゃない」

サテライトでは、数少ない女。

それでも興味が無い存在。

「俺は、貴様に用は無い」

(用があるとすればアイツだけ・・・)

先程ジャンクを集めに出た相手を思い浮かべる。

「あの日以来全然来ないから押し掛けて来たの。ねぇたまには、いいでしょ?」

纏わり付く女の躰から微かに鼻孔を擽る甘い香りがする。

男を魅了する匂いなんだろうがジャックにしてみればそんな香りでさえ異臭の一つでしかない。 

「ねぇ〜ジャック・・・」

甘い声で躰を擦り寄せる。己が胸の谷間にジャックの腕を挟み込み誘う。

それが煩わしい。

「俺は、貴様に用は無いと言った筈だが?」

「何不機嫌になってるの?私は、貴方の女なのよ?」

 

「ジャック 出掛けるのか?外泊するなら言って行けよ」

急にかけられる声。

その声の方を見れば見知らぬ男と一緒に戻って来た遊星の姿が・・・

見られたく無い無い所を見られてしまった。

「へぇ〜サテライトで女を見るなんて珍しい。」

遊星の隣に居た男が目を大きく見開き驚いたと言うか関心したと言うか・・・そんな感じで声をかけてくる。

「遊星のダチは、女にモテルタイプなのか?」

「多分・・・」

(「遊星」だと・・・馴れ馴れしく俺の遊星に話しかけるな!!)

湧き起る嫉妬で理性が妬き切れ眩暈が起きそうだ。

「遊星!!その男は、誰だ?」

怒りで冷静さを見失いそうになる。

「客だ。」

「客だと?」

「オイオイ。客って・・・俺は、ダチに入れねぇのか?」

2人の声が遊星に降りかかる。

「ねぇ〜ジャック〜」

今尚自分の腕に纏わる女。

そして自分の目の前を見知らぬ男と通り過ぎる遊星。

当然ジャックの心は、遊星に傾く。

腕に纏わり付く女を振り解き遊星の元に行きたい。

見知らぬ男との関係を問いただしたい。

「今の子、ジャックの知りあいなの?結構イカツイ男と付き合っているみたいね。」

楽しそうに話しかけて来る女の言葉を何処か遠くで聞いている気持ちになる。

「ねぇ 私達もベッドの中でしようよ〜。もう何日してないと思っているの?ジャックのを頂v戴vvv」

甘えた様な声で誘ってくる。

「フン 貴様と寝たのは、一度だけ。それだけで俺の女気取りか?汚らわしい!!」

鬱陶しさから腕を振り上げ女を振り解く。

脳裏に一瞬とは、言えジャックの脳裏にあの男に組み敷かれ気持ち良さそうに恍惚の表情で受け入れている

遊星の姿が過った。

 

 

 

+++++

 

「良いのか?」

「何がだ?」

遊星は、牛尾のD・ホイールを修理する為に自分のアトリエに迎え入れる。

そしてD・ホイールを前に再度装備品のチェックを始め工具箱を用意し弄りだす。

オイルと鉄の臭い。

最新の道具が全く無い状況。

牛尾は、遊星のアトリエを見ながら

(たいした道具も無いのにアノ紅いD・ホイールを作ったのか?コイツの天才的脳と技術に掛かれば最新の

道具なんて必要ないのか?)

貴重な存在・・・どんな上層階級のエリートと言えどこんな些細な道具でD・ホイールを作れと言われたら

「無理」とだけ答えるだろう。

ますます遊星への想いが募る。

だがその前にさっき出会った男・・・遊星が「ジャック」と呼んだ男の存在が気になる。

(あの男は、遊星の事を想っている)

自分と遊星を見ていた時、紫の瞳に嫉妬の炎を垣間見た。

そして悟った。遊星を手に入れる上でジャックの存在が邪魔だと・・・

牛尾のD・ホイールに向って座る遊星を背後から抱きしめ。

「何をする。離せ」

身を捩り抵抗をする遊星に対し

「遊星・・・そのまま聞いてくれ」

耳元で懇願する。

「俺は、テェメの事を・・・」

 

++++

 

急いで自分達が住んでいる住処に戻り遊星の姿を探す。

もし寝室に居たら?行為に及んでいる最中なら?そう思うと複雑な心境だった。

でも・・・それでも・・・探さずには、居れなかった。

だが寝室で遊星の姿を見かける事は、無くリビングにもその姿が無い。

その時アトリエの方から微かに聞こえる工具がぶつかり会う音・・・

音がする方向に行こうと思った。だがその音の方向から遊星と一緒に居た男が来た。

頭を軽く掻きながらコッチに向って来る。

「貴様 遊星とどんな関係だ?」

声を荒げながら訪ねると

「あ? テメェに答える筋合いは、無いぜ」

何処吹く風の様な態度。

「そう言うテメェは、遊星の何なんだ?女をほったらかしにして追いかけて来たんだ遊星に好意を抱いてるって

処か?」

「貴様に関係無い!」

ジャックは、牛尾の襟元を掴み。

「これ以上遊星に近付くな。そして余計な詮索は、するな。」

相手を睨み付ける。

「はぁっ・・・そうも言ってられない。俺は、アイツを泣かせるヤツを許せないんでね。

それに俺は、アイツに自分の気持ちを打ち明けたんだ。」

「なっ・・・」

牛尾は、襟首を掴むジャックの手を払いのけながら余裕の笑みを浮かべ。

「テメェがアイツの事をどう想っていてもアイツは、テメェの腕の中に堕て来ない。その事は、よく解っているんだ

ろう?」

そうこの男が言う様に今の自分の腕の中に遊星は、決して堕て来ない。

解っている事なのに・・・解っていた筈なのに・・・

心の何処かで遊星を他人に奪われる事など無いと思っていた。

遊星が自分の傍から離れるのでは?と思っていたのも本当だ。

だが本気で離れる事が無いと思っていたのも本当だ。

それは、遊星が自分以外心を許していないと自負していたから・・・

でもそれが目の前で音を発てて崩れて行くのを感じた。

このままだと遊星が奪われてしまう!!

そう思うと足は、フラフラと男の横を通りすぎ様とするがそれを阻むかの様に肩を掴まれる。

「アイツに逢いたいのなら身の回りを片付けるんだな」

余裕の顔を見せる男の目がジャックをそこから先へ行かせまいと鋭い光を発している。

 

その目に呑まれてしまいそうになる・・・

 

ジャックは、牛尾から視線を外すとその場を立ち去った。

牛尾は、ジャックの背を見詰めながら

「ああ・・・何で手助けしてしちまったんだ・・・」

(でも仕方ねぇか・・・アイツが泣くよりかマシかぁ・・・)


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