変貌-4-


ジャックが外泊して3日目の朝・・・

(あれほど泊まりに行く時は、言えを言っているのに・・・)

冷蔵庫には、昨晩作った料理が手付かずのまま入っている。

遊星は、料理を取り出し先日修理したレンジに料理を入れ温めなおす。

遊星の住処にある家電は、全てが元々ジャンク。

それを直して使っている。

家具は、ジャックが何処からか調達して来た物ばかり。

テーブルの上に温めなおした料理を並べる。

食べきれなかった料理は、昼食に回す。

ココでは、無駄なモノなんて無い。燃えるゴミは、燃料代わりに燃やす。

生ゴミは、家庭菜園の肥料にする。

 

ガタガタ・・・

出入り口の方から聞こえて来る音に反応し

「牛尾か?そう頻繁に来て・・・」

向うとそこに居たのは、牛尾では無く怪我をしたジャックだった。

「遊星・・・牛尾って・・・」

壁に靠れながら問うが

「ジャック!!どうしたんだその傷!!」

遊星の耳に届いておらず遊星は、ジャックの傍に行くと彼の脇に躰を入れ抱き抱える様にしながら室内へと

向う。

ソファの上に座らせるとそのまま救急箱を取りにジャックの傍を離れ様とするが自分から離れる事が許せないのか

腕を掴まれてしまいそのまま引っ張り寄せられてしまう。

「危ないだろ!」

苦情を言うも腕を離してくれそうに無い。

「俺の傍に居ろ」

「薬箱・・・」

最後まで言う事が出来なかった。

[行くな]と紫の瞳に訴えられたから・・・

仕方が無いと諦めながら遊星は、床の上に座りソファに靠れかかった。

背後で布が擦れる音が聞こえたかと思ったらスルッと首に太い腕が回される。

そして首筋にかかる吐息。

俯せ状態でジャックが遊星の抱きついて来たのだ。

「そのまま・・・」

その声が聞こえたと同時にスースーと聞こえる寝息。

顔を見る事が出来ないがきっと安らいでいるのだろう・・・

「これじゃ動けない・・・」

テーブルの上には、温めなおした料理がそのまま手付かずのまま置いてある。

それをもう一度冷蔵庫に直したかった。

それ以前にジャックの手当てもしたかった。

一体何処で怪我をしてきたのか・・・手傷を負うなんて彼にしては、珍しい事だと思った。

 

そしてどれぐらい時間が経ったのか出入り口の方から音が聞こえる。

確認をしに行こうにも動く事が出来ない。

ヒョット顔を覗かせて来たのは、牛尾だった。

「アイツは、帰って来たの・・・か・・・」

「ああ・・・今朝帰って来た。今は、寝ているがな」

「寝ているか・・・こっちをしっかり睨んでやがるぜ」

「貴様何の用だ?」

「あ?テメェには、関係ないだろ?」

次第に険悪な感じになって行く処だったが

「どうやら身辺整理は、して来たようだな」

「言われるまでも無い」

「コイツを泣かせるな。もしコイツを泣かせたら承知しねぇからな」

完全に蚊帳の外状態の遊星。

だがこの2人の会話に入るつもりなんて毛頭に無い。

「遊星 幸せにしてもらえよ」

それだけを言い残し牛尾は、その場から立ち去った。

何かを納得したかのように。

 

「お前 寝ていたんじゃないのか?」

「寝ていたさ・・・だが物音が聞こえたので目が覚めた。」

「だったらいい加減この腕を解いてくれないか?」

「遊星・・・あの男とどう言う関係なんだ?」

腕を解くどころか更にキツクされてしまう。

「あの男って・・・牛尾の事か?アイツとは、何度もデュエルした。それだけだ・・・」

「躰の関係では、無いんだな」

「そんな事した事無い」

「アイツは、俺が居ない間ココに良く来ていたのか?」

「毎日来ていた。お前が帰って来たのかどうか聞きに・・・」

「俺?」

「理由なんて知らない」

ジャックと牛尾の間に何が在ったのか知らないし知ろうとも思わない。

当人同士の問題だろうから。

それを聞いて牛尾が何故毎日来ていたのか理由がジャックには、解った。

「遊星・・・・」

名前を呼ばれた後に小声でボソボソと話し掛けられるその内容に遊星の顔がみるみる赤くなって行く。

「お前!!そんなの・・・」

[出来ない]もしくは[お断り]と言いかけたが

「俺は、お前を感じたいのだが・・・」

肩の付け根に軽く唇を押し当てられてしまう。

「そっ・・・そんなの・・・女に頼めよ・・・」

先日ジャックと話していた女性。

多分ジャックのセフレの1人だろう。

だったら自分みたいにゴツゴツした抱き心地の悪いのを抱くよりプニプニと柔らかく抱き心地が良さそうな女を

抱く方が気持ちがイイと思った。

「それは、無理だな・・・全ての女と関係を切って来た。」

この怪我は、その代償だと言う。

その言葉に驚いて振り返ると紫の瞳と向き合う。

そして蒼い瞳を見開いていると

「貴様を俺だけのモノにしたい・・・」

真摯な眼差しで見詰められるとどう返事してイイのか解らない。

それに自分の顔が熱く赤くなるのが解る。

ジャックの顔をまとにも見る事が出来ない。

視線を逸らし床の方を見る。

「オレは・・・モノじゃない・・・」

「貴様は、俺のモノだ。そして俺は、貴様のモノだ。」

逸らされている顔を自分の方に向けさせると軽く触れる様なキスを遊星の唇にする。

「!!!!」

手の甲で口元を押えながら

「お前・・・なっ・・・」

何をする!!の一言も押えている手を退けられ再度落される口付けによって塞がれてしまう。

今度は、唇を舌先でなぞられる。

柔らかい唇から挿し込まれる舌先は、城壁の様に立ち塞がる歯列によって阻まれる。

だがそれも何度も撫でている最中に微かに開かれる。

その先には、自分が絡めたい遊星の舌が在るのだ。

微かに開かれた歯列の隙間から舌を忍び込ませると遊星の躰がビクッと反応をしてくる。

逃すまいと遊星の後頭部を押え固定する。

挿し込んだ舌で口腔内を探るが遊星の舌が見つからない。

更に奥に伸ばすと奥で遊星の舌を見つける。

限界まで伸ばした舌で遊星の舌に触れ絡ませる。

「・・・う・・・ふぅ・・・」

自分の口腔内を自分の舌を犯すジャックの舌にどう対向していいのか解らない。

為すがままになってしまう。

それに次第に気持ち良くなって来るのだ。

耳に聞こえる水音。

そして時折零れる甘い吐息。

 

一体どれぐらいの間そうしていたのか解らない。

遊星は、酸欠を起し軽い眩暈に襲われる。

そしてどう言う訳か躰に力が入らないのだ。

何時しかジャックも床の上に座り遊星と向き合う形で座っている。

ジャックの胸に凭れ掛かる様にしている遊星。

「遊星 貴様と一つに繋がりたい・・・」

キスの合間に何度と無く言われた言葉。

しかし遊星は、それに返事を返さない。返せない。

「・・・台所・・・」

「ん?」

「台所のテーブルの上にある料理を始末しないと・・・」

傷んでいるかもしれない。

もし傷んでないのなら今日の夕飯にでも・・・

「そんな事を気にしていたのか?」

「食べ物は、貴重だからな・・・」

「そうだな。このサテライトでは、食べる事に事欠く事さえ在るからな」

優しく遊星の頭を撫でていた手が急に離れる。

靠れていた時に感じた温もりが離れる。

代わりに感じるのは、冷たい布の感じ。

「ジャック・・・?」

「少しそこで待っていろ」

そう言ってジャックは、台所へと消えて行く。

暫くして戻って来たジャックの手には、テーブルの上に置いていた料理を持っている。

「折角だから一緒に食おうと思ってな」

「傷んでなかったのか?」

「変な臭いも味もしなかった。」

だから大丈夫だと言うジャック。

繊細な面と大雑把な面を持ち合わせている彼の行動に何故か笑みが零れてしまう。

「何を見て笑っているんだ?」

「否別に・・・」

目の前のリビングテーブルの上に置かれた料理。

ジャックは、床に座ると遊星を自分の膝の上に座らせ器用に食事を始める。

自分も床の上に座ると言う遊星の言葉は、当然却下した。

「やはり貴様が作る料理は、旨いな」

ジャンクフードばかり食べていそうな遊星だが以外にも自炊をしている。

仲間には、言ってないが小さいながらも家庭菜園をしている。

テーブルの上のお皿に乗っていた料理は、跡形も無く消え残っているのは、汚れのみ。

「腹ごしらえもしたし食後のデザートでも頂くとするか・・・」

「そんなの無い・・・あっ・・・やぁ・・・何処触って・・・やめ・・・」

片手で中心部分を布越しに掴まれ強弱を付けて揉まれてしまう。

もう片手は、シャツ越しに胸を弄る。

首筋に当たる唇にゾクゾクさせられ発せられる言葉に感じてしまいそうになる。

「あっ・・・やめ・・・ジャック・・・」

「止められない・・・貴様の温もりを感じたい。遊星 貴様を抱きたい。」

「あう・・・あっ・・・こんなの嫌・・・」

「何故?こんなに良い声出しているのに・・・」

「一方的な・・・やぁ・・・」

「一方的が嫌か・・・俺が一方的で無かった事なんてあったか?

俺が一方的だと言うが貴様や他の連中は、自己の意志を主張した事があったか?自分の意志で行動

したか?誰かが決めたレールの上をただ文句も言わず進んでいるだけじゃないのか?

俺が意見を問うても誰一人として己が意志を言わない主張しない。だから俺が一方的に決め貴様等に

行動を起させたんだろう?」

確かに言われてみればそうだオレ達は、自分の意志で何かをした事なんて無かった。

全てジャック任せだった。

もし自分で勝手に行動しそれが失敗したら?

仲間に迷惑がかかるのは、必死。下手をすれば仲間ハズレにだってされしまうかもしれない。

だったら誰かの言葉に従っている方が安全だ。何かあればソイツに責任をなすり付けられる。

そんなオレがジャックを『一方的』だと言えるのだろうか?

「・・・だが拒絶とは、言え初めて貴様が意志表示をした事に代わりは、無いな」

最後の部分は、耳元で優しく言われて思わずゾクゾクしてしまった。

「だが俺は、止めるつもりは無い。」

再開される愛撫の手に声を上げる遊星。

「ジャック・・・やめ・・・こんなのいやぁ・・・」

布越しに触れられていた中心部分は、今では外気に晒され淫靡な音を立てている。

「・・・オレ・・・あぅ・・・」

弱々しい抵抗を繰り返す遊星の躰。どんなに抵抗してもジャックの腕から逃れられないのにそれでもせずには、

おれなかった。

「オレの言葉も聞け・・・」

生理的涙を浮かべながら訴えると

「何だ?」

「どうして背中越しにこんな事をする?どうしてオレを見ない?お前が一方的なのは、本当は否定されるのが

怖いからじゃないのか?だから否定されないように・・・あっ・・・」

背中越しに感じていた温もりが今は、正面から感じる。

「否定・・・か・・・確かに否定されるのは、怖いな・・・特に自分が想いを寄せている相手から否定されるのは、

確かに怖い。拒絶されのも・・・」

優しくも見え悲しくも見える曖昧な笑みを浮かべ目の前に居るジャック。

そんな顔をされると胸がキュ〜と苦しくなる。

抱きしめたくなる。

「オレだって・・・こんな事・・・その・・・オレの意見も・・・その・・・」

上手く言葉に出来ない。

出来ない想いを唇に乗せてジャックの唇に重ねる。

遊星からの不意の口付け。

それに驚き見開かれる紫の瞳。


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