顔を見ぬ婚約者殿-1-


「キング もうそろそろ身を固める御決心をしていただけませんか」

恭しく頭を下げているのは、治安維持局長官レクス・ゴドウィン。

そしてそのレクス・ゴドウィンの目の前に居るのは、彼が『キング』と呼び仕えているジャック・アトラス。

若年にしてデュエル界の頂点に君臨している。

「しつこいぞ。俺は、まだそんな気にならん」

当然と言えば当然かもしれない。

ジャックは、まだ17歳なのだ。

やりたい事だっていろいろ有るのにそれを結婚などと足枷にしかならない事に興味を抱く筈もない。

「しかし優秀な遺伝子を残すのもキングの勤めです」

「それは、追い追い考えればいいだろう。それよりデッキの構築をしたい。」

それだけでジャックは、ゴドウィンを退室させる。

別にデッキの構築を本当にするワケでは、無い。

うんざりしているのだ。

事有る事に持ち掛けられる結婚話。

「自分の結婚相手ぐらい自分で見つける。」そう何度もゴドウィンに言っているのに聞きいれて貰えない。

多分自分に任せていたら何時になっても伴侶を見つけられないと思われているのだろう。

深く溜息が出てしまう。

気が進まないまでも今夜のデュエルに備えて準備に入る。

 

 

 

++++

 

「アトラス様 今夜対戦する相手の資料でも見られますか?」

年若い女性がジャックにファイルを見せるがジャックは、それを片手で制する。

資料を見て勝敗を想像する気なんて無い。

勝利を治めるのは、このジャック・アトラスしか居ないのだ。

そうキングは、一人で充分なのだ。

それに資料を見ればフェアじゃない。

デュエルは、神聖なモノなのだどんな理由であれフェアでなければならない。

「そう言えば局長がアトラス様の許嫁を御決めになられたそうですがどのような方なのです?」

試合前に精神を揺るがす発言。

秘書としてあるまじき事なのだが狭霧は、既にジャックがゴドウィンから聞かされていると思ってたのだ。

寝耳に水であるジャックは、

「相手なんぞ知らん。」

言葉では、冷静さを保ちつつも内心は荒れ始めていた。

 

 

---デュエルスタジアム---

狭霧の言葉が耳を離れないままジャックは、D・ホイールに跨っていた。

対戦相手のD・ホイールは、美しい真紅。

しかも既製品では、無い様だ。

相手の顔は、D・ホイールと同色の真紅のメットに隠されていて解らない。

男にしては、華奢な躰付きなのだが少々丸身に欠けている様にも見える中性と言う言葉が似あうかもしれない。

だが男であれ女であれ感じる気配は、自分を奮い立たすには充分な闘志。

(こんな心踊るデュエルは、初めてだ。)

まだ闘ってもいないのに心がこんなに騒ぐとは、しかも相手は自分を満足させるだけの技術があると何故か

そう感じた。

 

 

 

行われたデュエルは、白熱をきっしたがジャックの圧勝で幕を降ろした。

観客席から聞こえる歓声に応えつつもジャックは、相手の元へと向った。

予想していた通りの興奮するデュエル。

一歩でも間違えれば自分が負けていたかもしれない。そう何度も感じた。

自分をそこまで追いこんだ相手の顔を一目見たいと思っていた。

だが相手は、顔を見せる事なく。

「楽しいデュエルだったぜ」

それだけを言い残し倒れているD・ホイールを起こしその場を去ってしまった。

 

ココは、まだ闘技場なのだ。キングが相手を追いかける姿を観客に晒すわけにはいかない。

ジャックは、相手を追いかけたい気持ちを抑えながら控え室へと姿を消した。

控え室に戻るとライダースーツを脱ぎ急いで相手の控え室に向ったがそこには、人の姿が無い。

通りかかったスタッフに訪ねると試合終了後「D・ホイールの整備をしたい」と言われスタジアム内にある

整備室を教えたらしい。

ジャックも整備室の場所を教えてもらい急いで向う。

整備室から微かに感じる人の気配。

扉か少し開けると真紅のD・ホイールが見えた。

間違い無く相手は、ココに居ると確信が持てた。

扉を開け中に入ると一人D・ホイールに向う人物が居た。

「こんな所で何をしてる?」

整備室に居てやる事なんて決まっているのに我ながら陳腐な問いだと思った。

そして案の所相手から返って来る言葉も

「整備室で整備する以外何をするんだ?」

と問い返されてしまう。

低い声。

 

キングである自分が傍に居るのに目の前の人物は、自分を見ようとしない。

老若男女関係なく自分が傍に寄れば狂喜と歓喜の声を上げ自分の姿を眼に焼き付け様とするのに

目の前の人物は、全く自分に興味が無い様だ。

そして気が付く自分が相手の名前を知らない事に・・・

「お前 名前は、何と言うんだ?」

「対戦相手の名前を知らないでデュエルしたのか?」

痛い所だが正直そうだ。

深い溜息と同時に

「オレは、不動遊星だ。オレの名前を覚え様が覚えまいがキングであるアンタの自由だ。」

言われた名前。だがそれでも相手は、自分を見ようとしない。

カチャカチャと機械を弄る。

「それより キングがこんな所に何の用だ?」

何の用と言われても何と言って良いのか解らない。

自分だって何故ココに居るのか解らないのだ。ただ解っているのは、目の前に居る遊星に興味を持った事ぐらい

だがそれを口に出す気になれない。

「用が無いのなら邪魔をしないでくれ。気が散って仕方が無い。」

まさか邪魔者扱いされるとは・・・不愉快でしかなかった。

 


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