このお話しは、死にネタです。
それ故に不快感等を持たれましても
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残ったモノ-1-


ゴドウィンが南米に発って数日が過ぎた。

 

「今日は、何か否な予感がする・・・」

南米では、今日実験が行われる。

南米程では、無いが日本でも実験が行われる。

不安に駆られながらもアトラスは、研究室に来ていた。

 

何時もの中庭・・・

何時もの様に父親に付いて来たのだろう。

何時もの大きな木の下に何時もの様に遊星は、居た。

ただ何時もと違う雰囲気を纏いながら・・・

何時もは、大人しくゲームに興じているのに今日は、空を見上げている。

そんな遊星にアトラスは、

「遊星 空を見上げてどうした?変った形の雲でも見つけたのか?」

アトラスも遊星と同じ様に空を見上げたが雲一つ無い快晴。

一体遊星は、何を見ているのか首を傾げていると、

「・・・怒ってる・・・」

「?」

「・・・竜が怒ってる・・・」

「!!」

(この子には、人が見る事の出来ないモノが見えているとでも言うのか?そう言えば・・・)

以前不動が言っていた。

「あの子は、ジャック同様シグナーなんだ。」

「?」

「ああ・・・そうかアトラスは、知らないのだったな。シグナーと言うのは『赤き竜』を呼べる唯一の存在。

数千年に一度誕生する。シグナーには、それぞれ右腕に『竜の痣』が刻まれているのだ。」

「『赤き竜』を呼べる唯一の存在?だったら我々が行っている研究は・・・ジャックや遊星で事足りるでは

ないか?否それ以前に遊星の腕に痣なんて無い。」

ジャックの腕には、産まれた時から確かに痣が在る。だが遊星の腕には、痣なんて無かった。

何度も幼い遊星を抱き上げ間近で見て来たのだ見間違うはずが無い。

「シグナーは、5人居るんだ。だが長官言うには、今現世に誕生しているシグナーは、4人。しかも3人は、

幼児ときている。実験には、使えない。」

5人だと・・・しかも3人は、幼児で5人目は、未だ誕生していない・・・5人目は、何時誕生する?」

興奮し不動に詰め寄るアトラス。

「落ちつけアトラス。同じ時代にシグナーは、5人揃ってはならないんだ。」

「どう言う事だ・・・」

5人揃うのは、天地を揺るがす大きな禍が起きた時。その禍に立ち向かう存在がシグナーなんだ。」

天地を揺るがす大きな禍・・・それがどれほどのモノなのか想像が出来ない。

寧ろ何故ゴドウィンが現世にシグナーが4人しか居ない事を知っている?

ジャックの様に痣が浮き出たままならまだしも遊星の様に痣が浮き出ていない者も居ると言うのに・・・

しかも当の本人達は、自分がシグナーで背負った運命の事なんて知らないかもしれない。

否 多分知らない筈だ。今迄一緒に生活を共にして来た我が息子からそんな話しなんて聞いた事無いし

遊星の口からも聞いた事が無い。

寧ろジャックから「どうして俺の腕にだけこんな痣が在るの?」と問われた事が在るぐらいだ。

その時は「悪い奴等からこの世界を守る正義のヒーローの証なんだよ」と教えたぐらいだった。

まさか禍に立ち向かう存在だとは、その時の自分は、知らなかった。

 

 

「・・・じちゃ・・・おじちゃん・・・」

アトラスの白衣の裾を引っ張る遊星。

「どうしたんだ?」

そんな遊星の行動で我に返るアトラス。

「おじちゃん 皆が危ない!!皆に逃げるように言って!!」

白衣の裾を必死に掴み訴える遊星。

その蒼い瞳で何を見たのか解らなかったがアトラスは、咄嗟に遊星を抱き上げた瞬間、背中から大きな

衝撃を受けた。

 

 

 

---数分前---

ジャックは、学校に来ていた。

日本人向けの学校でも良かったのだが母親に言われアメリカンスクールに通っていた。

だが学校よりも父親が勤める研究所の方が好きだった。

寧ろあそこの方が勉強になると思った。

それに学校の友達と遊ぶより遊星と遊ぶ方が楽しいと思っていた。

だからジャックは、頻繁に学校を抜け出し研究所に行っていた。

最初の頃は、母親によく怒られたが世間に馴染めないで孤立してしまっている幼い遊星の世話をしている事

を知り怒るのを止めた。

ジャックの母親は、遊星の事を我が子の様に可愛がっていたからだろう。

それは、遊星の母親も同じ事、ジャックを我が子の様に可愛がっていた。

それに幼い子の御守をするのは、年長者の勤めだと常々ジャックに教えていたのだ。

自分の教えた事を素直に実行する我が子がジャックの母親にとって自慢だった。

例えそれが学校をサボろうとも・・・ただ悪い事をしない事が条件だったが。

 

ジャックは、何時もの様に学校を抜け出し研究所へと向った。

何時もは、ワクワクしながら行くのに今日に限って不安な気持ちで一杯だった。

しかも雲一つ無い快晴だと言うのに暫し変な長細い陰が見え隠れしているのだ。

何故かその陰が不安の元凶だと解った。

 

 

後もう少しで研究所に着くと言う時目の前に巨大な光の柱が天高く上って行くのが見えた。

そしてそれと同時に大地を揺るがす地響きとドーンと耳を擘く爆音。

立っている事もままならない。

回りに居た人々も膝から崩れる者や尻もちを付く者。

倒れまいと電柱や壁にしがみつく者、様々で転倒を免れる者も居た。

だが衝撃は、余ほどだったのか急いで掛け出すジャックの目に飛びこんできたのは、亀裂の入った壁に道路や

一部倒壊した家屋やビル。

それが光の柱が上がった場所に近付けば近付く程酷くなり全壊は、免れても半壊をした建物を多く目にした。

近代建築で半壊なら古い建築だと確実に全壊は、免れなかっただろう。

ワケが解らないまま建物の中に居て倒壊に遭い怪我をした人もいるだろう。

それでなくても人々の助けを求める声が所々聞えて来る。

否 全ての人は、ワケが解らないままだろう。

それなのに自分の足は、この災害の元凶となったであろう場所に向っている。

そこに行けば何かわかるかもしれないと思ったから・・・それにその場所に遊星がいるかもしれないと思ったから。

 

 

元凶となった研究所・・・

ジャックの目の前には、信じられない光景が展開していた。

倒壊し凄まじい炎に包まれ燃え上がる研究所の姿。

その熱は、外部に漏れないとしても・・・

研究所の外壁には、目に見える外壁と目に見えない外壁そして研究所を覆い包むバリアの三重構造になっ

ている。

見える外壁は、研究所の敷地を現しているが目に見えない外壁は、目に見える外壁とバリアの間に張られ

研究所を覆うバリアは、研究所内から高エネルギーが暴走した際それが近隣に影響を及ばさない為とテロからの

攻撃に備えて張られている。

ジャックは、何とかして中に入ろうとするが研究所を覆うバリアが高エネルギーの流出を抑える為門を開かなく

させてしまっていた。

「パパ!!パパ!!」

中に居るであろう父親を呼ぶも倒壊する音と炎の轟音とで聞える筈が無い。

それでも必死になって泣き叫ぶジャック。

目の前で崩れ行く建物・・・

「パ・・・パ・・・」

そんなジャックを覆うように巨大な影がバリアを引き裂く。

その裂け目から高エネルギーが流出するかもしれない・・・否 全く高エネルギーの流出が無い・・・。

だが今のジャックには、そんな事は、どうでも良かった。

危険を顧みず中に入り必死になって燃え盛る建物に向った。

自分をこの敷地内に入れてくれたモノの姿を見ず礼を口に出す事無く。

 

「パパ!!パパ何処に居るの?」

建物の傍に立ち何とか入ろうと試みるも熱くて足が進まない。

ジャックは、建物の回りを走りながら入れそうな場所を探した。

鼻を擘く異臭。

多分科学薬品の臭いと生物の燃えた臭いが混ざっているのだろう。

それでもジャックは、父親を探した。

そんなジャックの声が聞えたのか微かだが人を呼ぶ声が聞えた。

それは、次第に大きくなり燃え盛る炎の中から人の形を現し出した。

「!! パパ!!」

その姿が誰なのかハッキリした時の嬉しさと安堵感にジャックの足は、ガクガクと震えた。

そして父親の腕に抱かれている存在にも気が付く。

「遊星!!」

震える足で父親に近付くジャック。

「ジャック! 遊星を連れて逃げるんだ!!」

折角の親子の再会だと言うのにアトラスは、気を失っている遊星をジャックに託し逃げる様に指示をする。

「嫌だ!!パパも・・・パパも一緒じゃなければ!!」

「ジャック!!」

泣き叫ぶ我が子にアトラスは、厳しい表情で名を呼び。

「今お前が逃げないと遊星まで死んでしまうんだぞ。幼い遊星をお前は、殺す気なのか?」

その問いにジャックは、首を左右に振りなが

「だったらパパも一緒に・・・」

「ダメだ。この建物の中には、パパの大切な人がまだ居る。パパは、その人を助けに行かなければならない。

ジャック お前は、強い男の子だ。お前は、パパ達の代わりにママ達と遊星を守らなければならない。

ジャック生きるんだ。この先 どんな未来が待っていようとそれを乗り切る男になれ。

そしてお前が大切に思っている者を守り抜くんだ。パパの言う事が解るな?」

解らなかった。だがその場では、肯く事しか出来なかった。

「よし・・・行け。そしてパパ達の分まで生きろ。」

ジャックは、遊星を抱き上げ後を振り返る事無く走り出した。

そんな我が子の後姿を見ながら

(ああ・・・あれがジャックを守る存在なのか・・・)

黒くて大きなドラゴンがジャックを守るかの様に寄り添っている光景が見えた。

(遊星のは、白いドラゴンだったな・・・)

 

 


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