このお話しは、死にネタです。
それ故に不快感等を持たれましても
当方では、責任を負いませんしクレームも
聞きません。
読まれるかどうかは、閲覧者様の御判断に
お任せします。
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残ったモノ-2-


中庭に遊星と一緒に居た時、大きな爆音と衝撃が躰を襲った。

そのショックで気を失ったのか地面で倒れていた。

回りを見渡すと何か大きな物体に覆われている事に気が付く。

見上げると見た事の無い生物・・・

その生物は、大きく翼を広げ自分達を守っているかのように見えた。

そしてその翼の隙間から見えた光景・・・建物が大きな音を立てて崩れ燃え盛っていた。

それほど大きな衝撃だったのにアトラスは、かすり傷を負っただけだった。

何が起きたのか解らなかった。

記憶の糸を手繰り寄せ先ほどまで遊星を話していた事を思い出す。

遊星を探そうと見渡すとアトラスの直傍で倒れていた。

ただ解っているのは、研究所が倒壊した事。大方モーメントの暴走辺りだろう。

そして自分がかすり傷だけで済んでいるのは、この生物の所為

「お前が俺達を守ってくれたのか・・・」

そう呟くとその生物は、アトラスの方を見ながら何か訴えかけてきた。

それが何なのかハッキリとした意志表示が在った訳では、無いのにアトラスには何故か解った。

アトラスは、遊星を抱き抱え燃え盛り崩れ行く瓦礫の中を走った。

(この子だけは、助けないと!!俺の命に変えても!!)

目の前を不動の姿がチラツク。そこに居ない筈なのに・・・

まるでアトラスを誘導しているかの様に見えた。

アトラスは、迷う事無く不動の後を追い掛けた。

そして自分を呼ぶ幼い聞き覚えの在る声を耳にする。

それと同時に不動の姿が消えた。

まるで不動の命が費えたかの様に・・・

急に心の中に空洞が出来た感じがした。

今すぐにでも踵を返して不動を探したかった。

だが彼が愛して止まない彼の息子を助ける事が先決だった。

 

炎の先に捕らえる事が出た幼い影・・・紛れも無く自分の息子ジャックのモノだと判断したアトラスは、大声で

ジャックを呼んだ。

バリアの張られた外壁をどやって入って来たのか解らないが今は、そんな事を言ってる場合じゃない。

一刻も早くジャックに遊星を託し避難させなければならなかった。

アトラスは、遊星をジャックの腕に抱かせると逃げる様に進めたがジャックは、それを拒否し自分と一緒に逃げる

と言い出した。

だがそんなジャックを何とか宥め研究所から逃がした。

遠ざかって行く小さな後姿・・・

そんな後姿が何故か逞しく見え微笑ましい気持ちにさせてくれた。

「さて・・・俺は、アイツの元にでも行くか・・・」

自分達をココまで導いてくれたあの小柄な上司の元に・・・

アトラスは、今も崩壊を続け燃え盛る炎の中に戻って行った。

 

きっと普通の神経を持った者なら怖がって逃げ出してしまうかもしれない。

今の自分の気持ちは、穏やかだ。

これから死にに行くと言うのに・・・

否 穏やかとは、違う・・・どちらかと言えばワクワクやドキドキしているかもしれない。

この感情は・・・そうまるで初めてのデートをする日の朝の様かもしれない。

だが独身の時、女の子とデートをする日の朝こんなにもトキメイタ事なんて無かったような気がする。

(おいおい・・・これから逢う相手は、男だぞ?しかも妻子持ちの上司だ。そんな男にトキメイテどうする?)

だが好きになってしまっていたのだから仕方が無い。

(ああ・・・これから先、不動が俺以外の誰かと話しをしている姿を見る事無いんだ。

彼が妻と笑いながら話しをする姿も・・・皮肉なモノだなこんな形で不動を独占出来るなんて。)

不動との出逢いは、気が進まないまでも参加した学会。

そこで自分が発明し考えた理論を説明・発表した。

そこに居る学者達の姿が畑のジャガイモの様にしか見えなかった。

当然不動もそのジャガイモの1つだった。

会場を出る時、いきなり背後から話しかけられ思わず振り返ると小柄な男が息を切らせながら話し掛けて来た。

(馴れ馴れしい男だ。)

と思いは、したものの何故か小柄な男の事が気になり自分の提案で傍に在ったカフェへ入りお茶を堪能した。

そして知ったのだ。

彼もまた、この学会に来るのが嫌だった事。そして彼が手掛けている研究の事。

彼の話しを聞き意見していると次第に楽しくなってきた。

もっと彼と話しがしたい!もっと彼の事が知りたい!

そう思うと今の会社に居る理由なんて無かった。

家族に反対されても単身日本に渡るつもりだった。

きっとこの時、既に彼に魅了され虜になっていたのだろう。

そして家族を連れ日本に渡って来た。

彼の部下になり彼の傍で仕事をしだし彼の才能に触れ。

これほど心踊る毎日を送る事なんて無かった。

自分にとって有意義な毎日。そして新しい発見をする毎日だった。

彼の事が解れば解るほどもっともっと彼の別の一面を知りたいと更なる望みが募る。

その欲求に何度悩まされた事か・・・

彼の事を知りたいと思う感情に底なんて無かったのだから仕方が無い。

(全く罪作りな男だな。)

自分の思考で苦笑せずには、おけなかった。

まぁそれだけ満足させてくれる相手だったと言う事だ。

 

足は、恐れを知らぬかのように前へ前へと進んで行く。

何処に居るのか解らない相手の元へ・・・

否 彼の事なら全て解っているきっとあの場所に居る筈だ。

責任感の強い彼なら・・・

迷いなんて無かった。

 

モーメントが在る研究室の傍。きっと彼は、そこに居る。

そしてアトラスは、不動を見つけたのだった。

 

+++

 

アトラスから遊星を託され必死に走るジャック。

何度も躓きふら付き、転びそうになりながらも遊星を落とす事無く抱き抱えながら走った。

「う・・・ぐっ・・・」

涙を堪えながら何処をどう走ったのか解らなかった。

遊星の方がジャックより幼いとは、言え1歳しか違わない。

身長だってジャックの方が少し高いだけなのだ。

それでも必死に遊星を抱き抱え走った。

背後には、まだ見る事の出来ないドラゴンを2体従えて。

 

「うわぁ〜!!」

よろけた拍子に小石に躓き横転、そこで初めて遊星を離してしまった。

「うっ・・・うっ・・・うわぁぁぁぁ!!!」

腕にかかっていた重さが無くなり自分の中に在った重しまで無くなった様な気持ちになりジャックは、ココに来て

初めて大泣きした。

苦しくて苦しくて仕方が無かった。

「パパァ・・・」

何故かアトラスがもう自分の目の前に姿を現さないと思った。

遊星を自分に託したアトラスが自分の見る最後の姿だと思った。

「ジャ・・・ク・・・?」

ジャックの泣き声で目が覚めたのか遊星が何処かボンヤリとした表情でジャックを見上げながら優しく頭を撫でて

くれる。

きっとジャックが怪我をしたのか何処か痛いのか・・・そう思ったのだろう。

その小さな手は、ジャックに

(俺が遊星を守る・・・パパが守った遊星を今度は、俺が守ってやる)

生きる決意をさせる。

 

+++

 

「こんな所でオネンネですか?不動主任」

床の上に横たわる不動。

生きているのかどうか解らない相手にアトラスは、不敵な笑みを浮かべながら話し掛ける。

「ア・・・トラス・・・何故?・・・」

頭を少し浮かせ話し掛けて来た相手を驚きの表情で見上げる。

「何故?愚問だと思いませんか?俺を日本に呼んだのは、貴方だ。

俺を呼んだ以上最後まで面倒見て下さいよ。」

屈託の無い笑顔に

「面倒って・・・お前・・・」

不動は、呆れかえっていた。

「お前には、妻も幼い子供も居る身なんだぞ。こんな所に居ずに逃げろ。

お前程の才能が在ればオレを凌ぐ科学者になれる。こんな所で無に返すな。」

アトラスの未来を奪う事なんて出来ない。

彼の才能をこのまま散らすのは、今後の科学発展において痛手となるかもしれない。

それに・・・彼には、生きて自分の人生を全うして欲しかった。

自分の代わりに愛息子、遊星の成長を見守って欲しかった。

 

不動の足は、瓦礫の下敷きとなっていた。

既に痛みは、無い。多分圧し潰れているのだろう・・・。

細胞や皮膚の壊死も始まっているのかもしれない。

「おいおい、逃げろって簡単に言うけど退路は、既に絶たれているしお前だって妻子が在る身じゃないか?」

床の上で呑気に寝ている所為でボケたのか?と呆れ顔をしているアトラスに

「スマナイ・・・お前をこんな事に捲き込んで・・・」

申しワケなさそうな顔で謝る不動。

アトラスは、そんな不動に対し

「何を謝る?俺は、俺の意志でココに来たんだ。誰の意志でもない。」

「だが・・・オレがI2からお前を引き抜かなかったら・・・あの時お前に声を掛けなかったら・・・」

悔やんでも悔やみきれない。

「何を後悔している?全くお前は、不可解な男だ。確かにお前があの時声を掛けなかったら俺は、ココに

来なかったかも知れない・・・なぁ〜んて俺が思うか?どんな経緯を辿ろうとも俺は、遅かれ早かれお前に廻りあう

運命に有ったと思うけどな。」

「アトラス・・・」

「そう言えば俺がI2を辞める時どんなに喜んだと思う?」

アトラスは、不動と話しがしやすいように床の上に腰かける。

I2では、異端者扱いだった俺をお前は、たった1回の発表で認めた。どれだけ嬉しかった事か・・・」

認めただけじゃない研究をするチャンスを与えてくれた自分にとって最高のメンバーの居る場所で・・・。

そして自分が仕えるに相応しい上司の元で・・・。

アトラスにとって充分過ぎる程の環境だった。

ただ不満があるとしたら自分が初めて心の底から求めた相手に妻子が居た事だろう。

「オレは、お前が異端者扱いを受けていたなんて知らなかった・・・」

ここに来て不動は、アトラスの過去を全く知らなかった自分を思い知らされる。

「発表しているお前は、何処か自信ありげで、それでいてもっと自分の力を発揮出来る場所を求めている様に

見えたんだ。」

もしかしたら彼は、海馬Co.に来ればその力を発揮出来るのでは?と安易な気持ちで誘ってしまった。

否 安易な気持ちでは、誘えない・・・彼の才能を自分の傍で見てみたかった・・・と言う方が正解なのかもしれ

ない・・・それよりも彼の才能を・・・彼自身を手に入れたかったのかもしれない。

(なんて事だ。今頃になって気付くなんて・・・)

思わず苦笑してしまう。

自分は、アトラスに一目惚れをしていたのだ。ただ彼が男というだけで気付かなかった。気付くのが怖かった。

「何を1人で笑っている?気味が悪い。」

「あっ・・・いや・・・スマナイ。」

「・・・不動いよいよ話しも出来なくなって来たな・・・」

喉が痛い。呼吸がしずらい・・・。

「最後に俺からの頼みを聞いてくれるか?」

「何だ?改まって」

「最後なんだ。キスをさせろ。」

「!!」

鳩が豆鉄砲を食らったかの様な表情でアトラスを見上げる不動。

言ってしまった手前アトラスは、気恥ずかしくて仕方が無い。

だが最後に最愛の人に触れて死ねたら本望だと思った。

 

罵声を浴びせられ断られる事を覚悟していたアトラスだったが彼の耳に信じられない言葉が聞えてきた。

「ああ・・・かまわない。オレの意識が吹っ飛ぶぐらい激しいキスをしてくれ。」

「いいの・・・か?」

自分からキスをさせろ。と言っておきながら確認してしまう。

だってそうだろ?男同士なんだ「気味が悪い」とか「お前、変態だったのか?」そんな事を言われると思っていた

のに・・・まさか承諾されるなんて誰が思う?

「何をしている?それとも動けないオレからキスをしろとでも言うのか?」

上体を起こしただけでは、アトラスに触れる事なんて出来ない。

アトラスからしてもらうしかないのだ。

「それとも『オレもお前とキスがしたい。』がいいのか?」

不敵な笑みで言う不動にアトラスは、胸を射ぬかれる思いをした。

「ククク・・・イイ誘い文句だ。何時死んだのか解らなくなる程のキスをしてやる・・・」

互いの顔が紅いのは、照れているのかそれとも自分達を包む炎の色なのか。

ゆっくり近付くアトラスの顔に出来るだけ自分からも近付こうとする不動。

触れあう瞬間。

「もし来世と言うのがあるのならオレは、お前ともう一度廻り合いたい・・・」

「!!・・・ああ・・・俺もだ・・・」

 

 

 

+++

 

「・・・そうですか日本の研究所が・・・」

南米で行われていた実験は『赤き竜』の逆鱗に触れ小さな村ごと研究施設を消滅に追いやった。

そしてそれと同時刻に日本では、モーメントの暴走により研究施設が跡形も無く消滅した。

「優秀な人材が失われましたね。」

難を逃れたゴドウィンだったが彼自身無傷と言うわけは、無かった。

失われた片腕。

そして失ったであろう心・・・。

瞼を閉じれば彼が一目を置いていた不動主任やアトラス達の姿が思い出される。

「彼等の子息の行方は?」

「消息不明です。2人とも研究所付近で目撃は、されているのですが・・・」

母親達の元にも帰っていないのだ。

報告するイェーガーの顔を心無しか雲って見える。

折角見つかった『シグナー』を2人も失う痛手なのか、それとも幼い彼等の事を気にしてなのか、それを知るのは

本人のみ。

「あの子達は、生きていますよ。そして星の廻りにより又、彼等と出逢う事になるでしょう。」

 

 

その時まで貴方達を探すのは、止めておきましょう。

星が廻るままに・・・


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