冥界からのプレゼント-1-
遊戯 よもや貴様は、この俺の誕生日を忘れたワケでは、あるまい・・・
首からぶら下げているロケットの蓋を開ければその中に納められている写真は、モクバと遊戯のモノ。
海馬が家族以外で心を許した唯一の存在。
そして海馬自身初めて心惹かれた相手なのだ。
その意中の相手は、今冥界等とワケの解らない死者が集う場所に居る。
オカルトなど信じないが如何せんヤツは、そのオカルトの世界に生きているのだ。
現世に居れば何時でもヤツを略奪し傍に置いて置けるモノを・・・。
生きては、逢えぬ場所に居る以上どうする事も出来ない。
「遊戯・・・」
逢いたい・・・触れたい・・・声を聞きたい・・・
無くして初めて知る自分の心の中で占める彼の存在感。
狂おしいと表してもおかしくないだろう。
---冥界---
現世の様な時間の流れとは、異なる世界・・・
ギラギラと照りつける太陽。
それは、まるで彼の熱い眼差しを思い出させる。
躰を持たぬ自分に一個人として終始接してくれた相手。
死して冥界に居る自分の心を捕えて離さない。
(逢いたい・・・)
冥界に居ても彼の事を忘れた事なんて片時も無かった。
政を行っている最中でさえ
(もし海馬が居たら・・・)や(海馬ならどうするだろう?)とか・・・
彼を思い出さない日なんて無かった。
そして時折、夜になると彼の温もりを思い出し自慰に走りかけてしまう事だってあった。
今でさえ海馬の事を思い出すと躰が彼を求めて反応してしまうと言うのに。
そんな自分の躰の反応に苦笑しつつも首を擡げる欲望を抑えるのに必死だった。
今の自分の現状を知られたくない相手がすぐ傍に居るからだ。
・・・海馬と同じ顔を持ち海馬と同じ名を持つ・・・セト・・・
彼には、知られたく無かった。
知られればきっと彼に甘えてしまうかもしれなかった。
それに彼を海馬の代役にしてしまうかもしれなかった。
それが怖かった。
海馬とセトは、同じ魂を持っていても同じ顔をしていても別人なのだ。
甘えては、イケナイ。セトを海馬の代わりにしては、イケナイ。
だがセトを見ていると海馬に逢いたくなり、海馬に抱きしめて欲しくなる。
海馬の温もり、力強さを感じたくなる。
声を聞き、何時も自分を翻弄してきた傲慢な態度でもう一度翻弄して欲しくなる。
海馬ニ逢イタイ・・・
もうすぐ海馬の誕生日・・・
傍に居て祝ってあげたい。
一日だけでもいい・・・海馬の傍に居たい。
生者と死者との壁が有る限り触れあう事なんて出来ない。
逢う事なんて出来ない。
解っていても求めてしまう。
解っているからこそ余計に求めてしまう。
(ああ・・・古代に居た頃のオレは、こんなに貪欲までに自分の心に支配された事なんてあっただろうか?)
芽生える欲望にどう対処していいのか解らない。
生前自分は、民の為に生き。民の為に死ぬ事を当然の様に思って生きていた。
自分の存在は、民の為だけにあり自分自身の為に有るわけでは、無いと思っていた。
しかし<武藤遊戯>の躰に宿り海馬に出逢い戸惑いながらも恋に堕ち初めて自分自身の為に存在する
意味を知った。
海馬は、自分にいろんな事を教えてくれた。そしていろんなモノを与えてくれた。
それなのに自分は、海馬に何を教えられただろう?何を与えられただろう?何も教えず、何も与えて居ない。
胸が張り裂けんばかりに苦しかった。
そんなアテムを傍で見ていたセトの心は、複雑だった。
(アテム・・・貴方は、私を見ようとはしない。
それほどまでに海馬瀬人に私は、似ているのですか?
それほどまでに海馬瀬人に心を奪われたのですか?
海馬瀬人・・・私は、アテムにこんなに求められる貴方が羨ましくも有り憎くも有る。)
同じ魂を持っていると言うのに全く違う存在。
アテムの魂は、自分と共に有るのに心は、海馬瀬人の元に有る。
決して手に入らないもの。
セトは、苦しむアテムの姿を見るのに限界を感じていた。
(アテム 私が貴方の願いを叶えてみせます。だからそんなに苦しまないで下さい。
貴方には、何時までも微笑んでいてもらいたい。)
エジプトのファラオだったアテムの心からの微笑みを自分達は、見た事があっただろうか?
生まれた時から・・・生きたまま民の為に国の為に神に捧げられた贄。
そんな存在に心からの笑みなんて出来るのだろうか?
自分達に向けられるは、造った笑み。仮面の笑みだったと今なら思える。
セトは、アテムが遊戯をして現世に居た時影ながら彼を見守っていた。
だから海馬瀬人に出逢い恋に堕たのも知っている。
そして海馬瀬人にしか見せない心からの笑みも知っていた。
「アテム様 治水工事の事についてですが・・・」
「・・・セト・・・」
この際話題なんて何でもよかった。
ただアテムに近付きたかった。
近付いて彼を抱きしめたかった。
近付いて来たセトに腕を掴まれ背後から急に抱きしめられ驚くアテム。
「なっ・・・セト!!何をする?離せ」
言葉で強く抵抗しても躰は、全くと言ってイイほど抵抗をしない。
寧ろもっと強く抱きしめて欲しいと願ってしまう。
「アテム・・・貴方は、何を悩んでおられる?」
耳元で囁く様に言われアテムの背筋がゾクソクした。
海馬と同じ声・・・
だが抱き締める腕の太さ、胸の逞しさ、漂う匂いが海馬と異なる事を告げる。
「・・・セト・・・離してくれ・・・」
背中から抱きしめられているのでセトの表情を見る事が出来ないしセトからアテムの表情を窺い知る事
が出来ない。
「断る・・・」
首筋に当たるセトの唇に躰が震える。
「アテム・・・俺の・・・俺だけの王よ・・・何故その心は、俺に向かない・・・何故あの男の方に向いている?
もう俺の方に向いてくれないのか?」
セトの言葉にアテムの紅い瞳が見開かれる。
(あの男・・・セト・・・気が付いて・・・いたのか・・・?)
誰にも悟られぬ様にしていたのに・・・海馬への想いを胸に中で圧し殺していたのに・・・
セトには・・・セトだけには、隠せないのか?
締め付けられる程に苦しい胸の内。
余りの苦しさに涙が溢れそうになる。
「ゴメ・・・ゴメン・・・忘れられない・・・」
幾らセトとアテムが生前恋人同士の関係があったとしてもアテムの心は、海馬へと向いているのだ。
どうする事も出来ない。
「俺なら御身をこれほど迄に悲しませないというのに・・・」
「解ってる・・・セトは、優しいから・・・」
だから自分の胸の内をあかす事が出来なかったのだ。
「・・・アテム・・・一夜だけなら願いを叶えてやる・・・」
「セト?」
少し黙っていたセトが言った言葉にアテムは、意味が解らなかった。
「あの男の生誕の日が近いのあろう?一夜だけなら御身を現世に行かせてやる。」
「!!」
「だが俺の力で行かせてやれるのは、一夜限り・・・それ以上は、無理だ。」
「何故・・・そんな事・・・」
「俺は、貴様を愛している。この想いだけは、未来永劫変る事は無い。それに貴様の悲しむ顔も苦しむ顔
も見たく無い。貴様は、俺にだけ輝く天に太陽〈ラー〉であって欲しい。第一あの男の魂は、我が魂の片鱗。
貴様は、今尚俺を・・・俺の魂を想っている事に変りは無いと言う事だ。」
「無茶・・・苦茶だぜ・・・」
「どんなに性格が違えど奴は、俺だある事は変り無い。それに奴の魂が現世から離れた時我が身へと戻る。
その僅かな時間貴様の心を奴に預けておくのも悪く無い。」
どんな想いでセトが言っているのか解る。
もし自分がセトと同じ立場なら変な理由をつけてでも同じ事をしたに違いないから。
セトの力を借り現世へと向う決意をするアテム。
出来る事なら一夜とは、言わず彼を現世へと復活させたかった。
だがそれは、一神官のなせる業では無い。
せいぜい出来て一夜だけなのだ。
それでも掛かる負担は、半端なモノじゃない。
「アテム あの洞窟を抜ければ現世へと行ける。」
セトが指差す方向には、人1人がやっと入れそうな小さな穴がポッカリと開いている。
「解っていると思うが貴様が現世に居られる時間は、明けの鶏が鳴く時までだ。」
「ああ・・・解っている・・・セトありがとう・・・」
「現世では、今月の神シンが支配している時間・・・早く行け。」
セトJは、アテムの背を押し先にいく事を進める。
後押しをしてくれるセトの顔を一瞬だがアテムは、振り返り見た。
何処か寂しげな笑顔。
それが胸に突き刺さる思いがした。
だがセトが用意してくれた時間を無駄に出来ない。
その一心でアテムは、洞窟内を走った。
「セト 水臭いじゃないですか?」
「我々にも協力させろ」
セトの背後からかかる声。
セトは、それに振り返る事なく。
「貴殿等の鼻は、犬並みだな」
そう嫌味を含めながも協力を拒まなかった。