冥界からのプレゼント-2-
洞窟を駆けている時、胸に過った不安。
それは、海馬が自分の事を覚えているのかどうか・・・。
冥界と現世では、多分時の流れが異なっている筈。
もしかしたら遊戯の事を忘れ新しい相手を見つけ共に生活を送っているのでは、無いだろうか?
そんな不安が胸を過る。
それゆえに歩みが遅くなり戸惑いが生まれる。
しかしそんな事を言ってられない。
折角セトが現世に行く機会を作ってくれた。
それだけでも無駄に出来ない。
それにもしかしたら海馬は、覚えてくれているかもしれないじゃないか。
不安と期待を胸に抱きアテムは、歩みを進める。
その身は、エジプトのファラオから一介の高校生だった〈武藤遊戯〉と言う人物の躰を借りている時と同じ
姿に・・・。
この姿は、他の神官達からの一夜限りの贈り物。
洞窟を抜けるとそこは、海馬邸の門前。
懐かしい気持ちに支配される。
少しでも早く海馬に逢いたくて何度この門を塀を乗り越えた事か・・・。
あの時の自分は、怯えながらも本当に行動力が有ったとつくづく感心してしまう。
それに引き換え今の自分は、臆病なのかもしれない。
それでも自分自身に勇気を与えながら遊戯は、勝手知ったる塀を乗り越え海馬邸に侵入を試みる。
21時・・・
その頃、遊戯が海馬邸に侵入した事を知らない海馬は、自室のソファでネクタイを緩め寛いでいた。
テーブルの上には、持って帰ってきた書類。
今日中には、目を通しておきたかったのに全く持って仕事が身に入らなかった。
能率が上がらないのなら早く帰宅しようと思い帰って来た。
それに『もしかしたら遊戯が来るかもしれない・・・』と言う思いに支配されていたから。
だが一日待ったが遊戯は、訪れる事が無かった。
きっと遊戯は、自分の事を忘れ冥界で暮らしているのだろう・・・そんな思いが芽生え始めていたがその反面
現世に来たくても冥界から出てくる術が無いのか?
遊戯が来ない事にいろんな妄想が海馬の脳内を占め出す。
そんな時フワァ〜と風が入って来た。
「フッ・・・俺としたことが・・・」
遊戯が現世に居た頃何時でもこの部屋に入って来れる様にベランダの扉を1ヶ所だけカギを掛けずにいた。
その習慣が抜けないのだろう未だにカギを掛けられないでいる。
(いい加減 忘れなくては、イケナイのに・・・)
忘れられない。
海馬が苦笑してソファから立ちあがろうとした時 柔らかい・・・それでいて確かな感触が首に触れる。
海馬の蒼い瞳に映ったのは、見覚えのある紺色の学ランの裾。
「ゆう・・・」
「・・・しぃ・・・このまま・・・」
愛しい者の名前を口にしかけた時制止されたがその声・・・この温もり・・・確かに海馬が想い描いている
相手のモノ。
首に回された腕に手を当てながら
「戻って来たのか・・・」
「時間の制約があるけど・・・海馬に逢いたくて戻って来た・・・」
「貴様の顔を見せろ」
その言葉に無言のまま首に回っていた腕が解かれゆっくりとだが確実に海馬の横へと移動しているのか解る。
遊戯が海馬の隣に立った時、遊戯を見上げる蒼い瞳が優しく揺らいでいるのが遊戯には解った。
優しく差し伸べられる腕。
迷う事なく遊戯は、その腕の中に入って行った。
海馬の足を跨ぐ様に座りながら海馬に強く抱きしめられているというのにその腕の強さが『優しい』と感じてしまう。
胸元に鼻を摺り寄せれば懐かしい匂い。
鼻の奥がキュッと痛くなる。泣く前の前兆なのかもしれない。そう思っていると、
「遊戯 何を泣いている?」
頭上から聞える声に胸がギュ〜と締め付けられる思いがした。
「煩い・・・泣いてなんか・・・」
くぐもった声で否定してもその声は、力弱く震えている。
遊戯の頭を撫でながら彼が自分で顔を上げてくれるのを待った。
暫くして遊戯は、海馬の胸元から顔を上る。
「海馬・・・誕生日おめでとう・・・」
目許を赤くしているのは、泣いた所為か?それとも恥かしさからなのか?
「覚えてくれていたのか?」
「ああ・・・お前の誕生日を忘れる事なんて出来ない。」
海馬がこの世に誕生した日。もし彼が誕生しなかったら自分は、どんな人生を歩んでいたのだろう?
海馬が居たから自分は、強く在り続けられたのかもしれない。
遊戯は、海馬の唇に自分の唇を重ねる。
「お前に誕生日プレゼントを用意してやりたかったけど冥界のモノを持って来る事が出来ない・・・
手ぶらでスマナイ」
海馬が喜びそうな品を見定めていたがセトに
「冥界のモノを現世に持って行っては、なりません。」
「どうしてだ?」
「冥界のモノは、死者が使う為に存在しています。現世の者が冥界のモノを持てば魂は、現世に留まって
いる事が出来ないのです。私が言わんとしている事が解りますね?」
生者が持てば死を意味すると言うのだ。
だが冥界に居る遊戯にしてみれば現世のモノなんて手に入る筈も無い。
困り果てていると
「何も持って行く必要は、在りません。あの者は、貴方さえ居ればそれでいいはずですから。」
そう言ってくれたセト。
セトの言葉を信じ遊戯は、何も持つ事無く現世に来たのだ。
「そんなモノなど必要無い。貴様が俺の傍に居る。それだけで充分だ。」
海馬のその言葉に遊戯は、
(セトが言ってた通りだぜ・・・流石同じ魂を持っているだけの事は、ある・・・)
思わず関心してしまった。
だがそんな事を口に出せばきっと海馬は、不愉快な顔をするだろう。
彼は、自分の口から他人の名前が出る事を快く思ってない。
それにそんな事で折角の時間を無駄にしたくない。
「遊戯 貴様は、時間に制約が在ると言っていたが・・・」
「明けの鶏が鳴くまでの間だけ現世に居る事が出来る。」
「この世から明けの鶏なんぞ居なくなってしまえばいい。そうすれば貴様は、俺の元から居なくなる事なんて
ないのに・・・」
「そんな事言ったって結局その代わりが出来てしまう。」
「フン・・・」
時間の制約なんて何とつまらないモノまで付いて来たのだ。
しかも時間が短すぎるでは、ないか・・・。
もし遊戯が来ればアレコレといろんな事を考えていたのにそれが出来ない。
「遊戯 貴様デッキは、持っているのか?」
「いいや・・・持ってない。」
デッキは《剣》・・・冥界に帰る時、持っていたカード全てを現世に置いて行った。
その為カードは、1枚も持っていないのだ。
「俺は、無駄に思い出話で時間を費やす気は、無い。デッキも無いと言うのなら貴様の躰で語りあうしか
ないな。」
遊戯との久しぶりのデュエルだったがデッキを持っていないとなれば諦めるしか無い。
デュエル以外のゲームも一瞬過ったがやはり遊戯を相手にするならデュエルが一番面白い。
しかしデュエルが出来ないのなら折角遊戯と過ごす事が出来る僅かな時間を有意義に使わないといけない。
それなら久しぶりに躰で語りあうのもよかろう。
「いきなりベッドかよ・・・」
不満は、あった。
もっと海馬といろんな話しがしたい。
自分が居なくなった後どんな事が在ったのか些細な事でもいい、知りたいと思った。
「貴様自身がこの俺に用意された誕生日プレゼント。だったら今の貴様を自由に使わせろ。」
嬉しそうな笑みを浮かべ近付いて来る顔。
彼が何をしようとしているのか自分が何をされようしているのか解っているから遊戯は、大人しくそれを受け
入れる。
久しぶりの感触。
触れては、離れ。
離れては、触れる。
啄む様なキスを何度も繰り返す。
啄む様なキスは、濃厚なキスへと変る事無く繰り返されるが次第にそんな柔らかいキスに物足りなさを感じた
遊戯が海馬の首に腕を絡め自分からもっと深く・・・もっと奥迄・・・と自分で海馬の口腔内に舌を入れ絡め
出す。
そんな遊戯の態度に海馬は、口角を上げながら遊戯の後頭部を押え濃厚なキスを返す。
濡れた音が零れる吐息が互いの聴覚を犯す。
どちらのモノのとも解らない唾液が互いの頬を顎を濡らして行く。
キスをしているだけなのに興奮してしまう。
心が躰が昂ぶってしまう。
気が付けばキスをしながら互いの躰を弄りあい互いの体温に触れ様としている。
2人の間にある布が邪魔で仕方が無い。
海馬は、遊戯の学ランを脱がせシャツの裾から手を入れ肌理細やかで瑞々しい肌に触れ遊戯は、海馬の
ワイシャツのボタンを外し合わせの部分から手を入れ逞しい胸に手を這わせる。
海馬の足を跨ぐ様に座る遊戯の中心部分と海馬の中心部分がズボン越しに触れあい互いに感じ熱が
篭っている事を感じさせる。
最初の頃に見せた抵抗も『触れたい』と思う気持ちには、勝てず遊戯は海馬に身を委ねた。