密室-1-
不動の下に就いて数週間が過ぎた。
挨拶と称し毎朝不動の柔らかな唇を堪能する日々。
しかしそんな事で満足する日々は、過ぎた。
更にステップアップする為にいろいろと画策しなければならない。
正直な所面倒臭い事なのだが確実に不動を手に入れる為には、仕方がない。
「不動主任の研究室に入るのは、初めてだ。」
「そう言えばそうだったな。」
何度もアプローチをかけ不動の助手の地位を手に入れた。
アトラスにしてみればどんなに高位を進められても不動の助手と言う地位に比べたらカスも同然。
「散らかっているが驚かないでくれ。」
苦笑しながら自動ドア横に取りつけられている読み取り機で人相チェックと眼球チェックに指紋認証を行い
更に音声認証まで行った上でやっとロックが解除される。
こんなまどろっこしい方法を取らなくてももっと簡単にすればイイとは、思うが大事な研究資料が奪われる事
を考えれば厳重にこした事は、無い。
ロックが解除されると自動扉が左右に開かれる。
散らかっている部屋・・・
を想像していたのに不動の部屋は、整然と片付けられているではないか!!
しかも棚一段事にラベルが貼られておりどこにどの書籍や書類がが納められ何処にフロッピーやCDが入って
いるのかも事細かく書かれている。
しかもフロッピーやCDには、ラベルが貼られている。
こんなに片付いている研究者の部屋に入るのは、初めてなのでアトラスは呆気に取られてしまった。
否 呆気に取られる以前に自分が想像し脳内でシミュレーションしていた事が出来ない事に愕然とした。
---アトラスの脳内で行われたシミュレーション---
まず不動の研究室に入り散らかっている部屋を見て驚いてみせる。
「何て雑然とした部屋なんだ。これでは、研究に身が入らないだろう?」
「どうも片付けが苦手なんだ。」
苦笑する不動。
アトラスは、両手を肩の所まで上げ掌を上にしながら、
「俺が片付けるから主任は、その辺にでも座っていて下さい。」
「スマナイ・・・あっでもオレも一緒に片付けるよ。1人より2人の方が早いから」
そう言って2人で肩を並べて片付けをする。
ひょんな事から不動は、床の上に置かれている荷物に躓きアトラスの元に倒れ込む。
それを驚いた表情を浮かべながら倒れて来た不動を受け止め、
「危ないな」
と一言呟く。
「ス・・・スマナイ。」
そしてバツが悪そうな顔した不動がアトラスの胸に手を当て離れ様とするがそんな不動を力強く抱きしめながら
「俺が居なかったら怪我をする所だった・・・」
安堵の溜息を零す。
「あ・・・アトラス。離れてくれないか?」
自分の醜態を見られ恥かしいのか顔を朱に染めながら離れたがる不動。
そんな抵抗を防ぐかの様に更に力を込め、
「主任に怪我が無くて良かった。もし怪我をされたらと思うと居ても立っても居られない。」
優しく耳元で囁くとそれが擽ったいのか不動は、首を亀の様に竦める。
「やはり貴方には、俺が必要なんだ。」
ギュ〜と片手で不動を抱きしめもう片手で不動の顎を捕え上向かせる。
瞳を潤ませ顔を朱に染めた不動。緩く緩んだ唇に誘われるかの様に唇を重ねる。
何時もの啄む様なキスでは、無く舌を絡めるキスをし吐息を奪い唾液を交換しあう。
膝が崩れ酸欠を起こしアトラスの胸に寄りかかる不動が余りにも可愛くてアトラスは、口角を上げながら
傍にあったソファの荷物を除け不動を横たえる。
「アトラス・・・?」
何をされるのか解っていない不動に優しく。
「全てを俺に委ねて欲しい。」
と呟き不動に覆い被さる・・・
筈だったのに・・・筈だったのにぃ〜!!!!
これでは、予定外では無いか!!!
今日こそ不動を手中に納める筈だったのだ。
だから帰宅するのを止めたのだ。
それなのにこんなに片付いていたら・・・。
(否・・・何を混乱する?新たにシミュレーションすればいい。どうせこの後夕飯を共にするんだ。
シャワーだって互いに未だ浴びてないし寝る所だってシングルベッドが1個だけだろう。不動の事だベッドを俺に
譲りソファにでも寝るかもしれない・・・さぁ俺の優秀な脳よ。不動を手に入れる為の策を練るのだ!!)
彼とて学者なのだ脳内で不動とのエッチな事を考えながらも目の前に在る資料が気になる。
気なるってモノじゃないかもしれない興味が湧くものが殆どだ。
棚から見覚えの有るCDを手にすると、
「これは、先日主任が考えられた式を元に3Dにした・・・」
「ああ助手が優秀だったから3Dとは言え短時間で形を見る事が出来た。そのお影で改良点とかも早く見つかり
更に手を加えたモノも一緒に入れてある。」
他の助手では、不動の考えを形にしようものなら数日は掛かっていた。
それをアトラスは、不動の呪文の様な言葉を聞き漏らす事なくPCに入力し形を作ってみせたのだ。
それが切っ掛けでアトラスは、不動の助手になったのだ。
しかも短時間で一番の片腕としてその地位を手に入れた。
アトラスは、CDを見ながら驚いていた。
自分が入力したデータは、完成したモノだと思っていたのに不動は、それが未完成だったと言うのだ。
測り知れ無い英知を持つ不動。
彼の才能の奥深さにアトラスは、舌を巻く思いがした。
「オレの考えている事を形に出来る奴が居るなんて流石にあの時は、驚いた。」
嬉しそうに語る不動にアトラスは、満足感を覚える。
「ハハハ・・・そんなに喜んで貰えるとは、光栄だ。だがそれを言えば俺だってそうだ。自分より優秀だと思える
人物の元で研究を行える。そしてそれが自分にとって更なる知識へと変り飽く事無く更にその先を求めてし
まう。科学者にとって終わり無き研究こそ生きがいと言うモノだろう。」
何処か満足気で嬉しそうに話すアトラス。
科学者としの飽くなき探究心。
「そこまで言って貰えてオレとしても嬉しい限りだ。」
今迄自分の事をここまで誉めてくれた人物なんて居ない。
何時も何処か遠巻きで見られていた様な気がした。
まるで物珍しい珍獣でも見るかのように・・・
だからアトラスの言葉が何だか擽ったい気持ちになってくる。
「アトラス 先に風呂に入るとイイ。まぁ風呂と言ってもシャワーしかないのだが・・・」
「?・・・ 主任は?」
部下である自分が先に入っていいのだろうか?
そう問いたそうにしているアトラスに
「オレは、夕飯の準備をしてるから」
「What?! 料理が出来るのか?」
「ああ・・・出来ると言っても簡単なモノしか出来ないし味の保証は、出来ないが・・・」
照れ臭そうにしている不動に対しアトラスは、驚いていた。
何に対してか・・・それは、不動が料理も出来る事だ。
夕飯は、社員食堂からの店屋物だとばかり思っていたのだ。
(もしかして不動は、泊まりの度に自炊していたのか?)
そう思うと何故もっと早く行動に出さなかったのか?
そうすれば早くから不動の手料理が食べられたかもしれないのに。
そう思うと悔やまれて仕方が無い。
「シャワールームは、その扉の向こうに有る。もしかしてアトラスは、ブリーフ派なのか?」
「?」
「下着の事だよ。」
「何故そんな事を聞くのだ?」
「風呂上がりに前に穿いていた下着を着けるワケにもいかないだろ?」
「もしかして主任の下着を?」
「まさか、そんな事は無い。新しいのを出そうと思っていたんだが生憎とトランクスしかないんだ。
もしブリーフを着用しているのなら購買で新しいのを購入して来ようと思ってな。」
「穿けたらどっちでもいいんだが・・・」
だが・・・自分と不動の体格を見たら当然、体格の大きい自分が不動のトランクスなんて穿ける筈が無い。
「もしかしてサイズの事を気にしているのか?」
「ああ・・・」
図星を指され肯く。
「心配するな。以前間違えて大きいサイズを買った事があるんだ。返品しようかと思ったんだがなかなか返品
しに行く機会が無くてそのままになっているのが在る。多分アトラスなら穿けるんじゃないかな?」
恥かしい失敗談だったのか苦笑する不動。
(普通サイズ間違いなんかして大きいのを買うだろうか?寧ろ小さいサイズを買うと思うんだが・・・まさか!!
サイズ間違いと称し俺の為に用意していたのでは?)
不動は、隣室に行くとタオルと袋に入った下着を持って戻って来た。
「さぁ 早く入って来い。」
タオルと下着をアトラスに手渡しシャワールームへと背を押す。
そんなやり取りをアトラスは、頭の片隅で、
(まるで新婚夫婦のやり取りの様に感じてしまう・・・)
思ってしまっていた。
小ぢんまりとしたシャワールーム。
だが簡易的に設置されたモノでは、無いので作り自体はしっかりしている。
備え付けられているシャンプー・リンス・コンディショナー・ボディーソープのボトルを手にしながら銘柄をチェックする。
ボトル自体は、統一されているものの中身まで統一されているとは、言い難いが一先ずボトルだけでも・・・。
不動自身流行りモノに対しそれほど気にしてないのかほぼ老舗化しているメーカのモノを愛用しているようだ。
スポンジにボディーブラシ・・・それらを手にして、
(不動が使っている小物・・・俺も使ってイイのか?)
と戸惑ってしまうが何時までも悩んでいても埒があかないので使う事にした。
(これも不動の事を知る為だ!!それにしても肌触りの良いスポンジだな・・・)
ボディーブラシも当りが良く泡立ちも良い。
暫くシャワーを楽しんだ後、新しい下着を身に着け先程まで着ていた服に袖を通しタオルを頭に捲いて脱衣所
から出てくると良い匂いがしてくる。
匂いがする方に行けば不動がフライパンを前後に振っている最中だった。
匂いと具材からにして野菜炒めを作っているのが解るが別の匂いもしてくる。
何処から匂いがしているのか目で探すがその姿らしきモノが見えない。
「主任・・・何か匂いが・・・」
と言えば
「ああ・・・出てきたのか。もう少し待っていてくれ。そうだ待っている間にさっきのCDでも見てみたらどうだ?」
答えが帰って来る事無く違う言葉が返って来た。
どうせ後で解る事だと思いアトラスは、頭に捲いていたタオルを首に掛け先程見ていたCDを手に立体映像機に
取り込みスイッチを押せば読み込まれたデータが空間に写し出される。
PCで見た時も美しいと感じたがそれが未完成のモノだと知り更に改良をされたモノを見て溜息が出た。
美しいとは、言い難いモノだったのだ。
(あの小さな頭の中には、どれだけのモノが隠されているのだ?)