秘め始め-1-
「久しぶりに2人でゆっくりとした時間が欲しい」
と半ば諦め気分で遊星に言ったが
「そうだな。正月は、2人で過ごそう。」
と返事が返って来た。
友を大切にし友との時間までも大切にしている奴が友との時間より俺との時間を選んだ。
---12月31日---
世間一般では、大晦日と言われる日。
辺境の地であるサテライトにも正月を祝おうとする傾向があるので大晦日までに大掃除や新年を
祝う小道具を買う。
サテライトに戻って初めての正月。
ドゥドゥ・・・
外から聞えるD・ホイールのエンジン音。
遊星のD・ホイールのモノだ。
何時も遊星が住んでいる地下鉄の廃墟だと何時もの仲間が集まり2人で過ごせないのでジャックが
住んでいる方で過ごす事にした。
外に出ると遊星の紅いD・ホイールが止まっている。
紅いD・ホイール・・・まるで遊星の内に秘めた情熱の様に見える。
「ジャック 暫く世話になる。」
「そんな堅苦しい挨拶なんて俺達に無用だ。」
恋人同士でそんな堅い挨拶なんて普通は、しないだろう。
だがそんな挨拶をしてしまう程、奴は変な意味で律儀なのかもしれない。
そんな奴が手にしている四角いモノが気になる。
ジャックの視線に気が付いたのか遊星は、四角いモノを持ち上げ
「雰囲気でも味わおうと思って御節料理を作ってみたんだ。」
恥かしそうに言う。
サテライトに御節料理の定番とされている煮しめ、昆布巻、コハダの粟漬、伊達巻、数の子の類なんて
手に入らない。
それらは、高級食材として扱われているからだ。
だとしたら遊星オリジナルの御節料理という事になる。
しかもその御節料理を2人で食べる為だけに作ったと言う事なのか???。
健気な遊星を思わず抱きしめたくなる。
遊星は、台所に立ち年越し蕎麦を作り出す。
まさかここまでしてくれるとは、思っても見なかった。
昨年は、人数分の年越しを作ってくれたが御節料理までは作ってくれなかった。
蕎麦を食べ終えゆっくりとテレビを見る。
手を伸ばせば届く場所に遊星が居る。
(ジャックに誘われそれを承諾しココに来たけど・・・2人きりだと何を話していいのか解らない。
こう言う時は、甘えるモノなのか?
それにしてもオレらしく無いな・・・御節料理なんて作って。)
作っている時は、ジャックが喜んでくれるのかドキドキした。
持って来た時のジャックの驚いた表情を見た時は、複雑な心境だった。
だって喜んでいるのか呆れているのか解らないからだ。
でも後で「俺の為に作ってくれたのか?」と半信半疑で聞かれ「お前以外誰がオレと一緒に食べるんだ
?」と言うと「嬉しいぞ」と言われ抱きしめられた。
あの時、見せた驚きの表情は『予想外の出来事』と言う意味だった。
料理中いろんな事を想って作っていた事を思い出し急に恥かしくなって来た。
だが遊星の気持ちが今自分の方に無いを感じたジャックにしてみれば面白く無い。
しかも遊星が何を考え何に気を取られているのかが解らないから尚更と言えよう。
自分の方に意識を向けさせる為にジャックは、遊星を抱き寄せ彼の唇を奪う。
重ねるだけの・・・啄む様な優しいキスじゃない。
舌を絡め吐息まで奪う様な激しいキス。
そのキスの間に遊星を自分の下に組敷く。
「ジャ・・・何・・・急に・・・」
「俺が傍に居ると言うのに何を余所見している。お前が見るのは、この俺だけだ。」
ジャックの下で荒い息を吐きながら苦情を言おうとしたが言葉を遮る様にジャックから言われた言葉に
遊星は、黙るしかなかった。
だって彼が嫉妬する姿を見るのが余りにも久しぶりだったから・・・。
まるで子供の様に見えたから・・・。
それが可愛いと思えたのだ。
遊星の蒼い瞳に見つめられバツが悪いと感じたのかジャックは、遊星から視線を離す。
「お前は、俺のモノだ。俺と一緒に居る時は、俺以外を見たりか・・・」
「お前の事を考えていた。」
「!!」
言葉と同時に首に腕を回され抱きつかれた。
「御節料理を作っている時、お前がどんな反応するのか考えていたんだ。・・・それをさっき思い出して
・・・それにオレは、お前のモノだけどお前は、オレのモノだろう?。
だったら2人きりで居る今お前の前でお前の事を考えるのは当然しお前から意識を離したオレに嫉妬す
るのも当然だろう。」
何時も無口な遊星が饒舌に語って来る。
どんな表情で言っているのか見てみたいが抱き付かれていて見る事が出来ない。
照れ隠しの為に抱きついているのだろう。
しかし告白とも取れる台詞を耳元で言われてココで手を出さない程ジャックは、枯れていない。
寧ろまだ性欲に関しては、遊星を相手にした場合により旺盛である。
第一19歳で性欲減退なんて有り得ないだろうし。
「遊星 そんな事を言われると今すぐにお前を抱きたくなるだろう?」
きっと嫌がるだろう・・・。
そう思っていたが
「ああ・・・オレもお前が欲しい。今年最後のSEXをしよう。」
「SEXで今年を閉め様と言うのか?面白い。では、そのまま秘め始めもやってやろう。」
「クスクス・・・元旦は、御節料理や御雑煮を食べながら微睡の中で過ごそう。2日目は、ジャックが望む事を
しよう。」
耳元で囁かれる魅惑的な言葉に眩暈を起こす。
一体どんな顔してこんな事を言っているのだろうか?
「俺が望む事だと?お前とのベッドの中で戯れたいしデュエルもしたい。」
「欲張り・・・」
「俺が欲張りで無かった事なんて有ったか?」
「いや・・・無い。」
(ジャックが欲張る時は、決まってオレ絡みの時)
嬉しい気持ちでジャックに抱きつく。
+++
「はぁぁ・・・んんん・・・」
躰を貫くモノの熱さに眩暈を起こし翻弄される。
それが余りにも気持ち良くて背を仰け反らし嬌声を上げる。
自分の躰に絡み付き嬌声を上げ中心部分を締め上げる遊星に酩酊してしまう。
否、彼を抱く時酩酊しないで抱いた事なんて有っただろうか?
思い当たらない。
(この俺が・・・らしくもない・・・だが・・・)
それは、決して不愉快な事では無かった。
デュエル以外で没頭出来るモノが存在する事を喜びだと感じる。
「ああぁぁ・・・ジャ・・・ジャック・・・あっやぁ大きい・・・そんなに・・・あっ・・・大きく・・・ならな・・・ぁぁ・・・」
「ククク・・・俺のモノが肥大するのは、お前の所為。淫乱なお前が求めるがままに肥大したのだ喜べ」
何時もは、声を押し殺す遊星の嬌声は心地好い歌声。
自分だけが聞く事を許された聖なるもの。
(もっともっとお前が感じている声を聞きたい。)
ジャックは、角度を何度も変え遊星を攻め立てる。
未だ味わい足りないと言うかのように
+++
時計を見れば23時56分。
夕方頃に来てこの時間ならベッドの中で過ごした時間は、何と短いのだろう。
それなのに心も躰も満足する程の濃密な時間。
別に久しぶりにしたと言うワケで出も無い。
この行為だけなら先週もしたばかりなのだ。
背に回されている手の大きさが温もりが気持ちイイ。
規則正しい心音が安心感を与えてくれる。
そして彼が今自分の傍に居る事を教えてくれる。
「遊星 本当は、アイツ等と一緒に新年を祝いたかったんじゃないのか?」
上から聞えて来る声に
「野暮な事を聞くな。オレは、お前と過ごしたかった。お前が居ない2年をオレがどんな気持ちで過ごしたか・・・
お前の居ないクリスマスや正月をオレがどんな気持ちで居たか・・・
お前と2人で居られる時間がどんなに嬉しいか・・・
ジャック・・・もしかしてオレと一緒に居るのが嫌なのか?」
そんな事は、無い事ぐらい解っている。
ジャックがどれほどまでに自分を想っているのか。
「俺が何とも想っていない相手と一昼夜共に過ごすと思っているのか?」
抱きしめられる腕に力が篭る。
「シティに行っている間、お前がどんな生活を送りどんな人と出逢ったのかオレは知らないからな。
例えお前が一昼夜過ごす気が無くても相手は、お前と一昼夜過ごしたいと願いお前に付きまとい共に過ごして
しまう事だってあったのかもしれない。」
「・・・!」
鋭い指摘に息を飲んでしまう。
確かにジャックにその気が無くてもジャックと共に過ごしたいと付きまとう相手は、沢山居た。
その相手と夜を共にした事だって在る。
だがあくまでそれは、ジャックが望んだ事では無い。
「そんな事を気にしていたらきりが無い。
僅かな時間だけでいいお前の時間をオレと共に過ごす時間にしてくれ。」
遊星は、ジャックの顔が見える位置まで躰をずらし彼の整った顔を撫でながら
(お前の時間をオレが拘束する事なんて出来ない。お前は、お前の時間を歩めばいい・・・
だが今だけで良いお前の時間をオレにくれ・・・)
遊星の瞳に写る己が姿を眺めながら
「下らん事でも考えているのだろう」
彼の心を見透かす。
「お前は、下らん事をウダウダと考えすぎる。俺は、お前だけのモノなのに」
「ああ・・・そうだな・・・」
微かな笑みを浮かべ遊星は、ジャックに口づける。
その口付けは、ジャックによって更に深くなる。