捕われて-17-
---ドミノ中央病院---
ディヴァイン達の到着に遅れて数分後ジャック達も到着した。
「カーリーがナビしてくれたお陰で早く着いたな。」
「へへへ・・・あの道は、アンジェラと一緒に見つけた道なの。」
きっとアンジェラもあの抜け道を使ったと思ったカーリー。
急いで手術室の前に行くと椅子の上でグッタリとしている青年を見かけた。
そしてその傍にいた女性がアキの姿に近付くと
「アキさん急いで私から力を抽出して下さい。」
「覚悟は、出来ているのね。龍可」
「はい」
アキは、椅子の上で横たわっている青年の方を一瞬見るとまた目の前の女性に目を移す。
真摯な瞳で見詰めてくる彼女にアキは、その意を受け止め彼女の両肩に手を乗せると彼女から力を抽出しだす。
「うっ・・・くっ・・・」
(力が・・・それに何て着かれ方なの・・・)
奪われる力の代わりに注ぎ込まれる疲労。
並の疲労じゃない。立っているのが辛い。
アキと龍可の行動を見ているだけだと何が行われているのか全く解らないが龍可の表情を見ていると精神的に
何かしらの力が加えられている事が解るがそれ以上は、何が起きているのか解らないと言うのが正解かもしれない。
暫くして床に座り込む龍可。
そんな彼女を余所にアキは、
「ジャック・アトラス、来なさい。」
淡々と言葉を投げかける。
ジャックは、何も答える事無くアキの言葉に従った。
「ちょ・・・ちょっとアキさんこの人の事・・・」
カーリーが何かを言いかけた時
「いいんです。」
「えっ・・・でも・・・」
床の上に座り込む女性に静止されてしまう。
「これが私の仕事なんです。」
「仕事って・・・」
「大丈夫・・・少し休んだら元に戻りますから・・・」
蒼白な顔をして言われても信じ難い。
だが床に座らせてままと言うわけには、いかないのでカーリーは女性を近くの椅子に座らせ急いで売店まで飲み物
を買いに行った。
ミネラルウォーターを手に戻って来たカーリーに女性は、
「アキさんが連れて行った男の人って一体何者なんです?」
「何者って言われても・・・クィーンの恋人かな?」
本当に恋人なのか疑わしいが一応一緒に住んでいるのだし仲間の皆は、そう思っているから間違い無いと思う。
そうこうしていると
「カーリーにクロウじゃない。やっと着いたのね。」
大きな紙袋を抱き抱えて登場したアンジェラ。
「アンジェラ何処に行っていた。」
腕組をしているクロウに
「クィーンの着替えを買いに行ってたのよ。マンションから持って来ようかと思ったんだけどキングやアンタの許可無く
あの部屋に入れないじゃない。だから実費で買って来たの。」
カーリーが座っている横に荷物を置くと
「貴方達が来ているって事は、キングも一緒よね?キングは、何処に居るの?」
辺りを見渡すがジャックの姿が無い
「キングならアキさんと一緒に手術室に入っていったよ。」
「えっ・・・そ・・・そうなんだ・・・」
一瞬驚いた様な表情を見せたかと思えば次第に沈み出すアンジェラにカーリーは
「どうしたの?何か言いたい事あったの?」
少し考えてアンジェラは
「ディヴァインさんに言われたの『遊星ちゃんの目と顔の傷どっちを治して欲しい』って・・・
そんな事、急に言われても何て答えたらいいのか解らなくて・・・こういう時クィーンは、どう答えるんだろう?
キングなら?っていろんな事考えた。考えて考えて・・・」
「お前は、どっちを選んだ?」
クロウは、眉間に皺を寄せ沈んでいるアンジェラの方と手術室を交互に見ながら訪ねる。
「私が選んだのは・・・」
+++
「アキ!!どうして彼をココに?」
ジャックを連れて入って来たアキ。
顔に布を被せられた状態で横たわる遊星。
意識が戻っていないのだろう。この状況を何も知らないで見てたなら死体に布を被せている様に見える。
「彼にも協力してもらうわ。ジャック、闇を彷徨っているかもしれない遊星の心を連れ戻して。」
「どうやって?」
連れ戻すと一言で言ってもジャックは、超能力者でもなければ神通力を持つ能力者でも無いのだ。
そんな彼にどうやって遊星を連れ戻すと言うのか?
「手を握って名前を読んであげるだけでいいの。強くしっかりと・・・」
もし本当にこの2人の心が繋がっていたらどんなに遊星が闇を彷徨うと彼の言葉に反応をするだろうから。
アキは、ジャックと出会い彼と遊星が起した奇跡とも言うべきモノを体験した。
だからこそアキは、あえてジャックをこの場に呼び協力をさせようとしたのだ。
きっと自分達では、闇を彷徨っているかもしれない遊星を連れ戻す事なんて出来ないかもしれないから・・・
ジャックは、アキに言われるがまま遊星の手を掴む。
温かい手。
それなのに動かない。まるで血が通ってないかのように。
遊星の顔に掛けられている布。
遊星の顔を見たい・・・
そんな衝動に駆られる。
我慢が出来ない。こんなに傍に居るのに・・・
それにこんなに傍に遊星が居るのに顔を見れないなんてジャックには、信じられなかった。
「遊星の顔が見たい。」
そんなジャックの言葉にディヴァインは、
「遊星ちゃんの顔を今見せるワケには、いかない・・・」
驚きつつもジャックから顔を逸らし布で隠されている遊星の顔の方を見た。
「今の遊星ちゃんの顔は、普通の顔じゃない・・・君が言った言葉は、女の子にとって残酷な事なんだよ。」
今迄いろんな事件に立ち合いいろんな惨劇を見て来たが今以上に酷いのを見た事が無いように思えた。
「遊星は、俺の女だ。俺の女の顔を見たいと言って何が残酷な事だ。」
「君は、遊星ちゃんの心を傷つけるつもりなのか!!」
遊星の焼け爛れた顔を思い出すと苦痛に歪んでしまう。
(女の子にあんな酷い事をするなんて・・・これが愛情だと言うのなら何て歪んだ愛情表現なんだ・・・)
遊星の意識が有る時に行われただろう惨劇。
遊星の事を思えばこそ彼女の顔が見れる状態になるまで彼女の恋人であろうと親友や友人であっても見せ
たくなかったし会わせたく無かった。
「ジャック 貴方は、遊星の顔がどんなに酷い事になっているか想像出来る筈でしょ?」
自分達が見た流血・・・
遊星の顔を見る事は、無かったが彼女の頭付近にあった血溜まりを見れば遊星の身に起きた惨状は、容易に
想像出来た。
「想像は、したさ。だがこの俺が遊星に対して抱く愛情を覆す事なんて出来んな。遊星の顔がどうなっていよう
と俺は、遊星と言う名の女を・・・たった一人の人間を愛したんだ。その妨げになるモノなんて有りえん。」
焼け爛れたの遊星を想像した。
切り刻まれた顔も想像した。
殴打された顔も想像した。
だが嫌いになる要因が見つけられなかった。
寧ろ遊星が愛おしいと思う気持ちが前に出て来るのだ。
「君は、想像と現実が一緒だと錯覚しているんだ。」
「御託は、いい。遊星の顔を見せてもらおうか」
そう言うとジャックは、自分の手で遊星の顔に掛けられている布を取り去った。
そこには、顔半分が黒く焼かれジュクジュクな赤い肉が曝け出されていた。
初めて見たアキは、驚き口元を押さえながら顔を背けた。
「君!!何て事を!!」
ジャックの行動にディヴァインは、激怒したが
「お前が連れ去れたと聞いた時、俺がどんな気持ちになったか遊星 お前に解るか?
お前が戻って来た時、俺がどんな気持ちになったか解るか?遊星お前の蒼い瞳が見たい。
早く良くなって俺の元に戻って来い。」
ジャックの言葉に驚いて怒る気持ちが萎た。
「君は、こんな遊星ちゃんを見て何とも思わないのか?」
「気持ち悪い」と罵って遊星を捨て去るかもしれないと思った。
そう行動に出る事は、想像出来た。それなのにジャックは、ディヴァインの想像と全く異なる事を言った。
それに遊星を見る時のジャックの顔は、苦痛に歪むモノでは、無く。最愛の人が戻って来た安堵感を宿した
慈しむ様な顔をしているのだ。
この男にしてみれば顔の傷は、どうでもいいのかもしれない。
「フン 俺は、言ったはずだ。俺は、遊星という名の女を・・・人間を愛している。顔の傷が何だと言うのだ?
貴様は、顔だけで好みの女を決めるのか?」
不思議そうに聞いてくるジャックにディヴァインは、返答に困った。
ジャックが言うように自分は、顔やスタイルだけで付きあう女の子を決めていたかもしれないからだ。
ジャックの様に人を愛する事が出来たら幸せなのだろうか?
それもとその深き愛ゆえにその身を滅ぼすのか・・・寧ろこの男は、深き愛ゆえにその身を滅ぼすかもしれないし
その愛ゆえに高みへと飛び立つかもしれない。
そのカギは、今深き闇の中に居るかも知れない遊星なのだ。
(遊星ちゃん君の存在は、本当に凄いね。それとこんなに愛されて君は、幸せだね。
それとこの先何が起きても一人で立ち向かう必要なんてないんだ。)
気持ちが温かくなってくる様な気がした。
「それより。遊星の治療は、ちゃんとしてくれるんだろうな?」
「勿論だと言いたいけどココまで酷いと元に戻る保証は、無い。僕達は、遊星ちゃんの潰れた目を治した
後、顔も出来るだけ治療は、する事は誓うよ。」
「ディヴァイン!!」
ディヴァインの言葉にアキは、驚いた。
彼の性格なら目を治したらそれで御終いにしてしまうかもしれないからだった。
ディヴァインは、遊星の顔に布を掛けるとアキに指示を出す。
アキは、ディヴァインの指示に従い用意をする。
ディヴァインが遊星の顔に布を掛けなおしたのは、治療に専念する為。
傷ついた顔を見れば気持ちが揺れてしまうかもしれないからだ。
「君は、遊星ちゃんの心が戻って来る様に呼びかけてあげて。
残念な事だけど君以外出来ない仕事なんだ。じゃアキ始めるよ」
「解ったわ。」
ディヴァインとアキは、両手を遊星の顔に翳し意識を集中しだした。
ジャックも遊星の手を取り心の中で「遊星」と力強く呼びかけた。
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