捕われて-18-
何も見えない暗闇。
地面があるのかどうかでさえ解らない。
「ここは・・・」
ココに居るのは、自分一人だけなのだろうか?
「誰か・・・誰か居ないの?」
不安になって呼びかけるも返ってくる言葉が無い。
胸に押し寄せる不安。
「ジャック!!クロウ!!何処に居るの?」
何時も傍に居た2人を呼ぶがやはり返事は、無い。
遊星がその場から動いた時
【何処に行くの?】
「貴方は、誰?何処に居るの?」
聞こえて来た声に自分が居る場所に誰か居ると思い安堵してしまう。
【ココは、貴女の心の中なのよ】
【貴女は、何処に行くつもりだったの?】
更に聞こえて来た声。
「私の心の中?私は、帰りたい。逢いたい人が居るの。ねぇ帰り方を教えてくれない?」
自分の心の中だと告げられるも実感が湧かない。
【帰っても無駄よ】
【又、辛い思いをするの?】
【又、恐怖を味わうの?】
【今の貴女を誰が受けいれてくれると思っているの?】
【醜い貴女なんかを】
嘲笑う様な声と嘲罵する言葉。
声の主達が何を言っているのか遊星には、解らなかった。
【忘れたの?鬼柳京介に何をされたのか?】
【又、同じ目に遭いたいの?】
【ココに居れば安全なのよ】
【誰も貴女を馬鹿にしない】
【誰も貴女を罵らない】
【何もしなくてもいい】
声の主の言葉によって思い起こされる記憶。
「・・・いゃ・・・いやよ・・・いやよ!!」
記憶を振り払おうとしているの頭を抱え左右に振る。
その表情は、恐怖に引きつり半狂乱を起しかけている。
更に追い討ちを掛ける様に
【ココに居れば誰も貴女を傷つけない】
【ココは、貴女にとって安全な場所なの】
【ココに居れば何も悩まなくていいの】
【ココに居ましょう】
【もう泣かなくていいの】
投げかけられる言葉に遊星は、肯きそうになる。
薄れていく記憶。
楽しかった事、辛かった事、大切な事、そうでない事・・・
その全てを何も思い出せないかも知れない。
それが自分にとって幸せなのかもしれない。
「・・・せい!!ゆ・・・」
+++
(遊星・・・遊星・・・)
遊星の手を掴み彼女に呼びかけるジャック。
だが疑問があった。
本当にこんな事をして遊星が目覚めるのか?
本当に彼女は、こんな事をしないと目覚めないのか?
ジャックから見れば遊星は、気を失っているだけでしかないのだ。
だから信じられなかった。
彼女が目覚めないかもしれない事が・・・
だが今の自分に出来る事は、遊星に呼び掛ける事だけ。
ディヴァインやアキの様に治療なんて出来ない。
自分に出来る事をやる・・・出来るだけ遊星の傍に居たいから・・・
『遊星を助けたいと想うのなら私達も力を貸します。』
「誰だ!!」
青白い小さな光が2つジャックの前に現れた。
『君の力が必要なんだ。』
「俺の?お前達は、何者だ?」
『我々が何者かなんて今は、関係無い。ただ君が本当に遊星を救いたいと言うのなら力を貸そう。
遊星は、今闇によって大切な記憶を失いかけている。』
「記憶をだと?」
『貴方と過した記憶も失おうとしている。このまま記憶を失えば目覚める事は、困難となるでしょうしもし
目覚めとしても一切の記憶が無いままでしょう。』
「この俺の存在を忘れているだと!?そんな事は、させない。」
ジャックは、目の前の光より遊星が自分の事を忘れる方に気持ちが行ってしまう。
「この俺に力を貸せ!!遊星を取り戻してやる!!」
(遊星の事が絡んだらこの男は、何と扱いやすいのだろう・・・既に我々の事が眼中に無い様だ・・・)
『私達の後を着いて来て下さい。』
そう言うと飛び立つ光の後をジャックは、追い掛けた。
白い世界・・・その白の世界で一点だけ黒い点が見える。
『あの黒い点の先に遊星が居ます。』
『我々では、遊星を連れ戻すには力不足なんだ。君の強い想いが有れば遊星を闇から救う事が出来る。』
「そんな事は、どうでもいい。遊星をあの黒い場所から連れ戻せばいいのだな。」
『ええ・・・そうです。』
黒い点に向かって歩き出すジャック。
その先に遊星の姿を見つけるがそれより先に進む事が出来ない。
「遊星!!遊星!!」
何度名前を呼ぶも遊星の耳に届いていない様だ。
それ以前に遊星の様子がおかしい。
『遊星は、闇に耳を傾け記憶を失いかけているのです。』
「どうすれば遊星に気付かせる事が出来るんだ?」
『君の強い想いが遊星に届けば・・・』
ココに来てまで自分の強い想いが関係するのか?
ジャックにとって複雑な思いだったがそれしか方法が無いと言うのならそうするしか無かった。
「遊星!!遊星!!」
ジャックは、必死に遊星に呼びかけるが遊星の反応が見られない。
もどかしい・・・手を伸ばしても届かない。
闇の世界に行く事が出来ない。
目の前に居ると言うのに・・・