捕われて-19-
そう思いかけた時
『・・・せ・・・ゆう・・・』
「・・・せ!!・・・ゆう・・・!!」
微かに自分を呼んでいる様な声に遊星は、意識を持って行く。
何処か懐かしい様な声。
(誰?それは、私の名前なの?)
【耳を傾けないで】
【あの声は、貴女を悲しませる声なのよ】
【貴女を傷つける声なのよ】
「でも・・・誰なのか知りたい・・・だって懐かしいの・・・」
遊星は、声がする方角を探すと一点だけ白く光る場所があった。
小さな小さな光。
何故かその光が気になっていく。
小さな光は、少しずつ遊星に近付いて来る。
『ゆうせい・・・ゆうせい・・・』
懐かしく何故か安心してしまう。
「ねぇ・・・それは、私の名前なの?貴方は、誰なの?」
無意識の内に手を伸ばすと小さな光は、大きくなり3本の手が伸びて来た。
『遊星 この手に捕まるんだ。』
優しい声。
過ぎ去った日に毎日聞いていた様な気がする。
「ねぇ、『遊星』って私の名前なの?」
自分の名前を思いだせ無いで居る遊星に対し
『そうよ。貴女の大切な名前。貴女が人生最初に両親から贈られたプレゼントなのよ。』
「両親からの・・・」
【そんな声を聞くな〜!!!】
【お前は、この闇の中で過すんだ!!!】
焦りの色を見せる声。
遊星は、光の中から伸びている手に触れ様とするが躰が思うように動かない。
片足を見れば黒い太いモノが絡まり動きを封じている。
「貴方達に触れたい。私は、何か大切な事を忘れている様な気がするの!!」
『思い出して貴女にとって大切な人を・・・貴女を愛してくれた人を・・・』
(私を愛してくれた・・・)
その時顔の見えない背の高い男の人が見えた。
名前を思い出せない。
大切な人なのに・・・
「遊星 この俺の女でありながらこの俺の事を忘れたとぬかすのか!!愚か者」
何と言う物言いなのだろう。
普通なら不愉快な気持ちになるかもしれないのに遊星には、懐かしく頼もしい気持ちにさせてくれた。
そしてこの声の主が不遜な物言いをすればする程、遊星の無くなった筈の記憶の中からその人物のいろんな
行動が思い出される。
その人物との生活は、必ずしも遊星にとって楽しいモノとは言い難い。
でもその人物の不遜な物言いがの・・・その言葉の裏に隠された本当の気持ちが遊星には、嬉しかった。
「もっと貴方の事を知りたい。貴方の事を思い出したら貴方の事もっと知れるかな?」
少しずつ・・・だが確実に思い出そうとしている。
【思い出す必要なんて無いのよ!!】
【貴女は、ココに居れば幸せなのよ!!】
【貴女は、苦しむ必要なんて無いのよ!!】
闇の声は、焦りの色を乗せながら遊星を説得するが
「どうして?あの声が私を苦しませると言えるの?どうして思い出しては、イケナイの?私は、思い出したい。
あの声の人の事だけでも良いから・・・思い出したい。」
胸が苦しい。
もどかしい。
早く思い出したい。
遊星は、手を伸ばし自分に差し伸ばされている手に触れ様とするがなかなか触れる事が出来ない。
『遊星 貴女を惑わす言葉に耳を貸しては、ダメよ。貴女は、貴女の心に従いなさい。』
『お前が信じる言葉に耳を貸すんだ。お前の心が求める方に向くんだ。』
懐かしい声・・・この声は、何度も自分を叱咤激励をしてくれていた声。
この声の主の事も少しずつだが思い出される。
その都度、伸ばされている手に近付いている。
後もう少しで触れる事が出来る。
全てを思いだす事が出来る。
互いに必死に手を伸ばす。
「もう少しなのに・・・後もう少し・・・」
足を拘束されているので自分から近付けないそれでも・・・指先でも触れる事が出来たら・・・
そう思っていると指先が一瞬触れた。
それと同時に光が閃光となり闇を消し去る。
【ぎゃ〜!!!!!】
耳にしたのは、闇の断末魔。
躰から溢れてしまうのでは?と思える程の記憶。
「ジャック!!貴方の事を思いだした・・・」
(ありがとうお父さん、お母さん・・・)
思い出したい人を思い出す。
『遊星・・・幸せになってね』
『何時までも見守っている』
「お父さん・・・お母さん・・・ゴメンネ・・・私・・・」
大切な両親の事を忘れていた事に遊星は、悔い恥じいた。
自分に沢山の無償の愛情を注いでくれていたのに・・・
そんな2人を忘れてしまうなんて。
『遊星 悔いる事は、無い。今は、前を見てお前を大切にしてくれる人との事を考えるんだ。』
『貴女が幸せで居る事が私達の願い。遊星・・・』
そう言うと2人は、遊星に触れる事無く細かい粒子となり消えた。
「お父さん!!お母さん!!」
折角逢えた両親なのに・・・
もっと話しをしたかった。
もっと・・・
泣き崩れる遊星。
そんな遊星を背後から抱きしめる温かい感触。
優しく抱きしめてくれていた腕は、力を増し座り込む遊星を立たせ
「泣くな・・・俺が居る・・・俺が・・・」
声を掛ける。
「ジャック・・・」
力強く抱きしめられて何とも言えない感情に支配される。
「もっと強く抱きしめて・・・もっと・・・」
遊星の頼みを聞きいれ抱きしめられる腕に力が入る。
「これ以上強く抱きしめたらお前の骨が折れそうだ。」
「構わない・・・もう誰も忘れたく無い。骨が折れる程強く抱きしめて・・・」
その言葉を聞いたジャックは、遊星から離れ彼女を自分の方に向けると再度強く抱きしめた。
「遊星 俺の元に戻って来い。こんな架空の世界なんかでは、無くて現実の世界でお前に触れたい・・・」
「ジャック・・・」
そうココは、現実世界じゃない・・・
このジャックも幻・・・自分の都合で現れたのだ。
さっきの両親だって・・・
そう思うと悲しくなる。
もし目が覚めて誰も居なかったら・・・
ジャックが自分を疎ましく思い捨てていたら?
きっと生きて行けない。
それならこのままココに居たい。
遊星は、頭を左右に振り拒絶をすると
「遊星 俺には、お前だけなんだ。俺が今迄言って来た言葉を否定するのか?俺は、どんな事が有っても
お前を手放さない。」
更に強く抱きしめられる。
感じる彼の温もりに彼の臭い。
懐かしい・・・。
+++
ジャック自身戸惑っていた。
自分に抱きつく遊星。
現実の世界で遊星が自分に抱き付いて来る事なんて有りえなかった。
だからジャックにしても目の前に居るのが自分が愛してやまない遊星なのかそれとも幻なのか・・・と疑いの心
があった。
だが今抱いている感触は、紛れも無く遊星そのもの。
その遊星が現実世界に戻る事を拒絶している。
何が彼女にそんな事をさせるのか?
このまま無理矢理力ずくで連れ戻したい。
現実の世界で彼女の温もりを堪能したかった。
「遊星 俺には、お前だけなんだ。俺が今迄言って来た言葉を否定するのか?俺は、どんな事が有っても
お前を手放さない。」
遊星の居ない世界なんてジャックには、信じられないから。
「・・・ジャック・・・私は、貴方の事を忘れ様とした・・・大切な両親に事も忘れ様とした。」
大切な人の事を忘れるなんて自分にとって大切な彼の存在は、何なんだろう?
「そんな私が貴方の傍に居ようなんて図々しいわ。
それに私の顔は、鬼柳によってグチャグチャにされた。二目と見れない顔になっていると思うの。
流石に生き恥じを晒してなんて・・・私には、出来ない。」
醜い顔の自分。
世間からどんな仕打ちを受けるか解らないしそんな自分がジャックの傍に居るなんて有ってはならない事なのだ。
「そんな事気にするな。今度は、お前の記憶から消えない様に・・・忘れない刻みつけてやる。
お前の顔なら見たさ。俺のお前に対する気持ちは、変わらない。俺の傍に居ろ遊星。
お前が望むのなら最高の医療スタッフを用意してやる。
それにお前の綺麗な目を治す為にディヴァインや十六夜が必死になってくれている。あいつ等の気持ちに応えて
やる為にもお前は、目覚めないといけないのだ。」
ジャックに顔を見られた事に遊星の躰がビックと反応する。
(ジャック・・・私の顔を見ても私に貴方の傍に居ていいと言ってくれるの?ああ・・・何て都合の良い夢なんだ
ろう・・・)
今のジャックが言っている言葉は、遊星にとって望んだ言葉ばかり。
だから目の前に居るジャックが本物だと気が付いていない。
それをジャックは、感じ取ったのだろう
「お前は、こんな恰好を望んだのか?」
ジャックの言葉に遊星は、ジャックを見上げる。
そして躰に感じる違和感。
ジャックは、遊星の額にキスをすると
「俺を脱がすのは、お前が望んだ事なのか?」
「えっ?」
そう言ってジャックの躰を見れば一糸纏わぬ姿。
そして自分も何も着ていない。
下を見るのが怖かった。
もしかしたらジャックは、全身裸なのかもしれないと思ったから。
それに自分は、全身裸だから・・・確認するのが怖い。
「遊星 俺は、お前の心が生み出した幻では無い。」
「ジャック・・・」
「俺は、卑怯な手段を使いお前を手に入れた張本人だ。」
(ああ・・・そうだ俺は、卑怯な手を使い遊星を手に入れたんだ。だったら遊星を連れ戻すのも卑怯な手を
使えばいい。コイツが帰ってくる様に・・・)
黙って遊星を見つめるジャック。
「ジャック・・・貴方が私の生み出した幻じゃない事は、信じてあげる。貴方から一言言われたいの。
その言葉を聞いたら戻ってあげる。」
恥ずかしいのか頬を染め胸元を両手で隠している遊星。
「お前が望む言葉は、何だ?言ってみろ。」
促すも遊星は、首を左右に振りながら
「貴方が考えて」
自分で言って欲しい言葉を言っては、意味が無い。ジャックが自分で考えて言って欲しいのだ。
今迄見た事が無い遊星の態度にジャックの精神が正常で居られるワケが無い。
あまりにも可愛い事を言う遊星。
遊星を抱きしめながら床に押し倒す。