ライバルから恋人へ-1-


中学最後の1年・・・

中学生になったら何か楽しい事が在ると思っていたが淡い夢だった。

「会長直に体育館におこし下さい。」

「もう。そんな時間か」

くだらない時間が始まる。

そしてつまらない日々が後1年続くのかと辟易して居た。

つまらなそうに歩いていると

「あの・・・すみませn」

控え目に声をかけてくる男子の声。

「何だ?」

振り向きながらぶっきらぼうに言う。

歪な頭の少年。

「体育館の場所を教えて下さい。」

学ランの襟首に着いている学年章が『T』とされている。

新入生なら体育館の場所が解らないのも仕方が無い。

今自分が向かおうとしている場所を訪ねられた。

「俺も今から向かう所だ。一緒に来るがいい。」

しかし新入生なら教室に居れば担任の教師が引率して迷わず体育館に行ける筈。

それなのに何故、教室に居らず校舎を徘徊しているのか?

疑問だったがそれを問うた所で何になると言うのだろう?

時間の無駄の様に思えあえて訪ねる事をしなかった。

 

体育館前、血相を変えて女性教師が自分達の元にやって来た。

「不動君 何処に行っていたの?ちゃんと教室に居ないとダメじゃない。

アトラス君 彼を連れて来てくれてありがとう。」

「いいえ、たまたま彼に体育館までの道を訪ねられたので連れて来ただけです。」

(不動・・・聞いた事の在る名前だな・・・まぁ何処にでも在る名前だから聞いた事が在るように思えるんだろう)

「さぁ 不動君アトラス君にちゃんとお礼を言って。」

「先輩有難う御座います。」

何だかムス〜とした様に礼を述べる不動にジャックは、ただ片手を上げて立ち去る。

そんなアトラスをウットリとした表情で眺めている女性教諭。

(この人・・・もしかして年下好き?)

 

校長や学年主任・来賓者からそれぞれ祝辞を貰うが余りにも長い。

他の生徒は、何人かアクビをしている。

不動もつまらなさそうな顔をして辺りを見渡していると先程の先輩が居た。

彼も何処か退屈そうにしている。

(確か・・・狭霧先生が『アトラス君』って言っていたけど・・・彼がこの学校の生徒会長か。

クロウが言っていたデュエル部の部長でデュエル大会で連勝中のキング・・・)

不動自身余りデュエルに興味が無かった。

ただ幼馴染みでありこの学校では、先輩のクロウから何かとジャックの話しを聞かされていた。

ジャックに少しばかり興味を持ったので有名私立の進学校であるこの学校を選んだ。

元々両親が薦めていた学校であったのだが・・・

ジャック・アトラスからの祝辞を聞き終え進行役の教師の言葉を聞き暫くしてから担任引率の元、各々の

教室に向かう。

 

ジャックは、新入生が退出した後 生徒会室に向かい会長席に置かれていた書面に目を通す。

「ジャック 新入生の中にお前の目を引く奴が居たか?」

「否 居なかったが変わった頭の少年を見たな。」

「変わった頭・・・もしかしてそいつ『不動』って呼ばれてなかったか?」

「確かそう呼ばれていたなぁ」

女性教師が体育館前でそう呼んでいたのを思い出す。

「遊星の奴、早速行動に出たのか・・・」

「?・・・奴は、お前の知り合いなのか?」

「幼馴染みだ。アイツは、頭がいいからもっとレベルの高い学校にでも行けるんだけど楽しい学校生活を

させてやりたくてコッチの学校に興味を持つようにしたんだ。」

普通そんな事を言われたら頭に来る筈なのに

「ほう、わざわざレベルを下げてまで来るとは、余ほど興味を惹かれる何かが在ったのか?」

平然としている。

何故ならジャックもレベルの高い学校に行ける程、頭が良いし今自分と話しをしているクロウも頭が良い。

だったら何故レベルを落してまでこの学校に来たのか?

それは、この学校のデュエル部のレベルが他校に比べてレベルが高いからだ。

デュエルは、頭だけで行うゲームじゃない。

如何に運を自分の方に向けるか。

相手との鬩ぎ合い、腹の読み合いが楽しいし生きていく上で必要なのだ。

「ああ・・・遊星の奴、デュエル部に入んないかなぁ〜」

「その遊星とか言う奴は、デュエルに強いのか?」

「多分興味を持たせれば強いかもしれない。」

「多分?曖昧だな。」

「アイツがマジでデュエルしている姿を見た事が無いからだ。まぁ〜マジでデュエルしなくても勝っているから

仕方が無いけどな」

「フ〜ン」

ジャックは、本気でデュエルを事した事が無いと言う遊星に少しばかりだが興味を抱く。

 

 

+++

 

入学式から1週間が過ぎた頃、新入生達が各々自分に有ったクラブを選び入部をしていく。

この学校では、必ず何処かのクラブに所属しないとイケイと言うような決まりは無い。

ただやりたい者だけが入部をするのだ。

「すみません」

静かに扉を開け声を掛けて来た生徒に教室内に居た生徒の視線が集中する。

今の時間は、放課後。

部活が始まる時間。

そしてこの教室を使っているのは、デュエル部・・・

「よう!!遊星 コッチだコッチ!!」

窓際に居た生徒が勢いよく声を上げる。

遊星は、教室内に入ろうかどうか躊躇していると

「入り口でつっ立っているな入るなら入れ」

背後から機嫌の悪い声がしてくる。

その声に後押しされるかの様に教室に入る遊星は、仕方が無しに窓際に居るクロウの元に行く。

「これ・・・頼まれていたモノだ。別に家に帰ってからでも問題ないんだろう?」

「そう言うなってたまに気分転換しないと疲れるだけだぞ。」

そう言いながら遊星から荷物を受け取る。

「疲れは、しない。用事が済んだからオレは、帰る。」

「そう言うなって気分転換していけよ。」

クロウに腕を掴まれ困り顔の遊星。

そんな光景をデッキ調整をしながら見ているジャック。

クロウが遊星から受け取ったのは、見た事の無い折りたたみ式デュエルボード。

ディスクの様に場所を選ばないと出来ないいけないのに対し少しの場所だけで行える様に作られたボード。

普通のボードでは、モンスターやマジック・トラップは平面でしか見る事が出来ないが遊星が持って来たのは、

カードをセットするだけで小型だがディスクと同じ様に3D映像で投影される。

他の生徒がそのボードの性能に驚いていると

「このボードは、お前1人で作ったのか?それとも他の誰かに協力してもらったのか?」

「オレ1人で作った。」

遠巻きで見てたジャックが遊星の傍に来て質問をしてきた。

そんなジャックの行動に他の生徒は、我が目を疑うかの様な表情を浮かべている。

だが普段のジャックがどんな人物なのか知らない遊星は、生徒の反応に『?』を浮かべるしかない。

「これを作るのに要した時間は?」

「試作を合わせて8日程掛かったが設計図が在る今は、材料さえ揃えれば3日程で出来る。」

入学式前から製作を開始したと言う遊星。

まぁ当然合否の結果が入学前に解っているのだ作って学校に持って来るのは、容易い。

「では、これと同じのを後3個作ってもらおうか。」

「構わないが・・・時間が掛かる。それでも良いのなら・・・」

何処か渋々と言った感じで引き受ける遊星にジャックは、

「お前にしてみればこんなモノを作るのも楽しくないのか?」

率直に訪ねる。

「楽しいとか・・・どうかなんて考えてない・・・ただ・・・」

返答に困りだす遊星。

楽しいとか思って作った訳じゃない。

頼まれて作っただけ・・・。

「遊星 お前どっかの部に入るのか?」

「あっ・・・いや・・・」

クロウの一言にさえ曖昧な返事をする遊星。

「だったらさ。デュエル部に入れよ。きっと・・・」

「お前デュエルが出来るのか?」

「デュエル・・・一応出来る。」

クロウの言葉を遮るジャック。

先程から曖昧な返事しかしない遊星に苛立ちを覚えていた。

そんなジャックの雰囲気を感じ取り他の生徒は、ただ見ているだけ。

「何故ハッキリと言わない?本気で何かに取り組んだ事が無い所為か?」

その問いに一瞬だが遊星の躰が反応したのをジャックは、見逃さなかった。

「だったら俺とデュエルをしろ。俺が勝てば俺の言う事を聞いてもらおう。そしてお前が勝てばお前の言う事を何

でも聞いてやる。」

「えっ?」

ジャックの発言にその場に居た生徒は、一様に驚きを隠せないで居たし遊星も驚いていた。

今迄ジャックが部の誰かに声を掛けてデュエルなんてした事が無い。

ジャックがデュエルをする相手がクロウしか居なかったからだ。

他の部員達がジャックにデュエルを申し込むのは、指南をしてもらう為ジャックから決して声を掛ける事なんて

無かった。

ただそんな中クロウは、楽しそうな顔をしていた。

「デッキは、持ってきているのだろうな?」

「ああ持っている」

「だったら相手をしてもらおうか」

遊星が作ったデュエルボードが机の上にセットされる。

互いのデッキをシャッフル。

デッキをセットし5枚手札として抜く。

「「デュエル」」

「先攻は、お前からだ遊星。」

ジャックは、遊星の出方を知りたくて先攻を遊星に譲る。

正直、ジャックは戸惑っていた。

何故自分は、遊星にあんな事を言ったのだろう?

『俺が勝てば俺の言う事を聞いてもらおう。そしてお前が勝てばお前の言う事を何でも聞いてやる。』

遊星に負ける気は、しない寧ろ余裕で勝てる。

だったら何で自分は、あんな賭けをしたのか?

答えが出ない。

だがそれは、遊星も同じだった。

ジャックの申し出なんて断る事が出来たのに何故自分は、受けたのか?

そんな2人のやり取りをクロウは、本当に楽しそうに見ていた。


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