ライバルから恋人へ-2-
結局デュエルは、ジャックが勝利を納めた。
『俺が勝てば俺の言う事を聞いてもらおう。そしてお前が勝てばお前の言う事を何でも聞いてやる。』
その言葉通り遊星は、ジャックの言う事を聞いてデュエル部に入部する事になった。
それからと言うもの何度と無く2人のデュエルが繰り広げられその都度部員達は、自分達のデュエルを忘れ
2人のデュエルに魅入っていった。
遊星がデュエル部に強制入部をしてから2ヶ月が経ったある日、クラスメートの女子から
「不動君 アトラス先輩と仲が良いんでしょ?」
と訪ねられ
「別に仲が良いわけじゃない。唯のデュエル仲間だ。」
と答えた。
彼女は、学年で1番可愛いと言われている。
彼女と付き合いたいと思う男子生徒は、多い。
そんな彼女が遊星に話し掛けて来たのだが遊星にしてみれば彼女に何の興味も無いしどんなに可愛くても
唯のクラスメートでしかない。
だが他の男子は、彼女が遊星と何の話しをしているのか興味が有るらしく遠巻きで聞き耳を立てている。
「それ以外関係無い。」
遊星とジャックは、部活以外では全くと言って良いほど会話が無い。
学年が違うと言うのも上げられるがジャック自身生徒会の仕事も在る忙しい身なのだ。
「それでもアトラス先輩と仲が良いんでしょ?」
部活以外で接点は、無いし部活中はデッキやデュエルディスクやデュエルボードの話しばかりで本当に彼女
言うように仲が良いのかは、疑問だった。
「オレより、クロウの方が仲が良い。」
遊星の幼馴染みでジャックの親友のクロウ。
彼が居なかったらジャック自身に興味を抱く事なんて無かっただろう。
「下級生の中での話しよ。クロウ先輩って上級生じゃない。」
彼女が何故、遊星に近付いて来たのか遊星には解っていた。
この2ヶ月同じ質問が立て続けにあったからだ。
「ジャックと仲良くなりたいのなら自分で行動に移せばいいだろう?」
遊星を介してジャックに近付きあわよくば彼の恋人になりたいと魂胆なのだ。
「それが出来ないから貴方に頼もうと思ったんじゃない。少しは、女の子の気持ちと言うモノを理解した方が
良いんじゃないの?」
「だったらアンタも男の気持ちとやらを理解したらどうだ?ジャックは、他力本願な奴は嫌いなんだ。」
自分の気持ちだけ一方的に理解しろなんて都合が良すぎる。
相手の事をもっと知った上で言うべきだと思う。
彼女は、プライドを傷つけられとでも言うかのように顔を怒りに染めている。
それでも遊星は、顔色一つ変えない。
ポケットから携帯端末を取り出すと何か操作をしだす。
既に彼女の事は、眼中に無いと言わんばかりに。
そんな遊星に彼女は、悔しそうに立ち去ると変わりに傍観していた男子が
「お前、あんな可愛い子に見向きしないなんて凄いな。」
「オレだったら寧ろ自分の彼女にする方法を考えるけど」
口々に言われるが遊星にしてみれば
「興味が無い。」
事なのだ。
「しっかしアトラス先輩ってモテルよなぁ」
「頭良いしモデル並のルックスだもんな。モテて当然だけど」
「それなのに彼女いないんだろう?信じらんねぇよな。オレなら彼女作り放題だけど」
確かにジャック程のルックスなら彼女の1人や2人ぐらい居てもおかしくない。
だが完璧なルックス故に女が近寄れず彼女が出来ない可能性だって有るのだ。
遊星にしてみれば他人の事なんてどうでもいい。
そんな時、携帯電話が鳴り出す。
「あれ、不動の着メロ・・・ダウンロードしているんだぁ〜」
「なんか不動ってさぁ ケータイにあらかじめ入っている曲とか使いそうじゃん。」
好き勝手に遊星の事を言う同級生だったが確かに流行りの曲をわざわざダウンロードして使うなんてしない
だろう。
先日遊星のケータイをジャックが勝手にカバンから取り出し勝手に何処かのサイトからダウンロードして来たのだ。
しかも勝手に電話番号やメアドを交換していたのだ。
更にジャック自身からの連絡だと解る様に勝手にジャック専用の着メロを設定しているのだ。
自己中な男だと思ったのは、当然の事だ。
今鳴ったのは、ジャックからのメール。
一応ケータイを開いてメールを確認する。
【放課後デッキを持って生徒会室に来い】
簡単な1行メールに遊星は、軽く溜息を吐く。
遊星の溜息をどう受け取ったのか
「もしかして女からか?」
「あっお袋からとか?」
どうしてそう思えるのか・・・羨ましく思える。
だから
「男からだ。」
とだけ伝えるとブーインブされた。
+++
放課後メールに書かれていた通り生徒会室へと向かう。
コンコン・・・
一応ノックをするのは、礼儀だからだ。
室内に居るがジャックだけだと解っていてもノックをする。
「入れ」
入室を促す言葉が聞こえると遊星は、扉を開け会釈をする事無く中に入る。
「来たか。」
「来いと言うメールが入っていたからな。」
そんな誘いのメールが無ければ部の方に行くつもりだった。
「デッキを持って来ただろうな。」
「当たり前の事を聞くな。」
「よかろう。そこのソファに座っていろ。」
生徒会長のデスク前に置かれた応接セット。
遊星は、長いソファの方に座るがジャックが席に着く気配が無い。
まだ生徒会長としての仕事が有るのか生徒会長のデスクから動こうとしない。
「仕事が有るのなら呼ぶな。」
「後もう少しで片付く。」
仕方が無いと思い遊星は、自分のデッキ調整をする事にした。
一体どれだけの時間が経ったのか痺れを切らせた遊星が
「まだ、かかるのなら明日出直す。」
と言い自分のカバンを手にすると
「誰が帰って良いと言った?」
書類を揃えデスク隅に置く。
余りなジャックの横柄な態度に
「お前!!」
「デュエルするぞ。」
遊星が苦情を訴え様とする言葉を遮りジャックは、デスクの引き出しからデッキを取り出した。
生徒会長としての仕事なら既に終わっている。
遊星がデッキ調整をしだして2〜3分ぐらいで終わった。
だったらそれなのに何故声を掛ける事なく無駄に時間を費やしたのか・・・。
それは、無言だが遊星との2人だけの穏やかな時間を味わいたかったからだ。
ジャックは、自分の気持ちに気が付いていた。
これまで人に関心なんて無かったのに遊星が現れてから彼にだけ対し余りにも執着するようになった。
当初『何故?』と言う気持ちが有ったし気が付いた時でも『相手は、自分と同じ男だ』と思っていた。
だが遊星が視界に入れば見ずに居れず微かにでも声が聞こえたらもっと聞きたくなった。
遊星がクラスメートと話しをしている所を見ただけで苛立ったりもした。
日増しに強くなる独占欲。
もう認めるしかなった『彼を・・・遊星を愛している』と・・・。
(それにしても遊星が俺だけに見せる表情で一喜一憂してしまうとは、この俺も地に落ちたもんだな。)
苦笑してしまう。
遊星と繰り広げるデュエルは、楽しい。味わった事の無いスリルが生まれて来る。
こんな感覚は、初めてかもしれない。
何時も部員達の居る部室で行われていたデュエル。
誰も居ない場所でスリルと興奮を味わいたかった。
それが叶った今、遊星とのデュエルに集中出来る。
「遊星 アンティをしないか?」
「アンティ・・・断る。」
「何だ怖じ気づいたのか?」
「違う。」
そんな理由では、無いがジャックとのデュエルでアンティを受けた場合、自分が自分で無くなる気がしたのだ。
「まぁいい。今回は、ただのデュエルに興じ様。だが次回は、アンティにさせてもらう。」
ジャックの言葉に幾分安心する遊星だったが次回ジャックとするデュエルは、アンティなのだ。
何等かの理由を考えなければならない。
遊星にしたってジャックとのデュエルは、楽しいのだ。
こんな楽しい気持ちになるなんて思いもしなかった。
人知れず製作しているD・ホイールを弄っている時と同じぐらい楽しい。
戻る | -1- | -3-