ライバルから恋人へ-3-


その日を境にジャックは、遊星を生徒会室に呼びだしてはデュエルに興じていた。

勿論部活にも参加している。

『次回は、アンティにさせてもらう』

ジャックの言葉は、次ぎの日に行われた。

勝者は、ジャック・アトラス。

ジャックが望んだのは、遊星との2人きりのデュエルだった。

アンティの無いデュエルを繰りかえる日々。

そんな日々を送っていたある日

「今日は、アンティデュエルだ。」

「オレは・・・」

「お前が勝てば俺に何なりとリクエストすれば良い。」

そんな事を言われてもジャックに1度も勝った事の無い遊星。

当然、受ける気になれない。

断る言葉が思いつかないで途方に暮れる遊星。

「反対の言葉が無いのなら決定だな。」

勝手に決まるアンティデュエル。

そして当然の様にジャックが勝利を収める。

「遊星 目を閉じろ」

そんなジャックの指示に遊星は、眉間に皺を寄せながらも従った。

従順な遊星に苦笑してしまう。

(しまったな・・・見る事の無い表情を見たくて瞼を閉じさせたのに・・・我慢出来ないとは・・・)

ただ寝ている遊星を見てみたいと思い瞼を閉じさせただけだったのだが。

小さな口に目が行ってしまう。

まるでキスを待っているかの様に見える。

キス・・・

「遊星 少し上を向け」

「?」

何をされるのか解っていない遊星は、疑問を抱きつつも大人しくジャックの言葉に従い少し上を向いた。

 

「!?」

唇に感じる柔らかい感触。

一瞬触れた感じがしたが直に離れる。

(気持ち良い・・・遊星とのキスは、こんなに気持ちがいいのか?)

もう1度したいと思った。

だからもう1度重ねる。

さっきより長く・・・

だがそれは、ジャックの気持ちであって遊星の気持ちじゃない。

目を閉じている遊星にしてみれば先程から唇に当たる感触が気になって仕方が無い。

キスの経験が無い遊星。

そんな遊星でも今自分に起きている事が何なのか想像が出来るが・・・

信じたく無かった。自分達は、男同士なのだ・・・。

だがもし違ったら何が自分に触れていると言うのだろう?

怖いながらも知りたかった。だから薄っらとだが目を開けてみる。

「!!」

間近に見えるのは、長い睫毛。

ドン!!

「・・・やっ!!」

思わずジャックを押しやりながら

「何するんだ!!」

「何ってキスをしただけだ。」

「キスをしただけって・・・お前オレ達は・・・」

「男同士でキスをするのは、変だと言いたいのか?」

「・・・そっそうだ・・・」

言いたい事を先に言われ戸惑う遊星。

「男同士だからキスしては、イケナイ訳では有るまい。」

「・・・」

「キスは、海外では挨拶みたいなモノだ。」

「でも口には、しないだろう?」

「ああ・・・そうだな。頬にキスをする程度かもな」

「だったら何で口に・・・」

「そんな事を気にすのか?」

「気にって・・・」

「俺は、気にならん」

「それは、お前だからだろう?オレは、気にする」

「どう気にするんだ?」

「・・・」

「まさかファーストキスだったのか?」

「!!」

(図星か・・・)

遊星の反応にジャックの心が踊った。

まぁ遊星の性格を考えたら当然の事なのだが。

ジャックは、遊星の隣に座ると遊星の顎を掴み。

「さぁアンティがまだ終わったワケでは、無い。目を閉じてもらおうか。」

「嫌だと言ったら?」

「それでも構わないさ。」

目を開けて居ようが閉じて居ようが関係無い。

まぁ目を開けていては、ムードが大無しの様な気がするが。

ゆっくりと遊星に顔を近付けると予想通りに抵抗を受けてしまう。

余りにもしつこく迫った所為で頬にビンタを食らう羽目に。

そこで我に返り遊星を見れば傷ついた様な表情を浮かべている。

遊星は、ジャックを押しやるとそのままカバンを持って生徒会室から出て行った。

机の上には、遊星が使っていたデッキがそのまま山札として置かれている。

ジャックは、ジンジンとする頬を摩りながら遊星が出て行った扉を暫し見つめた後、残された遊星のデッキを

手に取り

「嫌われたか・・・」

軽率な行動だったと今なら思える。

本当に遊星を想い手に入れたいと想うなら段階を踏むべきだったのだ。

(もしかしたらもう遊星とデュエルが出来ないかもしれない・・・)

ズキッ・・・

(もしかしたらこれを機に遊星は、デュエルを辞めてしまうかもしれない・・・)

ズキッ・・・

負の感情がジャックの心に芽生える度に痛み出す胸。

自業自得だと言うのに・・・遊星を失う事ばかり考えてしまうと気持ちが沈んで行く。

 

 

 

生徒会室を飛び出した遊星は、心ココに無しと言わんばかりに放心状態で家路に付く。

「ゆ〜せ〜!!」

聞きなれた声。

振り向けば幼馴染みのクロウが勢い良く駆けて来る。

遊星は、クロウが来るまでその場に佇んで待った。

「・・・遊星何かあったのか?」

遊星に追いついたクロウが発した第一声。

「いっ・・・いや何もないけど・・・」

クロウの言葉に驚きつつも否定をする。

だが脳裏には、ジャックの顔が浮かび上がる。

「そうか?目が真っ赤だからさ・・・」

ドキッ!!

「多分さっき目にゴミが入ってあっその・・・取っていたから・・・」

咄嗟に吐いた嘘。

兄弟の様な付き合いをして来たとは、言え知られたく無い事だってある。

だがその付き合いの長さが災いしたのかクロウには、遊星が本当の事を言っている様には思えなかった。

だが今無理に聞いたとしても遊星を傷つけるだけ。

それにどうしてもジャックの顔がチラツイテ仕方が無い。

多分自分の感が当たっていれば遊星を泣かせたのは、ジャックだろう。

(明日 アイツに問い詰めてやる!!)

こんな事になるなら遊星をジャックに会わせるんじゃなかったと後悔してしまう。

遊星にジャックを引き合わせたのは自分。

遊星を子供の頃から知っている。

何時も回りに人が沢山居るが遊星は、感情を出さない。

感情を出すのが下手と言えば下手な方だ。

その所為か自分を出さない。控え目な感じがしていた。

だがそんな遊星が唯一感情を出す相手が幼馴染みで兄弟の様に過したクロウだけ。

クロウは、遊星にいろんな人と接して感情を沢山出して欲しかった。

それには、強烈な性格を持った相手を充てがわないといけなかった。

そしてその白羽の矢に当てたのがジャックだった。

「全く 目は、アレほど大事にしろって言ってただろ?D・ホイール造るのもデュエルするのも目が大切なんだ

ぜ。」

「・・・すまない・・・」

その言葉は、心配かけた事への謝罪なのか嘘をついた事への謝罪なのか・・・

両方を含めたモノか。

ただ遊星には、謝る言葉しか言えなかった。


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