惹かれて-1-


「ジャック 勝利おめでとう。」

同棲をしている最愛の恋人遊星が帰宅して来たジャックに笑みを浮かべて出迎える。

そんな遊星を抱き寄せジャックは、遊星の顔中に啄む様な優しいキスをしながら

「当然だ。この俺に勝てるのは、お前だけだ遊星。」

惚れた弱みなのか遊星相手だと本気を出していても何処か手加減をしてしまう。

寧ろ遊星相手に手加減なんて無用なのだが・・・。

スタディングだとついつい遊星がドローする姿に魅入ってしまうのだ。

燃える様な蒼い瞳が自分だけに向けられている事に昂揚してしまうのだ。

ライディングでも遊星の視野に自分だけしか入っていないと思う事でさえ昂揚してしまう。

病気なのかもしれない。遊星のみにしか発症しない。

だから遊星が自分から少しでも気が反れると不愉快でしかない。

「夕飯にする?それともお風呂?」

ありきたりな言葉だがついつい言ってしまう。

「それより先に膝枕をしてくれ。」

ストレスを溜め疲れて帰って来たのだ先に癒されたい。

「お腹空いてないの?」

空腹で帰って来ているだろうし汗も相当かいていると思う。

だがそんな遊星にジャックは、無言で腕を掴みリビングへと向かう。

腕を掴まれた時に香る香水の匂い。

何時もジャックが着けている香水とは、異なる匂いに遊星の胸が痛むがそれを表情に出す事無い。

ジャックは、プロのデュエリストなのだ。

ファンに抱きつかれる事や握手を強請られる事だってあるだろう。

それに一々気にしていたらキリが無い。

 

「仕方ないわね。」

と言わんばかりに遊星がソファに座るとすかさずジャックは、遊星の膝に自分の頭を乗せ寛ぎ出した。

優しく髪を梳きながら顔に触れる。

擽ったいだろうに気持ち良さそうな表情を浮かべるジャック。

「ジャック このまま寝ないでね。ちゃんとベッドで寝てよ。風邪なんて引かれたら大変だもん。」

「俺の躰は、そんな柔じゃない。それに今寝てしまったらお前の手料理を食べ損ねてしまう。」

「だったら起きてくれる?」

「嫌だ。もう少しこのままで居たい。」

遊星の膝枕を気に入っているジャックは、そうそうに起きる気が無い。

「御飯とお風呂を早く済ませば膝枕の時間は、増えると思わない?」

「!!」

遊星のその言葉にジャックの綺麗な紫の瞳が見開かれ。

「言えているな。お前との時間を少しでも長く楽しんで居たい。そうと決まれば遊星、夕飯の用意をしてくれ。」

ジャックは、起きあがると白いコートを脱ぎタンクトップ姿になる。

遊星は、キッチンに向かい夕飯の準備をする。

準備と言ってもジャックの帰宅時間を予測して予め作っておいた料理を温め直すだけ。

温められた料理がテーブルの上に並べられるとジャックがテーブルの方に来て椅子に座る。

タンクトップ越しとは、言え逞しい胸板の形がよくわかる。

喧嘩が強くプライドの高いジャック。

元々デュエルが強かったのに今迄アマチュアに甘んじていたのは、遊星の存在が在ったから。

プロになればいろんな制約を持たされ遊星に会えなくなると思ったのだ。

だがそんな彼がプロになったのも遊星の為。

プロになればデュエルで貰える賞金がアマチュアの時より多いのだ。

少しでも遊星に贅沢な暮しをさせてやりたいと思ったのだ。

 

遊星の前で黙々と料理を食べるジャック。

彼は、食べる時は良く食べ食べない時は本当に食べない。

クロウに言わせれば

「アイツがあんまし食わねぇのは、外食の時だけ。遊星が作るメシが1番旨いって言ってるぜ」

らしいのだ。

 

食後の片付けも手伝ってくれる。

「遊星 御飯食べたから風呂に入るぞ。」

意気揚揚と遊星の腕を掴み風呂場へ。

「ちょっと私も一緒に入るの?お風呂ぐらい自分で入りなさいよ。」

慌てて言うと

「風呂上がりに少しでも長く膝枕をして貰うには、一緒に入るのが1番」

「そ〜言って変な事しないでしょうね?」

疑いの眼差しを向けると

「変な事?フン 安心しろそれは、寝る時にさせてもらう。今は、膝枕が1番だ。」

自信満々で言い返される。

そうこう言っている間に素早く身包み剥がされてしまう。

「さっ・・・先に入っていて・・・」

流石に前を隠さずにジャックと入るのには、抵抗が有る。

別にジャックの裸を見るのは、初めてじゃないけど・・・。

「互いの裸なんて見慣れているだろう?」

「それでも!!」

見慣れているとは、言え女の子で有るが故の恥じらいってものが有るのだ。

ブツブツと言うジャックを何とか風呂場に入れ遊星は、前を隠す為のタオルを戸棚から取り出す。

暫くして聞こえて来る水音とガラス越しに見える湯気。

遊星は、扉を開け風呂場へと入る。

湯気越しに見えるのは、ジャックの大きな背中。

「遊星 久しぶりに頭を洗ってくれないか?」

振り返る事無く手渡されるシャンプー。

ジャックは『久しぶりに』と言うが3日前にも遊星と一緒にお風呂に入りシャンプーをしてもらっているのだ。

遊星は、手渡されたシャンプーボトルのポンプを数回押し液体を掌に乗せるとジャックの頭を洗い出す。

鏡が曇って見えないけどきっと目を閉じ笑顔を浮かべているだろうジャックの姿を想像する。

「気持ちが良い」

と一言言うジャック。

本当に気持ちが良いのだろうと思っていると

「遊星の柔らかい胸が当たっているからな。」

と付け加えられる言葉に思わずジャックの頭を叩いてしまった。

シャワーで泡を洗い流しながら

「ボディーソープ取ってくれる?」

前を隠す為に持って来たタオルは、既に濡れておりその上からボディーソープの液体をかけるとクシュクシュと揉み

簡単に泡立てるとジャックの広くて大きな背中を洗い出した。

「遊星 前も洗ってくれるんだろう?」

「子供じゃないんだから自分で洗いなさい。」

流石に前を洗うのは、恥ずかしいのだ。

意識しなでおこうとしても前を洗う時には、否応無く男性性器が目に入るのだ。

渋々自分で前を洗うジャック。

風呂上がりには、遊星に膝枕をしてもらう為に無理強い出来ないのだ。

ジャックを綺麗に洗い流した後遊星は、自分で自分の躰を洗おうとしたが上半身を捻り振り返ったジャックに

タオルを持った手を掴まれてしまう。

「今度は、俺がお前を洗ってやる。」

「ちょ・・・そんな事言ってココでヤルんじゃないでしょうね。」

「安心しろ風呂上がりの膝枕が待っているんだ。抱き枕は、寝る時で充分だ。」

(・・・って言う事は、今日するって事なの???)

軽い眩暈を感じてしまう。

遊星が無言になったのを良い事にジャックは、遊星を自分の膝の上に座らせると躰を洗い出した。

宣言した通りジャックは、遊星を襲う事をしなかった。

ただ触れる度、反応する遊星を堪能していた。

 

流石に疲れたのか遊星は、ソファの上でグッタリしていたがそんな遊星の膝には満足そうなジャックの顔があった。

「変な事は、しなかっただろう?」

「はぁ〜確かにしてないけど・・・」

それに匹敵するぐらいの事は、された様に思える。

(それにしてもジャックってまるで子供みたい・・・。)

TVで見るジャックは、雄雄しく孤高の一匹狼に見えるのに1歩家に入れば遊星に甘えてくる。

ギャップが激しいのだ。

しかも遊星が好む表情を浮かべて甘えて来るので拒めない。

遊星がジャックの頭を撫でていると気持ち良さそうに瞼を閉じる。

(そう言えば以前言ってたっけ・・・母親に甘えた事が無いって。彼が甘えてくるのは、私を母親の代わり

にしているからなのかな?)

それは、ちょっと寂しい気持ちになる。

「ジャック 眠るのならベッドに行こう。」

「もう少しこのままで居たい。」

「こんな所で躰を冷やされても困るから。」

明日も試合が有るのだ体調管理に気を付けないといけない。

 

駆け出しとは言えプロはプロなのだ。

未来のデュエリスト候補達にデュエルをするにあたりいろいろ講義をしに学校関係に赴いたりデモンストレーション

を行ったりと多種多様の仕事が有る。

 

「躰が冷えたらお前が温めてくれるんだろう?」

「なっ・・・何を言っているの!!」

赤くなる遊星の頬を撫でながら

「そうと決まればベッドに移動するぞ。」

言うが早いかジャックは、躰を起し遊星を抱え上げる。

「ちょっと私は、何も了解していないんだけど。」

「俺の躰が冷えると困るんだろう?だったらお前が温めてくれればいい。」

「どうしてそっちの方向に話しが行くのよ〜。」

「俺がしたいからに決まっている。」

「私は、性欲処理の道具じゃないのよ。」

「誰がそんな事を言った?俺は、お前を性欲処理の道具なんて言った事も無ければ思った事も無い。」

ジャックが言うように言われた事なんて無い。

同意を得ず自分勝手に性行為に及ぼうとされると流石にそう思ってしまう。

それに同棲する前も後もジャックから『愛してる』とか『好きだ』とか言われた事も無い。

気が付けば当たり前の様にジャックが傍に居た。

そして流されるまま同棲した。

 

寝室に運び込まれベッドに横たえらる。

伸しかかって来る大きな躰。

間近に見える紫の瞳。

「膝枕からどうしてこうなるの?」

「赤くなったお前の顔を見ていたら我慢が出来なくなった。」

「どんな顔をすれば貴方に襲われないのかしら?」

「そんなの無理だろう。お前の全てが俺を狂わしているんだからな。」

「で・・・んん・・・」

これ以上の会話は、不要と言わんばかりに唇を貪られ吐息まで奪われてしまう。

彼は、愛情を口に出さないが代わりに躰の全てで『お前を愛している』と訴えかけてくる。

判っているが言葉が欲しい時だって有る。

特に見知らぬ相手の香水が香っている時は・・・。


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