私の恋人(おとこ)-1-


2年ぶりに帰って来たドミノ・シティー。

そして2日後連絡もしていない男が目の前に現れた。

 

「遊星 この俺の妻となり俺の子を生むんだぁ!!」

 

テンション高々な男。

公共の場で回りの目を気にする事無く大声でのプロポーズ。

しかもこの男『超』が付く程の有名人『絶対王者』ジャック・アトラス。

デュエルで彼に勝てる者は、いないと言われている程の実力者。

2年前突如現れ瞬く間に頂点を極めた若干19歳。

初代デュエルキングの武藤遊戯には、及ばないまでも若くしてキング座に座る男なのだ。

 

「遊星も大変ね。彼毎日の様に遊星の前に現れるんでしょ?」

「アキ それ言わないで・・・本当に現れそうだから。」

ドミノ・シティーに戻って来て2ヶ月弱。

毎日現れるジャック。

しかも自分の居場所なんて誰にも言っていないから解らない筈なのに何処で自分の居所を着き止めるの

か確実に探し当てる。

当初発信機でも付けられているのか?監視されているのか?等と疑い調べたがそんな事をされている形跡

が無い。

彼曰く「デュエリストたる者の感だ!」だそうだ。

まるで超能力者?

「でも凄いわよね。あのデュエルキングにプロポーズされるなんて。彼に恋焦がれる女の子は、数知れず。

あの手この手を使い彼の目に止まり彼に告白される日を夢見ているって言うのに。」

「そんな事言われても知らないわよ・・・勝手に告白してくる男なんて。」

ムス〜とした表情の遊星にアキは、苦笑いを浮かべながら

「噂をすればなんとやら・・・私は、馬に蹴られたくないので退散するわね。」

ソソクサ席を立ち遊星の元から離れる。

「ちょっ・・・ちょっとアキ!!何か誤解してるみたいだけどって・・・」

「遊星!!ここに居たのか!」

声高らかに遊星の元に来るジャック。

何処と無く嬉しそうだ。

「少しは、声のトーンを下げたら?」

呆れ顔の遊星に対しジャックは、

「お前を前にしてテンションを下げられるワケが無いだろう?」

至極当然と言わんばかりの態度に遊星は、軽く溜息を吐く。

声のトーンとテンションは、違うと突っ込みを入れたいが入れるだけの気力が無い。

「・・・で今日は、何の用なの?」

「デートの誘いに決まっている。」

無言で席を立つ事にする遊星。

ジャックは『O・K』との意味に取り嬉しそうにしている。

(まるでバカな大型犬・・・)

軽い頭痛を感じている遊星。

「何処に行くのだ遊星?」

「貴方は、目立つのよ。話しは、外でしましょ。」

一応ジャック自身遊星の為に変装をしているのだがサングラス越しでもわかる容姿端麗と長身に付け

加えてテンションの高さ。

それに彼独特な声が彼の正体をバラシテいる様なもの。

だがジャックは、それに気が付いて無い。

ジャックが遊星の為にしているのは、変装だけで無い。

遊星がドミノ・シティーに戻って来た時の為に車の免許を取得したりタクシーの乗り方を覚えたり。

遊星とのデートを楽しむ為に色々と学んだのだ。

それ以上に昔遊星が『誰にも負けないデュエル・キングに憧れる。』と言った事を真に受けデュエル・キング

になった。

しかし遊星は『憧れる』と言っただけで『付き合いたい』とは、言っていない。

「遊星 車に乗れ。」

助手席の扉を開けて待っていると遊星は、無言でそれに従う。

無視して通り過ぎる事も出来るのだが公道で大声で名前を呼ばれるのは、流石に恥ずかしいのでジャック

の車に乗る事にした。

そうとも知らないジャックは、上機嫌。

「・・・で何処に連れて行ってくれるの?」

シートベルトを締め車窓を眺める。

ジャックの視線を気にしてじゃない。

隠れているマスコミをチェックしているのだ。

(ざっと見積もって10前後・・・まだ少ない方だけど・・・しかしどれだけ無用心なの?)

呆れてしまう。

窓に写るジャックは、嬉しそうだが・・・。

そんなジャックが車を走らせて連れてきてくれたのは、ドミノ・タワー。

タワーの展望台からドミノ・シティーが一望出来る場所なのだ。

2年前は、まだ工事中だったので上る事が出来なかった。

戻って来てから1度は、上ってみたいと思っていた。

「凄い・・・遠くまで見える・・・」

「夜景は、もっと凄いぞ。」

展望台の手すりと自分の躰の間に遊星を挟み遊星の両サイドを長い腕で囲う様に手すりを握る。

視線を遊星の高さに合わせ遊星が見ている高さでドミノ・シティーを眺める。

耳元で聞こえるジャックの声にドキドキする。

「あっ・・・あの建物ってトップスの人達が住んでいるのよね。」

無理な傾斜で立っている建物に指を指す。

「行ってみたいのか?」

「まぁね。お金持ち気分を味わってみたいもの。」

1度味わってみたい。

「今度行ってみるか?」

「お金持ちじゃないのに入れるワケ無いでしょ?セキュリティーに引っかかるわ。」

少し諦め顔の遊星。

「大丈夫だ。俺が一緒なんだから。」

「ジャックが一緒だと何故大丈夫なの?」

不思議そうにジャックに訪ねる際横を向けばジャックの整った横顔。

思わず心臓が止まりそうになる。

「俺は、あそこに住んでいるからな。」

「えっ?」

遊星の方に向いたジャックに唇を掠め取られる。

まるで手馴れた感じがした。

ジャックの言葉と行動に驚く遊星。

そんな遊星の肩を抱き寄せ

「ドライブでもするか」

歩き出す。

触れるだけとは、言え遊星と初めてキスが出来て嬉しいジャック。

彼女にキスをしようものならビンタをされる事を覚悟していたがビンタが飛んで来ない。

その後互いに意識してしまってなかなか会話らしい会話が出来ない上に景色も目に入らないで居た。

流石の遊星もマスコミの存在に気が回らないで居た。

 

 

 

その夜

「・・・あ・・・うん・・・大丈夫・・・心配しないでお父さん」

小さなスクリーンに映し出された父親とテレビ電話をしている遊星。

《何か嬉しそうだね。何か良い事あったのかい?》

「ええ・・・予想外の事が起きて・・・」

嬉しそうにしている娘に不動博士は、

《ジャック絡みかな?》

訪ねる。

「そうよ。やっぱり解ってしまうのね」

愛娘の事だから解って当然。

《君がシティーに戻ったのって彼の為じゃないか。パパは、君が居なくて寂しいのに・・・》

「お父さんそんな顔しないで。ちゃんと電話しているんだから・・・」

遊星は、マスコミ対策を父親に頼むと愛娘の頼みとあって快く引き受けてくれた。

ただ一言

《ジャックにもう少し配慮してもらいたいね。まぁセキュリティーにも働きかけてあげるから安心して楽しむと

いいよ。》

苦言を言うと少し困った顔をした遊星。

暫く父親と会話をした後遊星は、シャワーを浴びベッドへ。

その日在った事を思い浮かべる。

本当は、ジャックに話しかけられたりすると嬉しくて仕方が無い。

しかも今日は、触れるだけとは言えジャックとキスをした。

素直じゃないけど遊星は、ジャックの事が好きなのだ。

だからジャックに誘われるのは、嬉しい。

でも素直じゃないからそれが行動にも顔にも出ない。

寧ろ反対の態度が出てしまうのだ。

2年前に比べて恰好良くなって・・・フフフ・・・」

(バカな大型犬な所は、昔のままだけど・・・)


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