王様の苦悩 |
―― 社長室前 秘書が扉をノックしようとしていたので 「自分でノックします」 と言い秘書を下がらせた。 心臓がドキドキする 呼吸を整え今一度決心を固め直す もしあの時 秘書がノックしたら決心を固め直さずに入室する羽目になっていた。そうなるとちゃんと告白出来るのか解らない もしかしたら告白しないまま逃げ出すかもしれない 部屋の前で遊戯は意を決している頃 部屋の主は 遊戯 早く来い 逸る想いに身を焦がしていた。 コンコン 待ちわびたノックの音 ゆっくり開けられる扉 その全てが永く感じられる 室内を恐る恐る覗き込みながら入って来る遊戯 目的の人物は、大きな特殊ガラスを背にどうやら仕事中 何だか申し訳ない気持ちのまま室内に入ると目に留まる無数の段ボール箱 蓋が開いているを覗くと見た目からにして綺麗にラッピングされた高そうなチョコの山 自分のとは大違い 彼と自分の距離を感じてしまう 確かに彼と自分は住む世界が違う それを再認識させられ崩れ行く決心 ナップをギュ〜と抱き締めて居ると 「座らないのか?」 入室後一向に動く気配が無い 目の端にも留まらない場所 遊戯が段ボールの中を見つめたままなかなかソファに座らない それに疑問を抱き『座らないのか?』声をかける びくつく小さな身体 遊戯は促されるままナップを強く抱き締めながらソファに腰を下ろす 「凄いチョコレートの数だな・・・」 「フン くだらん企業の戦略にハマり あまつさえ海馬の名前を欲している連中からのモノだ 俺としては興味が無い」 そうただ一人以外は でもその一言が遊戯の心に重く圧し掛かる オレもそう見られるのかな? 自分もあのチョコの送り主達と同じ立場に居る・・・ だけど送り主達は女性なのだ運が良ければ海馬と恋中になれるが自分は男なのだ海馬と恋人になれる確率なんてゼロに等しい 告白する前に失恋を味わうなんて・・・こんな悲しい事・・・ 不自然なまま抱き締められたナップを海馬は、蒼い瞳を細め訝しい表情で見つめる まさか遊戯のヤツ 女から告白でもされたのか? その時 貰ったチョコレートをカバンの中に隠し俺に見せびらかせるつもりだったのか? それとも俺宛のチョコレートなどが入っているとか? ナップの中が気になる 確認したい気持ちになる そんな海馬が動いた事に気付かないでいると背後からナップを取り上げられる 「なっ!!海馬何するんだ!カバンを返せ」 慌てて立ち上がり取り返そうとするが手が届かない 何とか取り返そうと飛び跳ねるものの身長差故に届かない 仕方が無いがソファの上に立ち海馬目掛けて飛び掛る 流石の海馬も驚き遊戯を抱き留めるが何とか無様に尻餅を着く事だけは免れた。 だがその際 ナップの中身が見事に曝け出され遊戯の手作りチョコ入りの箱も出てくる 海馬がそれを拾う ラッピング自体綺麗とは言えないが明らかに手作りだと物語っているソレ・・・ 「うわ!!!!!海馬それ返せ!!!!」 顔を朱に染め慌てる遊戯 だが海馬は返す動きを見せない 「遊戯・・・これは?」 まさか遊戯が? 「お前に関係ないだろ!!」 女から貰ったものなのか? 「お前 沢山チョコレート貰ったんだろ!!」 「遊戯・・・貴様が貰った物なのか?」 何か嫌〜な予感 「違うぜ・・・オレが自分で作ったんだ!!海馬の為に・・・!!!お前が言うくだらない企業の戦略にオレもハマったんだ!!それを返せ」 そこまで言って自分がとんでもない事を行った事に気が付き慌てて口を塞ぐが時既に遅し 「俺の為に・・・貴様が・・・?」 遊戯が俺の為に・・・・・? 予想外と言うか・・・ こうであって欲しいと言う願望は有ったがそれはあくまでも願望で有って現実になるとは想っていなかった。 だからどう反応していいのか解らない 否 幾ら頭脳明晰の海馬の脳と言えど人の心まで計り知る事が出来なかったのだろう それが恋だとなおさらだ 遊戯に至っては、ここまで来たらと覚悟を再度決め顔を更に朱に染め 硬く瞳を閉じ 「オレは、海馬の事が好きだ 何処でどうなったのか解らないけど オレの一方的な想いだと解っている お前に迷惑なのも解っている だけどオレの素直な気持ちお前なら聞いてくれる想ったから・・・ 嫌われるの覚悟の上で・・・でもオレもあのチョコの送り主達と同じだぜ・・・」 語尾が小さくなり出し最後まで言い切れない 報われない想い そう思いながらも彼の反応が気になるのだ 「誰が貴様を嫌うと言うのだ? バレンタインのチョコは、好きな相手から貰ってこそ価値があるんだ 遊戯 貴様の気持ち確かに受け取ったぞ」 抱き締めた小さな身体を確認するかの様に強く抱き締める 気持ちを受け取ったって・・・どういう事なんだ? 恋愛ビギナー故に言葉の意味が今一理解出来ないでいるがでも嫌われたんじゃない事が解り遊戯としては、嬉しい ク〜・・・ 遊戯のお腹から可愛い音がなる 「ククククッ・・・遊戯 昼食でも食べに行くか?」 遊戯がここに来た時間を考えるとまだ昼食は取って無い筈・・・ そんな折 鳴り出す携帯 鳴ったのは遊戯の携帯でメールの着信を知らせるモノ 送り主は、遊戯の相棒 コメントには ≪折角だから海馬君とこに泊まって来ていいよ≫ 「貴様の相棒は、気が利くな」 メールのコメント内容を海馬に見られながらも なっ何で・・・・?外泊なんだ? もう一人の僕・・・ 海馬君が簡単に帰してくれるとでも思っているの? |