面壁九年
「父上それは、どう言う事ですか?
兄上の誕生パーティーの席で花嫁を選べとは」
アメジスト色の瞳に乗せた怒りの色
流石は、父親・・・
ティマイオスやヘルモス以外の者なら恐れるであろうそれをモノともせず淡々と
「言葉の意味そのままだが何か不満でもあるのか?」
「おおいに不満だらけです 俺は誰も娶る気など無い・・・」
そう俺はティマ以外欲しいとは想わない!
「クリティウス もしかして気になる相手でも居るのか?」
「兄上には関係無い いや寧ろ何故 兄上の誕生パーティーで
俺は花嫁を選ばないとイケない?
この場合 兄上の花嫁を探す方が妥当だと思うのだが」
怒りの矛先が兄の方に向きだした時
「クリティウス様御友人のヘルモスがお見えになっておりますがお通し・・・」
恭しく頭を下げ執事ヘルモスが来た事を告げようとしたが最後まで言い切らない内に
「クリティウス!よっ元気にしてたか〜」
二日前に会った筈だが・・・
「おじさん おばさん兄貴殿元気そうで何よりです〜」
何と言う挨拶の仕方なのだろうか
まがりなりにも東家の当主に向かって
しかしクリティウスの父上は
「久しいな南家の子息殿」
「ヘルモス一体何の用だ?」
幾分頭痛とメマイを感じながら尋ねる
ヘルモスの後ろに居る人物を気にしながら
気にするだと?
この俺が?
ティマならまだしも見知らぬ者を?
「おっそうだった
クリティウスが小さい頃に会った姫君が見つかったから連れて来たんだ」
何だと!何故今頃になって・・・
「へ〜何処の姫君なんだ?」
兄上が姫君に近寄るものの姫君はフードを深く被っており
その顔を伺い知る事が出来なかった
興味津々で姫君のフードを取ろうしたら
「女性が被っているモノを勝手に取るなんて紳士としてあるまじき行為ですよ」
姫君のフードと伸ばされた 腕の間をマントで仕切ると
「挨拶ぐらい出来るだろう?」
「緊張して話せないでいる相手にですか?」
ヘルモスはふざけた様な話し方をしつつもその目は
『これ以上余計な事をするのなら東家の者とて容赦しない』
と警告を出していた。
先程から姫君の纏いしオーラにクリティウスは違和感を感じていた。
姫君と会うのは子供の時以来
なのについ最近までこのオーラを感じていた様に思える
このオーラは、ティマを思い出させる
気持ちが落ち着かない彼女に触れたい
ティマイオス以外に感じた事ない感情
しかも自分の雄が反応しているのだ
ティマにしか反応しない筈の自分の心
なのに何故???
まさかこの姫は
ティマ?
しかしこの匂いは雌の匂い?
だがこの匂いに紛れている匂いは、ティマのモノ
そう言えばヘルモスは何処で姫君を見つけた?
姫君の名は何と言うのだ?
困惑する思い
一つの疑問から連鎖されるが如く次々と出て来る疑問
姫君を凝視するクリティウスに気がついたのはヘルモスでは無く姫君自身
姫君はヘルモスのマントを軽く引っ張り自分の方に振り向かせる
「おっそうだった! クリティウス 姫君の面倒見てやってくれよ
俺は急いで王城に戻らないとイケないんだ」
そうこの姫君がティマなワケが無い
彼は今頃 王城に居るのだから・・・
そう思っていたクリティウスにヘルモスは
「ティマイオスの奴 急用で実家に帰ったからな」
総大将の代わりを勤めなくてはイケないのだ
「解った姫君は、預かろう
だがヘルモス 俺は姫君の名を知らないんだが?」
ニヤっとしながら耳元で囁くと
「じゃ〜姫君の事頼んだぞ!!」
そう言うと嵐の如く立ち去って行った。