桜-3-
夜になっても何の連絡も無い
遊戯は携帯電話を見つめながら今朝来たメールを何度も読み直す
海馬のヤツ 遅れたりキャンセルしたりするのなら連絡して来いよ
だがよくよく考えてみたら〔今夜〕とは書いてあっても〔何時頃〕とは書いていない
だが待つ方にしてみれば一日千秋の想いなワケ
特に何時逢えるのか解らない相手程・・・
海馬にとってオレは都合のいい遊び相手だったのかなぁ?
恋愛感情を抱いているのはオレだけなのか?
等と余計な感傷に自分で浸り出した頃 階下に居る〈遊戯〉が勢いよく階段を駆け上がり
「もう一人の僕 君にお客さんだよ」
と言いながらクローゼットの中から薄手の春物コートを遊戯に着せながら玄関まで連れて行く
余りにも強引な相棒の行動に成す術も無く勢いに流されながら玄関へ行くと門の前には
ロールスロイスが停まっておりドア付近には磯野が頭を下げながら遊戯を待っている
海馬が直々に迎えに来てくれたワケじゃ無いので何だか寂しい気持ちになる
それでも海馬に逢えると想うと嬉しい そんな想いを胸に抱きながら遊戯は相棒に
「行ってきます」
と言い相棒から
「一晩甘えておいで」
と言われる 顔を朱に染め嬉しそうに
「ああ・・・」
とだけ返事をしながらロールスロイスに乗り込む
「遅い」
誰も居ないと思われた後部座席
直に聞きたかった声 遊戯はドキドキしながら隣を見ると不機嫌そうな海馬の顔
思わず遊戯の顔がムス〜とした表情に
何で久しぶりに逢ったと言うのに機嫌が悪い顔してるんだよ不愉快だぜ
流れる景色を見るフリをしながら悶々する遊戯
海馬が不機嫌な顔をしているのは仕事の忙しさとモクバが言っていた冥界に還るかも・・・
の話しが頭から離れないからだ だが海馬は心の中でどう思っていようとも口に出す勇気が持てない
その為か自分から意識を切り離している遊戯の
「俺が傍に居るのに心此処に在らずとは許せんな」
細い肩を抱き寄せながら囁くと
「別に心此処に在らずじゃないぜ
海馬なんか機嫌悪いくせに」
「別に機嫌が悪いワケでは無い
否 もし貴様に逢えなかったら機嫌が悪くなっていただろうな」
「逢えなかったらって今迄ドタキャンが多かったヤツの台詞かよ
それにもしオレが寝て外出出来なかったとしてもお前の事だ担いででも連れ出すだろうぜ」
「当然だ 貴様は俺のモノだからな」
「そしてお前はオレのモノか?」
「ああ・・・」
そんな会話をしている内に車は海馬邸の玄関先に横付けされようとしていた。
海馬の私室に向かいそのままデュエルかと思いきや海馬はラフな格好になり遊戯を連れて奥庭へ
だいふ歩いた場所に下からライトアップされた見事な枝の木が淡い小さなピンクの花を誇らしげに咲かせていた。
「綺麗だぜ」
驚きながもその木に魅入る遊戯
「これは枝垂れ桜だ 糸桜とも言うがな」
「これも桜なのか? 童実野公園に咲いているのと枝着きが違うけど・・・」
「公園のは染井吉野と言う桜だ まぁどちら
も江戸彼岸を使った園芸品種だがな」
「でも海馬の屋敷でこんなに綺麗な夜桜が見れるとは思わなかったぜ」
「桜自体綺麗なのだがそれを更に綺麗に見せる為に庭師が端正込めて育てたらしい」
今夜の花見を提案したのはモクバだった。
屋敷内に枝垂れ桜が在るのは知っていたが何分咲きなのかまでは知らなかった。
しかし桜も美しいが海馬にはそれに魅入っている遊戯の方が美しいと思っていた。
桜に心を奪われ無意識の内に桜に近寄る遊戯
その時吹いた一陣の風が地に落ちた花びらを舞上げ また枝に咲いている花を揺すり花びらを
宙に漂わせ遊戯を取り囲む様に舞う そのさまが海馬には遊戯を連れ去る様に見え風に揺れる
長い枝が遊戯を覆い隠そうとしている様に見えた。
今 彼を見失ったら・・・
遊戯は誰にも渡さない!!
もう二度とあんな思いは御免だ!!
心から沸き起こる恐怖と遊戯を一度失った時の後悔から海馬はおのずと手を伸ばし遊戯を捕まえ様とする
そんな海馬の気持ち等全く知らない遊戯は魅せられるまま桜に近付く
そして力よく腕を捕まれ引っ張られるがまま後ろに躯が傾き海馬の胸に勢いよく顔面をぶつける
「いっ・・・かいばぁ〜急に何だよ!!顔ぶつけ・・・?」
自分を抱き締める腕がさっきより強くなり微かにだが震えているように感じられる
海馬の表情を見ようにも後頭部を胸に押し付ける様にされ見る事が出来ない
海馬の胸元に耳を押し当て早く動く鼓動を聴きながら
海馬の鼓動・・・何故だか安心するぜこの世界に復活してから幾夜 躯を重ねただろう
その度 聴いていた鼓動 この鼓動を聴いているとオレは、現世に・・・
海馬の傍に居るんだと実感するぜ