約束-3-

約束−3−

海馬が帰宅したのは翌朝になってから・・・

ダイニングに行くと何時もなら朝食を取っている

モクバに逢う筈なのにそのモクバの姿が無い

執事に聞いたら夕べ出かけたきり帰って来てないないらしい

 

仕方の無いヤツだ・・・

 

と思いながら海馬は自分の部屋へ

遣り残している仕事に取りかかる

 

そう言えば昨日遊戯には、申しワケ無い事をしたな・・・

あれが機嫌を損ねると厄介だから一言謝っておくか

 

携帯を取りだすとメモリーに登録されている遊戯の名前を呼び出しダイアルする

数コールで通話状態になると

「遊戯か」

『海馬君?』

「気様の方か・・・遊戯に替われ」

『彼なら熱を出して今寝ている所だよ』

「なっ!」

『もう一人の僕が海馬君の迷惑になりたくないらしくて面会は

いらないってさっき言ってたから面会に来なくていいよ』

「しかし・・・」

『本当に望む者の心を大切に守ってあげられないのに

子供の夢とかは、守れないよ・・・これは僕から君への言葉・・・

もう一人の僕の気持ち察してあげてね』

そう言うと切られる

無情にもプープーとだけ聞こえて来る

 

遊戯が熱をだと?

常日頃から健康管理には気を付けろと言っているのに

しかし胸中に広がる不安は何だ?

遊戯は、体調を崩しただけ・・・

それなのに・・・

そして<遊戯>の言葉が妙に引っかかる

 

コンコン・・・

力無くノックされる扉

それが更に海馬の胸中に広がる不安を増幅させる

「・・・入れ」

ガチャ・・・

俯き加減で入って来るモクバ

そんなモクバに海馬は

「モクバ 今迄一体何処に行ってたのだ?子供が朝帰りとは感心せんぞ」

「・・・兄さま 夕べ携帯の電源を切って何処に居たの?・・・」

海馬の問いに答える事無くモクバは質問を投げかける

「何処だと?会社に居たのだが・・・

携帯の電源は、仕事の邪魔になるので切っていたのだが?」

「オレね・・・今さっきまで童実野病院に居たんだ・・・」

「!!」

モクバからの力無い答えに海馬は驚く

「モクバ何処か具合でも悪いのか?」

己が弟の身を案じる兄・・・

それは、今のモクバにとって嬉しくない

「兄さまにとって遊戯の存在って何?」

「モクバも知っていよう遊戯は、俺にとって大切な存在だ」

「!!!!だったら何で遊戯の事 気にかけてあげないの?

遊戯が今迄どんな気持ちでいたか!!」

「モクバ・・・」

泣き顔のモクバをまた見ようとは・・・

「夕べ<遊戯>から兄さまの携帯に緊急の用事で電話があったのに

兄さまが出ないからオレの携帯にかかってきたんだぜ!!」

「もしかして遊戯が熱を出した事か?」

大方<遊戯>がかけて来た内容は、さっき自分と話してた内容の事だろう

「熱?そんな理由で電話なんてしないよ

もっと大事な事があるから電話するんでしょ!!」

感情剥き出しの弟の姿・・・

モクバが兄である自分に今迄これほどまでに怒りの感情を見せ向けた事なん

てあっただろうか?

「夕べ・・・遊戯が・・・自宅で倒れたんだ!!!意識不明で・・・

その事をもう一人の<遊戯>が兄さまに知らせ様と携帯に電話したのに・・・

兄さまにとって遊戯は本当に大切な人なの?

オレから見れば〔ただの都合のいい相手〕にしか見えないよ」

 

遊戯が・・・遊戯が倒れた・・・?

・・・いしきふめい・・・?

ゆうぎ・・・

 

ガタン・・・

「モクバ 遊戯が倒れたって!!どう言う事だ!!」

急に立ち上がり椅子をこかしながら問いただす

「・・・昨日・・・遊戯が自宅に着いた時らしいけど<遊戯>と玄関で一言二言

会話した途端倒れたんだって・・・急いで病院に連れて行き検査を受けさせた

んだけど

脳や身体には異常が見られなかったらしいんだ

ただ精神的に問題があるのだろうって」

昨夜その事を電話で伝えられたモクバは居ても立っても居れず

携帯を片手に急いで病院に向かったのだ

兄と同じだけ好きになっていた相手の事が気になって・・・

 

モクバにとって遊戯は、当初『兄を奪った相手』にしか思えなかった

でも一緒に居る内に自分にとっても『特別』な相手になっていたのだ

そして電話越しに感じた事・・・

(遊戯が寂しさの余り現実から目を背けた)のだと

遊戯の心の闇は薄々感じては居た

だがココまで酷い状態になってい様とは思いもしなかった。

実際モクバからも海馬の携帯に電話を何回も入れた

その都度ガイタンスで電源が切れているか通話の出来ない状態・・・と言うアナ

ウンス
が流れていた。

 

モクバからの報告を受けながらも海馬の脳は現実を受け止められないでいる

そして<遊戯>の言葉が頭を過る

『望む者の心を大切に守って・・・』

 

俺が望む相手・・・俺は、その相手の心に気付いてやれなかった・・・

その代償・・・ゆうぎ・・・

 

海馬の心はショックの余り固まった様に何度も何度も遊戯の名前を呼ぶが

身体は、そんな心を無視し扉の方へ向かう

「兄さま?」

放心状態と言っても言い様な兄の姿

「モクバ 直に車の手配をしろ」

とだけ言い残し室外へ

兄に言われた通りモクバは、内線を使って車の手配をする

 

兄さま・・・もっと早く自分の気持ちにも遊戯の気持ちにも気付くべきだったのに

そうすればこんな事にならずにすんだのに・・





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