一筋の光 -3-


気だるさが残る状態で目が覚めた

一糸まとわぬ己の姿

無数の紅い所有印

下肢には生々しいモノが付着している

やるだけやった痕・・・

 

普通は綺麗に清めたりしないのか?

 

そう言えば自分は囚われの身だったと思い出す

今の自分の立場は欲望さえ発散させればそれだけでいい相手なのだ・・・

この行為に情なんて有りはしない

ガクガクと来る足を何とか立たせ部屋に隣接されている浴場に行く

今はこの汚らわしいモノを何とかしたいのだ

アテムは湯に身を浸しながら身体を清める

身を清めながら思い出されるのはセトの事

今の自分の姿を彼が見たら何と言うだろう

自分に軽蔑の眼差しを向け

「汚らわしい」「淫買行為をしてまで生きたいか?恥さらし」

と罵られるか・・・

はたまた何も言わないか・・・

そんな光景が脳裏を霞める

負の感情に囚われて行くアテム

逢いたい相手なのに逢うのが怖い

自分の身体を抱きしめウズクマリそうになる

ここは自分にとって敵が居る場所・・・

今弱い自分を見せるワケには行かない

毅然とした態度で居ないと

人質をなっている者達の為に

祖国エジプトの為・・・

今は私情を押し殺さないと

今一度光を失いかけた瞳に光を灯すアテム

 

今は生きて人質となっている者達と祖国エジプトに帰る事を考えないと

 

それには、どうしたらいいのか模索し始める

今戦えるのは自分一人なのだ!!と心に言い聞かせながら

 

 

 

-数分前-

アッシリア王宮の地下・・・

マナは兵を守りながらどうにかしてエジプトに居る師匠達に連絡を

取れないものか思案していると階段を誰かが降りてくる気配

牢の前でたたずむ兵

その表情は、まるで何かに憑依されているかの様で・・・

憑依?

まさか・・・

マナは恐る恐る兵に近づく

「マナ それ以上近づいては!!」

自分と一緒に居る兵に制せられるが

「大丈夫」

マナはアッシリア兵の前に近づき

「もしかして貴方は・・・先の戦いで亡くなった兵の方?」

マナの言葉にエジプト兵は驚くがアッシリア兵コクンと肯く

『王宮内外に張られた結界のお陰でここに来るまで時間がかかってしまい

ました』

「どうかアテム様を守り助けては、くれませんか?」

マナの言葉に首を左右に振る亡き兵士

『私達の力ではファラオが居られる場所まで行く事叶いません

魔術師よ 貴女の力をお借りしたいのだが・・・』

「私の力?」

『我々は神官様達にファラオの所在をお伝えしに行きます

ですが我々の力だけでは如何に神力をお持ちの神官様と言えど

お伝えするのは不可能・・・』

カーでは無い彼等の存在を早々に気付いてくれるのか

彼等自身戸惑っているのだ

そしてマナを頼る事にしたのだ

そこまで聞いてマナは先程自分が考えていた事を思い出す

「解ったわ!!」

意気込むマナ

しかし彼女の魔力は、既に限界に近いのだ

否 むしろ限界を超えているのかもしれない

そんな彼女を突き動かしているのはアテムの命(めい)と自分と一緒に

捕まっている者達を守りたいと想う気持ちだろう

「おっ・・・おい」

「これは・・・」

兵に囲まれ守られている千年錘

その千年錘が神々しいまでの光を発し出したのだ

そしてウィジャットから放たれる一筋の光・・・

その光はマナの身体を貫きアッシリア兵に憑依しているエジプト兵を

切り離す

崩れ落ちる様に倒れるアッシリア兵

『おお!!何と言う力・・・ありがとう魔術師よ

これで神官様達を呼びに行ける』

そう言うとエジプト兵の霊はマナに礼を述べ姿を消した

「あっ・・・私何もしてないのに・・・」

「そんな事無いよ」

「そうそう貴女が居たから魂になったとは言え

同胞がココに来た」

「結局はファラオが託されたこの千年錘が力を授けた結果になったけど

そのキッカケを作ったのは貴女の存在があったから」

「ありがと〜みんな〜」

泣き出しそうなマナだったが自分の身体に違和感を少し感じていた

消費した筈の魔力が回復しているのだ

ここに居る者達に魔術は使えない・・・考えられるのは・・・

「何時でも戦える様に我々も準備をしておこう」

兵士達の士気が高まり出す

そしてエジプト兵達の魂は空間を越え祖国エジプトへ

神官団を呼ぶ為に・・・

 

 

 

 

-エジプト王宮内-

今尚足取りが掴めないアテム達の身を案じる神官達

『・・・さ・・・ま・・・さま・・・』

「?」

「アイシスよ いかがされた?」

何かを感じたのか辺りをキョロキョロと

見渡すアイシスにカリムが訊ねると

「あ・・・いえ・・・今微かに声が聞こえたので・・・」

「私には何も聞こえないが?」

『・・・し・・・さま・・・かん・・・』

やはり微かに聞こえる声

アイシスは声のする方向に歩き出す

「やはり聞こえるのです」

そう言って彼女はテラスにでると空には満天の星

「!」

空には一際輝く一筋の光が・・・

アイシスの後を着いてシモンや他の神官達もテラスに出て

その光を目にする

「貴方達は・・・そうですか・・・」

一筋の光に見えたその光は多くの魂が集まって飛んでいるモノ・・・

「あれは・・・」

シャダは信じられないモノでも見たかの様な表情を浮かべている

死した者は冥府へ向う筈なのに

魂達は冥府に行っていなかったのだ

「彼等がファラオ・アテム様の所まで案内してくれるそうです

直に騎乗出来る飛竜の召喚を行ってください」

「スピリア!」

アイシスの声に応じ現れたカーに

「貴女は今すぐマハードの下に飛んで下さい

マハードに火急の知らせだと・・・」

アイシスの命(めい)を受けて飛び立つスピリア

シモンを残し各々2組に別れて騎乗出来る飛竜に乗る

 

「何故あの魂は冥府へ向わなかったのだ」

疑問を口にするセトに

「あれはアテム様の視察に同行した者達の魂

死して尚アテム様をお守りしようとしているのです」

「だが数が多すぎる」

「歴代の王でアクナムカノン王に匹敵する程の信望の高い御方

ですから兵の他にも従者や女官達も加わっているのでしょう」

確かにアイシスが言う通り武装した者の他に王宮で働く時に見にまとう

衣装を来た男や女も居る

これ程の信望を集めた王が歴代の王の中に居ただろうか?

むしろ先王アクナムカノンより信望が高いのかもしれない

だから死して尚守りたいのだ

自分が尊敬し愛した王を・・・

アテムの偉大さを目の当りにして複雑な心境のセト

彼を自分一人の者に出来ないと突き付けられている様な気分だ


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