一筋の光 -8-


セトの自身も感じる違和感

自分の体内から何か得体の知れない力を感じるのだ

それが次第に大きくなり身体を蒼白い光が包み込む

姿を現したのはセトでさえまだ操る事が出来ないカー

白き幻獣

姿を現した白き幻獣にクリボーは左右に道を開ける

白き幻獣も迷う事無くセトの背後から離れアイシスの

背後に立つ

その光景に驚くアテムとアッシリア王

2人より更に驚いたのはセトだろう

自分が呼びだしたワケでは無い

幻獣自身意思を持って姿を現した様に思えた

まるで自分を媒体にして・・・

 

城外に居る他の神官達も巨大なカーの出現を感じ取り

その力の方へ引き寄せられるかの様に広間へと向う

そして目にしたのは白き幻獣の姿

余りの神々しさ

まさに神の如し

白き幻獣を目にしたアッシリアの重臣や兵は、その場に

膝まずきまるで神に祈るかの様に床に頭を擦る者や手を

逢わす者まで様々な行動に出る者

また唖然呆然とする者も居るが一様に戦意を失っている

事が見うけられる

「神官セトこれは、いったいどうしたと言うのだ?」

「俺にも何が何だか・・・」

「貴殿が呼んだのでは無いのか?」

「俺が呼んだのでは無い

俺を媒体に姿を現したのだ・・・」

カーが勝手に?

セトの言葉に首を傾げてしまうものの彼がそんな嘘を吐く様

な男では無い事は知っている

だがいったいどうやって白き幻獣は姿を現したと言うのだろう

 

「白き幻獣よ その男に神の裁きを」

アッシリア王に指指し攻撃命令を出すアイシス

まさか彼女が白き幻獣を呼びだした!?

他人のカーを呼びだすなんて無謀過ぎる行為

しかもセトの許し無く攻撃命令を出すなんて驚いてしまう

「止めろ!アイシス」

「どうして?貴方様に・・・」

「相手は戦意を持っていない

それにお前は、オレを助けに来たのであってアッシリア王を殺害に

来たのでは無いのだろう?」

確かに自分の当初の目的はファラオ・アテムの救出

彼さえ無事なら・・・と思っていた・・・思っては居たのだが彼が

アテムが辱めを受けていたのなら

そう思うと許せなくなってしまう

アイシスにとってアテムは自分が仕える主人であり弟の様に接して来た

愛する者なのだ

「アイシス オレの気持ちを汲んでくれないか?

オレは無益な事はしたくないのだ」

アテムの言葉にアイシスは肩の力を抜き

「解りましたファラオ・アテム・・・貴方の御心のままに」

アテムに柔らかい笑みを向けながら

アッシリア王に振り向くと

「ファラオの御心故に貴方の命を取るのは止めましょう

しかし今後この様な事が起きればその時は貴方の命は無いものと

思いなさい」

頭を下げたままアテムの方を見様としないアッシリア王

「何故 私を助ける?哀れみ故にか?それならいっそうの事殺してくれ」

「殺しはしないぜ アンタはあの時オレの首を締め殺す事が出来たのに

それをしなかった・・・最後にはその手緩めてくれた

それはオレに対しての殺意が無くなった証だと思う

それにアンタがオレに見せた苦痛の表情と悲しみを称えた瞳が気に

なったんだ」

アッシリア王はその言葉に目を見開くものの顔を上げてアテムの方を

やはり見様とはしない

「あんな短時間でそこまで観察していようとは、恐れいるよ」

意識朦朧としていただろうあの一瞬で観察されていようとは・・・

「私は幼い頃に父上とエジプトに行った事がある・・・

その時出逢った少年に私は一目惚れしたのだ」

いきなり過去の事を離し出すアッシリア王

だがアテムは、それを遮る事無く聞き入る

彼は誰かに胸の内を聞いてもらいたかったのかもしれない

王故の孤独・・・

独り言の様に話し出す王・・・

「その少年の事をず〜と私は想っていた

だが事有る事に父上は私とその少年を比較し私を愚息とまで呼ぶように

なった・・・

次第に私の心には少年に対して嫉妬みたいな感情が芽生え出した

彼を手に入れ自分の傍に置き陵辱する・・・それが望みへと変り

現実となった時 私の心は言い様の無い虚無感に襲われた

その虚無感を凪ぎ払う為に何度も彼を陵辱したのだ

だがその虚無感が何なのか気が付いた時迷いが生じ己が手を緩めてしまった

もっと早く気付くべきだった・・・」

この王も俺と同じ感情を抱き苦しみ悶え暗闇をさまよっていたのか

暗闇から抜け出す為の光を求め

セトは自分がアテムと心通わせる前までの事を想い出す

彼は自分自身なのかもしれない・・・

もし自分がこの王の様に他国の者なら自分もアテムを略奪したかもしれない

ただ運が良かったのか自分はアテムと同じ国に生まれ

アテムの傍近くに行きたい一心で神官を目指す事が出来た

 

「オレだって完璧なファラオじゃない

オレだってアンタと同じ様に比較だってされてきた

まぁ・・・愚息とまでは言われなかったけど

オレは、そいつに負けたくない気持ちでここまで頑張って来たけど

悔しい事にオレは今もそいつに勝てないでいるんだぜ」

えっ??

アテムの予想外の言葉に思わず顔を上げ目を見開く

「確かにファラオ・アテム様は体格も身長も行動の幼さも他国の王と比べたら

まだまだです

どう言う訳か野心も御座いませんし」

フ〜と溜息を吐く様に言うアイシス

「そっ・・・そんな事他国の王の前で言うな!!恥かしいだろ〜」

子供の様に顔を真っ赤に意見するアテム

 

自分の心に有ったアテムと言うファラオのイメージが次第に音を立てて崩れて

行くような気がする

目の前で女神官と言いあうこの姿こそが彼の本当の姿

何と親近感溢れるファラオなのだろう

そして自分の思い描いていたファラオ・アテムとは何と程遠い存在なのか

「クククク・・・ハハハハ・・・・」

何かがフッ切れた

肩の力が抜け思わず笑いが込み上げてくる

「なっ・・・笑わなくったて・・・」

「い・・・いや・・・そなたの事で笑ったのでは無い・・・

否・・・そなたの事で笑ったのか?」

「どっちなんだ〜!!」

まさか自分の心に思い描いていたアテムと現実のアテムのギャップに笑ったなんて

言えない

「まぁ・・・何だか解りませんが解決した様なのでアテム様エジプトに帰りますよ

夜ふかしハ、お肌の大敵ですので」

アテムも肩を抱きながら立たせると今度は手を繋ぎ白き幻獣の下へ歩むアイシス


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