一筋の光 -9-


女神官に手を引っ張られて歩くアテム

 

自分の中にあったアテム像が崩れた

彼に嫉妬する理由は既に無い

きっと今の彼なら恋人とは行かないまでも

友達になってくれるかもしれない

そしてその気持ちを伝えるのなら今しかない

そう思い

「ファラオ・アテム!ご・・・御迷惑でなければ

わっ・・・私の友達になって下さい!!」

今迄の行為からもしかしたら断られるかもしれない

そんな恐怖が告白した今になって浮かび上がって来る

身体が震える

決死の思いで告白した口が・・・言葉が震える

そんなアッシリア王にアテムは

「今も昔もオレ達は友達だと思うんだけど?」

えっ?

予想だにしなかったアテムの言葉

しかもアテムは笑顔で答えてくれた

嬉しさが込み上げてくる

彼は幼い頃1度しか逢っていない自分を覚えてくれていたのだ

幼い頃自分はアテム王子に『友達になって下さい』と言った

自分でさえ忘れていた幼い頃の言葉

大事な言葉なのにそれを忘れる程アテム王子の印象は強く

心に残っていたのだった

アテムの第一印象と父王の言葉がアッシリア王の中でアテムを

偉大な王として勝手に植えつけられ育ってしまった

略奪し監禁してたのにも関わらず見えなかった真実

まぁ・・・他国で自分自身を曝け出す者など早々に居ないだろう

しかもアテム自身はエジプトのファラオなワケだし・・・

「ファラオ・アテム帰国しますよ」

そう言うとアイシスは白き幻獣の背に乗りアテムに手を指しだす

「アッシリア王 今度エジプトに遊びに来てくれ」

それだけ言うとアテムも白き幻獣の背に乗る

「アイシス 貴様どういうつもりだ!!」

白き幻獣に近づこうとするセトに

「クリボー」

アイシスの冷ややかな声

そしてセトと白き幻獣の間にはクリボーによって築かれた壁

アテムに近づけない・・・

アイシスに言いたい事があるがココは他国の王宮

早々と痴話喧嘩をする様な痴態を晒すワケにはいかない

セトは舌打ちをしながら

「貴殿等帰国するぞ」

とだけ言い残し自分が騎乗するドラゴンを召喚する

マハードとシャダは陸路を伝い兵を連れて帰国する事になった

 

セトは帰国する時はアテムを自分の腕に抱き締めその存在が

自分の腕の中に戻った事を実感しながら帰国するつもりだった

それなのにその存在は今目の前でアイシスの腕の中に居るのだ

「アッシリア王は終始ファラオに敬語みたいな話し方をされてまし

たが・・・」

「ああ それは、きっと彼がオレより3つ下だかだと思うぜ

先王は厳格な性格だったらしく自分が親睦を深めたい相手に

対しては、言葉使いにまで気を使う人だったと聞く

しかも友好関係のある国の王が自分より目上だった場合は

敬語を使ってたらしい

そんな父王のそれが彼にも移ったんだと思うぜ」

アッシリアの先王の事はアイシスも聞いた事がある

友好関係のある国に対しては礼節を着くし

敵国に対しては冷酷非情な態度を取ると

現国王は、どんな性格なのか噂は聞いた事が無い事を思い出す

「アイシス・・・セトをオレに近づけ無い様にしているのって・・・

もしかしてオレの身体に着けられている所有印の事か?」

「はい もしセトに見つかればあの王の命は無いでしょう」

セトのアテムに対する想いは神官団の誰しもが知っている事

もし最愛の人が陵辱なんてされているのを知ったらきっと彼は無情

な方法で相手を抹殺するだろう

そんな行動が目に浮かぶ様だ・・・

「気を使わせてスマナイ」

「御気になさらないで下さい

私にとってセトもファラオも弟の様な存在

当然の事だと思っていますから」

彼女の気遣いが今のアテムにとって大変有り難い

「ファラオ・アテム様帰国されましたら湯浴みをしましょうね」

夜空を飛行して身体は冷えているかもしれない

「今夜は誰も御部屋に近付かない様に言っておきますから

安心してお休み下さい」

「ああ・・・解った ありがとう」

 

エジプト王宮に戻って来たアテム

シモンは涙を流しファラオの帰還を喜んでいた

「シモン スマナイが今宵はもう休ませてくれ」

「おお!!そうですなファラオの御元気な御姿を拝しワシも

ひと安心しましたし ファラオの部屋には何人たりとも近付かぬ

様に申しておきます」

シモンはアテムに軽く会釈をすると衛兵に指示を出す

アテムはアイシスに言われた通り

自室に戻り

大理石で出来た浴室で湯浴みをしながら

浴場から見えるエジプトを見つめていた

 

本当に帰れるとは思わなかった

誰もオレの居所なんて見つけられず

アッシリアの地で果てるものだと思っていた

 

身体の所々に着けられた所有印・・・

本当は何度も自分の手で殺したいと思った

でも敵地でそんな事をすればマナ達の命が無いと思い何度も

思いとどまった

彼の行為を許せる筈が無い

だが彼の心の中の闇を知った時その闇を何とかしてあげたいと

思ったのも事実

だがその反面人質を取り行為を強要する事に対しては許せない

気持ちでいっぱいなのだ

自分でも矛盾しているのは解っているがどうすればイイのかなんて

解らない

・・・セトに抱きしめられたい・・・

だがこんな姿を見られたくない

アテムは一人自分の身体を抱きしめていたのだった


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