Recollection(追憶)-3-

Recollection(追憶)-3-

その正体を極僅かな者達しか知らぬままアテムはスクスクと

成長をしていく

アテムの身の回りの世話は新しく神官見習いとなったアイシスが

担当となり

彼女以外の者がアテムの素肌を見る事が許されなかった

それまでは乳母が一人で行っていたのだが彼女から

「暇を頂きたい」との言葉に彼女には一線から退いてもらった

その後の彼女の行方を知る者は居ない

「アテム様新しい魔術の先生がおみえになられましたよ」

アイシスが笑みを浮かべながら近寄ると

「オレは勉強なんて嫌いだぜ」

石階段に腰を降ろし膨れっ面をしソッポを向くアテム

「まだ怒っておられるのですか?」

呆れた口調をするアイシス

アテムが機嫌悪いのは楽しみしていた父王との遠出が

中止になったのだ

滅多に自分と遊んでくれない父

母を早くに無くしたアテム

親に甘えたい気持ちを押し殺しているのだ

そんなアテムの気持ちを知り父王がアテムを連れて遠出を

計画してくれていたのだが王としての責務故にか計画が流れて

しまったのだ

同年代の子供が居ない王宮では退屈な毎日

遊びの中で学ぶ事も多いのだが遊ぶ相手が居ない

次代のファラオとなるべく教育を受けているが退屈で仕方が

無いのか時折抜けだして周りの者達に心配をかけさせている

「アテム様は、どうして勉強がお嫌いなんです?」

優しい口調で語りかけてくるアイシスに

「退屈だから・・・」

「でも魔術の勉強は、御好きだった筈なのでは?」

「最初は興味があったぜ・・・でも・・・本当に魔術が使えない

ヤツから学んだって何の足しにもならない

この前何かの役にたつと思い治癒系の呪文を教えて貰ったんだ

その後自分で試したら治らないんだぜ!!寧ろ酷くなった」

先日アテムが足に大きな傷をしてしまい大騒ぎになったがまさか

自分の躰を使って実験していたとは眩暈が起きそうだ

しかしまだ5歳なのにアテムは魔術が扱えるという事実に驚いてしまう

父王であるアクナムカノンでさえ使えないのに・・・

「魔術に使われた構文を覚えておられますか?」

優しいトーンの聞きなれない声

アテムは、自分の背後から聞こえて来る声の方に向き直ると

「覚えてるぜ」

「では、構文を唱えて下さい

その際には、魔力が発動しないように細心の注意をはらって下さいね」

「マ・・・」

アイシスが何かを言いかけたが男は人差し指を自分の口に当て

アイシスを黙らせる

「解ったぜ」

 

何故だか解らないがこの男に何かしらの力を感じる

この力の感じ・・・もしかしてこの男・・・

 

アテムは、男の分析を幼いなりに行いながら構文を唱える

その構文を聞き終えた男は

「その構文は、治癒を目的とした内容では有りませんね

相手を傷つけてしまう内容が含まれている」

「では、先の先生は・・・」

「変な方向に考えるのは良くない

その方は間違った構文を覚えているだけですよ

最初と最後は、治癒系で使われている構文ですから」

不安気な声を出すアイシスだが男は、否定をする

2人のやり取りを見ながら

「お前 魔術が使えるんだな

しかも力が強い・・・」

アテムの前で術の披露をしたワケでもないのに相手が魔術を使える事を

言い当てるアテム

「だって構文の間違いに気が付くには実際に使った事があるからだ

それに先程からこの男から何か不思議な力を感じる

オレは、アテムお前名前は何ていうんだ?」

何と言う感の強さそれに観察力アイシスとマハードは更に驚いてしまう

男に興味を持ったアテムに男は笑顔で

「マハード・・・今度貴方に魔術を御教えする魔術師に御座います

ただしまだ神官見習いですけどね」

恭しく頭を下げるマハードにアテムは手を差し出し

「よろしくだぜ」

握手を求めてくる

王族が立場の低い者に手を差し出し握手を求めるなどあってはならないし

本来は行わないもの

なかなか握手をしてくれなないマハードに痺れを切らしたのかアテムは

マハードの手を取り笑顔で

「よろしくだぜ」

と再度挨拶をする

その時感じた違和感・・・

マハードは、小さな手を見つめる

 

この方は・・・まさか・・・?

 

 

 

「アイシス殿!」

先程感じた違和感を問いただす為にマハードはアイシスの

後を追った

「如何されました?マハード殿」

「貴女にアテム様の事でお尋ねしたい事がある

少しばかりよろしいか?」

アテムの名を出され一瞬だが険しい表情を見せたものの

また何時もの表情に戻り

「いいでしょ・・・ここでは、何時誰が聞いているのか解らないので

着いて来てください」

ちなみにアイシスの年齢は10歳

マハードは9歳・・・

本来アテムの身の回り世話や勉強を教えるのは大人の役目

でも大人だとアテム性別が解った時の行動が危ない

子供だとばれても大人の様に王位継承権などには拘らないと

思ったのだ

ただ正直にアテムの性別を他の大人に言わない限り

そのてんアイシスは分別を弁えているので安心だし

マハードの性格からにして他言しないと思える

ただマハードの場合 彼の師は、現千年リングの所有者であり

その師の進言があったのだ

 

マハードは自分がアテムに触れて感じた事をアイシスに訊ねると

「貴方の言う通りあの方は皇女です」

「では何故民を欺く様な・・・」

「我が子の幸せを願う親心がそうさせたのだと伺いました」

「我が子の幸せ・・・」

王位継承権の事を言っている事に気付くが

「それでも民を欺く事に変りは無い」

素直に受け入れられない

「私も最初は貴方と同じでした・・・」

軽く溜息を吐きながら

「このままアテム様が皇女として生きたのならきっと今頃アクナムカノン様を

亡き者にし幼いアテム様と婚約をして自分がファラオになろうとする輩が

現れるかもしれない」

アイシスだって神官なのだ

しかも彼女自身も力を持っている

それ故に感じる人の邪な感情

人は誰しも光と闇を心の中に抱いて生を歩む

それは生きて行く上で当然だと思っている

だが王宮内の異様としか言えない邪な感情

権力に取りつかれた亡者の様にしか見えない

 

アイシスの体内におぞましいモノが掛け巡り自分の躰を抱き締める

アクナムカノンのとった行為が正しいとは思わない

でも何が正しいのか何がいけない事なのか誰も言えない様な気がした

「貴方もその内解ると思いますよ」

子供とは思えない会話をしている2人

もしこの光景をアクナムカノンが見ればどう感じただろう

 

 

 

 

 

アテムは、今日来た

マハードに少なからず興味をもっていた

千年リングの所有者以外に魔術師を見た事が無いから






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