Recollection(追憶)-5-

Recollection(追憶)-5-

父王から解放されたセトを連れて自室に向おうとするアテムだったが中庭に

差しかかった時

「アテム様 御勉強の時間でわ?」

背後からの声・・・思わず驚いてしまう

「アイシス 今日ぐらい勉強が無くてもいいだろ?」

「ダメです ファラオやシモン様が大目に見て下さっても貴方は、将来この大国

エジプトのファラオになられる御方必要最低限の事を学んでもらわないと

いけないのです。 それに今日の勉強は魔術ですよ」

魔術と聞いて先程まで嫌そうな顔をしていたアテムの表情が好機の顔に変る

それを何故かセトは不愉快な思いに囚われていた

「じゃ〜勉強が終わってからセトと遊んでいいのか?」

「かまいませんよ」

「セト 後で遊んでくれよ!」

それだけを言い残しアテムは走り去って行った

「自己紹介が未だでしたね? 私はアテム様の身の回りの世話をしている

神官見習のアイシスと申します」

軽く会釈をすると

「今日からここで世話になるセトです。 貴女と同じ神官見習です」

照れ臭いのかぶっきらぼう挨拶をするセト

思わず苦笑してしまう

「セト 貴方お部屋の方に行かれましたか?」

「あっ・・・否・・・まだ・・・」

「ファラオにお会いした後そのままアテム様に連れ出されたの

ですね

私が案内させてもらいますね」

自分の前を歩くアイシス

王宮から少し離れた所に設らえた居住区

ファラオに許された者だけが住む事が出来る

その一室に案内されると必要最低限の家具が設置されていた

「必要なモノが有ったら言って下さいね」

微笑むアイシス

「そうそう 貴方に言っておかないとイケナイ事がありました」

「?」

「決してアテム様を水の中に入れてはなりません

そしてアテム様の衣服が汚れたからと言って女官に着替えを言っては

なりません

アテム様の身の回りの世話は私以外の者がする事は禁じられています

アテム様が衣服を脱ごうとしても脱がしてはなりません・・・

これらを無視なさるのでしたら貴方の御命がどうなるのか解りませんよ?」

セトに脅しをかけるものの実際これらを無視すればどうなるのか解らない

「何故?」

「アテム様の御命を守る為です」

大国の皇子ともなれば何時隣国・敵国の間者に命を狙われるか

解らない

だがそれを言うのならファラオとて同じ事・・・

ただ幼いアテムには武術なんて無理と言う事もあるのだが・・・

 

 

 

アイシスにいろいろな事を教わりながら時間が過ぎて行く

慌ただしく聞こえて来る足音

「アテム様が御見栄になった様ですね」

コンコン・・・

いきなり扉を開けて来るのかと思いきやちゃんとドアをノックし

扉の向こうで相手の返事を待っている様だ

「どうぞ」

その言葉と同時に満面の笑顔で入って来るアテム

息を切らせている辺りから彼がどんなに急いで来たのか伺い知れる

「アイシス セトと遊んでもいいよな?」

ちゃんと勉強は、して来たのだ

やる事はやったのだからと言外に訴えかける紅い瞳

「ええ・・・いいですよ それではセト アテム様の事よろしくお願いしますね」

そう言うと部屋を出て行くアイシス

アテムは嬉しそうに瞳を輝かせながらセトの方を見やる

「それでは、何して遊びましょうか?アテム様」

セトの何気ないその一言にアテムの表情が固まる

俯きながら後ずさるアテム

「皇子?」

そんなアテムにセトは不思議そうな顔をする

「どうされたのです?」

フルフルと左右に振られる頭

よく見れば床がポツポツと濡れている

「お前も他のヤツと同じなのか・・・オレは、置物なんかじゃない・・・

御飾りなんかじゃない・・・」

消え入りそうなか細い声

「皇子?」

自分に近付こうとするセトに

アテムは頭を左右に振り否定する

「来るなぁ〜!!セトなんか嫌いだぁ〜」

そう叫ぶとアテムは泣きながら部屋を出て行く

「俺にどうしろと言うのだ?」

何故か心が痛む

何故彼が泣いたのか解らない

胸が苦しくて仕方が無い

アテムを追いかけていいのでさえ解らない

そこえ自分の部屋をノックする音が聞こえる

「どうぞ・・・」

「失礼する」

入って来たのは、自分より少し年上の少年

「君が新しく来たセトだね

私は、アテム様に魔術の事を教えているマハード

私も君と同じで神官見習の身

これからは、よろしく」

マハード・・・アテムが喜んでいた相手・・・

「アテム様がこちらに来た筈ですが・・・?」

「さっきまで居た・・・」

アテムにどう接してイイのか解らない

セトとして不本意だがマハードに相談したら

「きっと君なら自分を特別扱いしない自分と対等に接してくれる

そう思ったんじゃないのか?」

特別扱い?対等?

ヤツは、皇子だ特別扱いして当然だし対等に接するなんて出来ない

「皇子は、寂しいんだよ・・・

あの年だと親に甘えたり友達と遊んだりしていてもおかしくないしね」

そんな事を言われ少しムッとしたセトだったが自分が村に居た時の事を

思い出す

どんなに貧しくても自分には父は居なかったが優しい母が傍に居た

外に出れば同年代の子供が居た

遊びもしたし喧嘩もした

でもアテムは・・・

父が傍に居ても公務で自分の方を見てくれない

母は幼い頃に他界

同年代の子供が回りには居らず

遊び相手も喧嘩相手も居ない

どんなに回りに人が居ても孤独でしかない

しかも自分自身子供で有りながら子供で居る事を許されない存在

王宮の外に出て楽しそうに遊んでいる子供達をどんな心境で見ていたんだろう

きっと魔術は、そんな彼を一時の間でも子供に戻れる瞬間なんだろう

そう思うと心が締め付けられる思いがした

 

その夜セトは、アテムに何と言って謝ろうかと思った

友達ならやっぱり呼び捨てにした方がいいのだろう

言葉使いもタメ口の方がいいのだろう

色々と思考錯誤する

 

コンコン・・・

恐る恐るといった感じでされるノック

こんな夜更けに訪れる来る存在に思い当たるフシは無い

それでも扉を開けるとそこには今尚鼻をすすり泣き顔のアテム

「チェッ・・・チェト・・・ぎょ・・・ぎょめん・・・オレ・・・チェトに・・・酷い事・・・言った・・・

チェトが・・・っせ・・・折角遊んできゅれる・・・って言ってくれたのに・・・」

言葉の合間合間にヒクッヒクッと引くつきながら

必死になって自分の思いを伝えるアテムだがセトの脳裏にはマハードの姿が

「マハードに言われて来たのか?」

「マハード・・・?じゃれにも言われてないぜ・・・オレ一人で・・・う〜んと考えた・・・

マハードとは・・・勉強の時・・・にしか逢ってない・・・」

子供なのに子供のままで居る事が許されない存在

本当に自分で考えて行動に移したのだろう

そう信じたい・・・それに本当は自分こそ謝らなければならないのに先に謝られる

なんて・・・

「もう・・・泣くな お前に泣かれると俺は、どうしていいのか解らない

2人で居る時は、お前の事アテムって呼ぶ 友達だからな

でも他に誰か居た時は皇子って呼ぶ 俺にだって立場ってモンがあるからな」

顔を朱に染めて精一杯の告白

それを聞いたアテムは

「オレの友達になってくれるのか?」

涙で曇っていた瞳に輝きが宿る

そんなアテムに一瞬ドキッとさせられる

やっぱりコイツには暗い顔なんて似あわない・・・

 

そんな2人のやり取りをアテムの事が気になっていたアイシスは、ただ黙って聞いていた

 

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