幻想-2-
捜し求めた人物の確かな温もり
今度こそ捕まえた・・・
「いい加減離せ!!」
抱きしめてる相手が身を捩り抵抗してくる
それにしても低い声・・・
低い???
不意に湧き起こる疑問
海馬の手は、相手の胸元を弄りそのまま片手だけが下肢に・・・
予想外な場所を鷲掴みにされた相手は、海馬の足を思いっきり踏み付ける
その痛みに緩んだ腕から抜け出ると
「お前!!何処触ってるんだ!!この変態野郎!!」
顔を朱に染め勢いまかせ捲し立てる相手に海馬は眉間に皺を寄せながら
「貴様・・・男なのか?」
相手の服装は紛れも無く男モノ
先ほどの事と言い自分の事を女と間違われた事に腹を立てたのか
ピシャッ!!と容赦無く平手が頬を打つ
海馬は予想外の事に驚き叩かれた頬に触れながら
そう言えば夕べモクバが新しい使用人の事を話してたがもしかしたらコイツの事なのか・・・
昨晩食事中にモクバが言っていた話しの内容を思い出す
「名前は、何と言うのだ?」
怒る処か相手の事を知りたい気持ちが勝ってしまう
そんな海馬にどう対処していいのか困り果てた相手はフルフル震える手を降ろし
「人に名を訊ねる時は先ず自分の名を名乗るのが礼儀だろ?」
もっともな答えに
「俺の名は海馬瀬人 この屋敷の主だ」
その言葉に相手の表情が強張る
自分の正体を知り驚いたのだろう
「オレの名前は・・・武藤遊戯・・・」
遊戯・・・とうとう知る事が出来た相手の名前
何故か嬉しいと思う
そして相手の服装は、海馬邸に働く使用人の制服
後は遊戯が通いの使用人なのか住み込みなのか・・・
もし通いだったら無理矢理住み込みにさせるつもりだ
「遊戯 貴様今何処に住んでいる?」
一向に叱られない事に困惑する
しかも自分の事を聞かれ更なる困惑
「あっ・・・オレ住み込みです・・・」
住み込み!!
本当に遊戯を捕まえた!!
何故ここまで遊戯に執着するのか解らないでも手に入れた
「主とは、知らなかったとは言えとんでもない事をして悪かった・・・」
そう言うと遊戯は、踵を返しその場から離れようとする
自分の前から立ち去ろうとする遊戯に
「何処に行くつもりだ?」
彼は使用人なんだから仕事に戻るのだろうと思ったが帰ってきた言葉は
海馬の心を傷つけるものだった
「どんな理由であれ主であるアンタに手を上げたんだ
そんなオレが罰を受けるとしたら解雇しかないだろ?」
折角見つけ手に入れたと思った相手が自分から離れ様としている
手放す気なんて更々無い
「俺は貴様を解雇する気なんて毛頭に無い
俺に手上げた事に罰を受け様と言うのならこのままこの屋敷に居る事を命じる」
遊戯の朱色の瞳が見開かれる
「アンタに手を上げた使用人をまだ傍に置くつもりか?正気なのか?」
「ああ正気だとも」
彩の無い世界で唯一の彩
それが男でも女でも構わない
辞めなくていい・・・そう思うと
「ありがとう・・・御主人様・・・」
出る感謝の言葉
遊戯にとって初めての職場
最初で最後の・・・
「何故礼を言う?それに俺の事を主人と呼ぶな」
主人を主人と呼ぶなって・・・じゃ何と呼べばいいのだろう?
「アンタは、オレの勤める屋敷の主人だ・・・」
何故か海馬は、遊戯には御主人様と呼ばれたくない心境だった
「俺の事は瀬人と呼べ」
遊戯には名前で呼ばれたいと思った
「瀬人様・・・」
「様を着けるな」
「そっ・・・そんな主を呼び捨てで呼べるワケが無い!!」
主人を名前で呼び捨てるなんて持っての外
「じゃ海馬と呼べ それ以外で呼ぶなら瀬人だ」
「様を・・・」
「着ける事は許さん それと使用人の様な話し方など許さん」
そっ・・・そんな馬鹿な・・・
脱力する遊戯
「海馬・・・って呼ぶぜ・・・でも呼び捨てにするのも言葉使いも2人っきりの時だけだ
それ以外では様着けと敬語で話す」
一応他人の目と言うのも在るのだ
それなのに海馬は
「他の者が居ようが居まいが関係無い『様』着けも『使用人言葉』も禁止する」
あんまりの言い様に開いた口が塞がらない
何処まで無茶な事を言うのだ
執事に怒られる・・・
でもこの男の性格は、何を言っても変える事は不可能だろう
「解ったぜ」
頭痛が起きる気がして来た様だ
でも嬉しそうなこの男の顔を見ていると憎めない
「遊戯 貴様は今日から俺専属の使用人にする」
「はぁ?」
入りたてで仕事のノウハウも解らない相手を当主専属って
この男の考えてる事が本当に解らない
嬉しそうな海馬に促されるがまま屋敷へと戻る遊戯
海馬は執事を呼び遊戯が自分の専属になった事と遊戯が自分の対しての呼び方話し方を
説明する
遊戯が危惧していた通り呼び方や言葉使いは、却下だと主張する執事
それでも首を縦に振らない海馬に執事もホトホト困り果て折れてしまった
この海馬って男何処まで我儘なんだぁ〜!
遊戯の部屋を自分の隣に移すとまで言い出し
それだけは、断った
知られたくない秘密が有ったから
そして海馬とて無理を強いて遊戯に逃げられる可能性を考え渋々折れた