幻想-3-
「くっ・・・」
ガタ・・・キュッ・・・ゴポゴポ・・・
「・・・あっ・・・」
「ねえ兄さま 今度遊戯と一緒に・・・」
「ああ いいだろう」
「本当!」
「はぁはぁはぁ・・・」
もう少し・・・もう少しだけ・・・
今の幸せをもう少し・・・
蒼白な面持ちのまま自室の部屋の壁にもたれながら遊戯は天井を見た
全身を襲う痛み
それを和らげる鎮痛剤
残された時間
オレの躰・・・もう少し持ってくれないか?
今の幸せをもう少し感じていたいんだ
アイツニハ知ラレタクナイ・・・コノママ・・・最後マデ・・・
知ラナイデ・・・
夕方頃モクバが帰宅してきた
「あれ?遊戯は?」
何時もなら出迎えてくれる遊戯の姿が何処にも無い
メイドの一人が
「武藤さんでしたら奥庭の方に行かれましたよ」
時折 遊戯は一人で奥庭に咲く枝垂れ桜を見に行っているらしい
遊戯って桜好きなのかなぁ?
兄が初めて遊戯を見かけたのも初めて声をかけたのも桜の傍
日中少し温かくなったとは言え夕方以降はまだ肌寒い
モクバは遊戯を迎えに奥庭に足を向ける
小学生のオレに迎えに来させるなんて遊戯の方が子供みたいだぜ
奥庭に行くと枝垂れ桜を見上げる遊戯の姿が・・・
何時も強さを感じる遊戯が何故か儚くこのまま消えてしまいそうなそんな錯覚を
モクバは感じた
「ゆう・・・うわ・・・」
遊戯との時間を邪魔されたくないのか風が吹き落ちている花弁を舞い上がらせ散ってくる
花弁とで壁みたいなのを作る
近付けない・・・
そう感じた時
「モクバ お帰り」
何時もの優しい声
何処かに連れ去れた心が戻って来る瞬間を感じた気がした
顔を少し上げれば優しい笑顔
その笑顔が余りにも綺麗で見惚れてしまう
「モクバ?」
名を呼ばれ急激に顔が熱くなるのを感じ反らしてしまう
「ゆっ・・・遊戯 迎えに来てやったぜ
小学生のオレに迎えに来させるなんて遊戯の方が子供っぽいぜ」
まるで夢でも見ている感じだった
屋敷に戻るまでモクバは今日一日有った事を遊戯に話す
今迄話したい事があっても誰にも聞いてもらえず寂しい思いをしていたモクバ
家族が居て周りに人が居てもオレと同じ様に孤独の世界に居たんだな
そしてそれは海馬も同じなんだろう
ここ数日で海馬も寂しい心の持ち主だと解った
ただそれを彼は認めてないないだけの事
遊戯はモクバが食事中は給仕にいそしんでいる
海馬専属の使用人とは言え主が居ない時間は、他の使用人と同じ様に屋敷内の
清掃もする
主が居れば身の回りの世話もする
慣れない事が多いので周りの人には迷惑をかけてるかもしれないけど・・・
「武藤さん 瀬人様から連絡があって瀬人様の帰宅時間は21時になられるそうです」
メイドの一人が遊戯に報せに来る
それは、その時間に遊戯に主の帰宅を出迎えてもらうため
「21時・・・解ったぜ 有難う」
遊戯は報せに来てくれたメイドに礼を言う
寧ろメイド達の方こそ遊戯に礼を言いたいぐらいなのだ
遊戯が来てから海馬の機嫌が良い
それに海馬に給仕するのは緊張の連続
神経性胃炎の薬が手放せない
それを遊戯が一手に引き受けてくれているのだ
これでどれだけのメイドが救われた事か!
強いて言えば他の使用人も同じ事
遊戯は厨房に向うとお茶の用意をする
帰宅した海馬に一息吐いてもらう為
厨房にはいろんな種類のお茶がストックされいる
その中からハーブを数種類選びブレンドする
甘いのが苦手な海馬の為に甘さ控え目の蜂蜜を準備し海馬の帰宅を待つ
20時55分玄関ホールへと向う執事とメイド頭の隣に立ち海馬の帰宅を待つ
21時を少し回った処で海馬の帰宅
海馬は薄手のコートを執事に渡さず遊戯にカバンごと渡す
遊戯が来てからそれが当然の様になっているのだ
執事が来客の有無を報告すると夕食の事を訊ねる
疲れているのか海馬は片手を軽くあげながら断る
全くもって不規則な食生活を送っているんだからなぁ
それであの身長は羨ましいぜ
薄手の事にブラシをかけクローゼットの中にカバンは書斎の椅子の上に置いておく
海馬が着替えている間 遊戯は一時退室をしお茶の用意をしに厨房へと向う
お茶を取りに行ったきり一向に戻って来ない遊戯に海馬はイライラしてくるがそれも束の間
戻って来た遊戯の手にはトレーに乗せられたお茶とサンドイッチ
「何も食べないなんて躰に悪い 簡単なモノでもいいから少しは食べろ」
テーブルの上に置かれるお茶とサンドイッチ
海馬はサンドイッチを手に取り
「これは貴様が?」
「不格好で悪いか・・・それに味の保証はしないぜ・・・」
確かに形は少し崩れていて見た目は良いとは言えない
顔を朱に染めソッポ向く遊戯の仕草が余りにも可愛い
このまま遊戯を襲いたい心境に陥る
最初は気付かなかった想い
遊戯と供に過ごす様になってどうして彼に執着するのか解った
彼に一目惚れをしたのだ
公園の桜を見ていた彼を見た一瞬で・・・
だから彼を捕まえ自分の傍に置いて置きたかった
だから彼に彩を感じたのだ
でも自分の気持ちを伝える勇気が無い
自分の気持ちをしれば遊戯は自分の前から居なくなってしまうかもしれない
それが怖い・・・
だから自分の想いは伝えない
遊戯が居る今の生活を壊したくないから
そんな遊戯が自分の為に作ってくれたサンドイッチを前に海馬の心は嬉しさでイッパイになる
自分の気持ちを伝えたくなる
何時まで経っても食べる気配の無い海馬に遊戯は不安になる
そりゃ・・・海馬みたいに毎日美味しいものを食べてる者にしてみれば素人の作ったモノなんて
口にするのもイヤだろうし料理長みたいに上手く作れないから食べたく無いのも解る
折角作ったけどなんだかいたたまれない気持ちになる
手の着けられないサンドイッチの乗った皿を片付け様と手を伸ばそうとした時自分の手より先に
海馬の手が伸びサンドイッチを掴むとそのまま口に運び入れる
暫く咀嚼をした後
「遊戯 上手いぞ」
と言いながら皿の上にあったサンドイッチを次々と食べ出す
美味しそうに食べてくれる海馬の姿に遊戯はホッとしつつも嬉しさに気持ちが包まれる
このまま時間が止まればいいのに・・・
そうすればず〜と一緒に居られるのに・・・