恋慕-5-

 


コンコン・・・

窓をノックされて吃驚したのは海馬の自家用車を運転している運転手

慌てて車から出てくると

「遊戯様 如何されました?」

まだパーティは続いている時間

しかも遊戯一人

「息抜きをしに来たんだ」

苦笑いをする遊戯に運転手は後部座席の扉を開ける

 

艶やかなる場所は、苦手だ

キツイ香水に匂いに咽てしまう

化粧の匂いも苦手・・・

綺麗に着飾る女性を見て美しいとは思う・・・

会場内で一人で居る事は苦痛では無い

ファラオだった頃も一人だった

どんなに多くの人に囲まれていようとも一人だったから

海馬に群がる人達・・・思い出せば苦しくなる

近くに居て遠い存在

 

薄暗い闇 自分の知っている闇とは異なる

微かなる音 そこに人が居る証

静寂とは異なる静香さ

 

遊戯は、ゆっくり目を閉じると思い出すのは古代の風景

そしてニ心同体だった頃の事

懐かしさに苛立っていた心が落ち着き出す

懐かしさに浸っていると窓をノックする音

その方向を見れば海馬の姿

運転手が扉を開けると

「遊戯 具合でも悪いのか?」

何も言わず車に戻った遊戯の事を案じている様だ

「別に何処も悪くないぜ それよりお前が会場から居なくなれば女の人達寂しがるだろ?」

先程までの会場内での光景が脳裏を掠める

「あんな連中より貴様の事が・・・」

海馬の言葉を遮る様に遊戯は車から出る

「オレの事が心配で会場に戻らないと言うのならオレも会場に戻る だからお前も戻れ」

海馬の腕を掴みグイグイ引っ張る

遊戯の行動が読めない海馬は、どう対処していいのか解らない

 

遊戯は女でありながら女である事を否定されていると思っている

 

会場に戻ると遊戯は、壁際の椅子に腰かける

「遊戯・・・」

自分の傍に居て欲しいと言う思いも虚しく海馬をまた先程とは違う女性が取り囲む

海馬に気に入られれば社長婦人も夢じゃない

そうなれば贅沢な生活が生涯保証される

下心が見え隠れしている

 

2人は互いを見ているがその視線が交わる事が無い

 

「ねえ貴方 海馬社長とどんな関係なの?」

黒の髪を結い上げた年上の女性

「どんな関係って・・・親戚だけど・・・」

どんな関係・・・自分達って本当にどんな関係なのだろう?

恋人・・・でも無い親友でも無い・・・自分達の関係・・・

改めて問われて感じる疑問

「じゃぁ海馬社長と親しいの?」

「いや・・・親しいって程の事じゃ・・・」

「だって海馬社長貴方の後追いかけたから」

「それは、オレの身に何かあったらイケないからだと思うぜ」

だって現に海馬はオレに何も話し掛けて来ない

「そう・・・親しいのなら紹介して貰おうって思ったのに・・・親しくないのならイイわ

じゃぁね〜」

掌を振りながら立ち去る女性

 

利用出来るモノは何でも利用する

彼女のそんな行動が何だか羨ましく思える

 

たち代わり入れ替わり遊戯に話し掛けて来る人達

中には遊戯に誘いかけるヤツも居たが大半は海馬を紹介して欲しいとの申し出

遊戯は、申し出が有る度に丁重に断っている

 

これから先パーティが有る度にこんな目に遭うのか?

心身ともども疲れて来た。





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