幻想-5-
「瀬人様いってらしゃいませ」
執事を筆頭に数名の従者とメイドが御見送りする
これはモクバに対しても行なわれる
当初海馬は遊戯も会社に連れて行こうとしたが執事とメイド頭に怒られ断念したのだ
その所為で海馬は毎日どんなに遅くても帰宅する様になった。
ただ一目遊戯に逢いたい為に・・・
「瀬人様が武藤さんの事を気に入るとは思いもしなかった」
面接をした時何かしら不思議な雰囲気を持った少年だと思ったが・・・
「気に入ると言うより執着されている様にしか見えませんが?
まぁ瀬人様が武藤さんに対して好意を持っているって事でしょうね」
そう言いながらメイド頭は自分の仕事場に戻る
執着ですか・・・しかし瀬人様には、御婚約者様が居られる
早々に武藤さんの事を諦めてもらわなければ
遊びで済む内に・・・
「武藤さん・・・少しよろしいか?」
執事に声をかけられ驚く遊戯だったが肯きながら執事の後を付いて行く
その夜 海馬が帰宅したのにかかわらず遊戯の姿が見当たらない
何時もならどんなに遅くても出迎えてくれる筈なのに・・・
執事に遊戯の居所を聞くと遊戯は自室に居ると言う
しかも海馬の専属からモクバの専属に変ったらしい
自分に何の断りも無く・・・
心に湧き怒る苛立ち
海馬は執事にカバンと薄手のコートを手渡すと遊戯の部屋へと向おうとする
「瀬人様近い内に静香様が御見えになられます」
背中越しに執事から告げられる一言
遊戯が海馬専属からモクバ専属へと移された原因
海馬は執事に応えを返す事無く遊戯の部屋へと向った。
コンコン・・・
「遊戯」
「・・・」
コンコン・・・
全く室内から返事が返って来ない
微かな苛立ち
只でさえ遊戯の出迎えが無く苛立っていると言うのに
海馬はドアノブに手をかけ扉を開ける
室内に入れば遊戯の姿が無い
イヤ無いのでは無い耳を済ませば水音が聞こえる
シャワーを浴びているようだ
初めて入る遊戯の部屋
勤めて間もないと言う事もあるのだが備え付けの家具以外私物が見当たらない
机の上には薬袋が置かれている
何処か具合でも悪いのだろうか?
暫く室内を眺めているとガタッと音と供に頭からバスタオルを被りバスローブを纏った遊戯
が現れた
その姿にドッキとさせられる
抱きしめてその身に口付けをしたくなる
そう言えばスーツ姿以外の遊戯を見るのは久しぶりだ
しかもスーツ姿以外の遊戯と話しをするのは初めて・・・
新鮮な気持ちになる
「海馬・・・どうしたんだ?」
自分以外誰も居ない室内に居る人物に驚く
「あっ・・・いや・・・貴様が出迎えに来ないから・・・」
「あれ?執事さんから聞いてないのか?オレ今日の夕方からモクバ専属になったって」
優しい笑みを浮かべながら椅子に座る様に促す
「さっき聞いた だが俺は認めないからな」
「認めないって・・・屋敷の人事絡みは執事さんに任せているんだろ?」
「それでもだ 貴様は俺のモノだ」
人をモノ扱いってどうだろう?って思うが人から求められる事にイヤな気にならない
自分を必要としてくれている証だと思うから
「帰宅して直に来たんだろ?」
今尚スーツ姿の海馬に紅茶を差し出す
微かに香る甘い匂い
一口口に含めば今迄の苛立ちが収まり落ちついた気持ちになる
「そう言えばさっき気になったのだが貴様何処か具合でも悪いのか?」
机の上に置かれた薬袋の事を思い出す
「気にする程の大した事は無い」
「もし悪いのなら俺に言え 最高の医療スタッフを用意してやる」
「その時は頼むぜ」
スマナイ・・・もう手遅れなんだぜ・・・
海馬は立ち上がると隣の寝室に向う
使用人の部屋に入るのも
ましてや寝室に入るのも初めての事小さな子供の様に興味が湧く
「海馬!!」
遊戯が制止の声を無視してはいる
置かれているのはクローゼットとシングルベッド
海馬は遊戯のシングルベッドに横になると目を閉じシーツに染み込んでいる遊戯の匂いを嗅ぐ
落ちついた安らかな気持ちになる
一向にベッドから起き上がらない海馬
遊戯は気になり傍に近付けばスヤスヤと寝息を立てている
よっぽど疲れているんだな
会社での仕事の事はオレには解らないけどきっと大変なんだろうな
遊戯はネクタイを緩めてあげながら靴と靴下を脱がしてやる
スーツのジャケットは既に脱がれて椅子の上
シャツとズボンは、申しワケ無いが脱がす事が出来ない
きっと皺が付くだろうなぁ・・・と思いつつもどうする事も出来ない
遊戯は執事に海馬が自分の部屋で疲れて眠っている事を告げる
その際このまま自分の部屋で休ませる事にした事も告げる
疲れて眠る人を無碍に起こす事なんて出来ないから
眠る海馬の柔らかい髪を梳きながら
聞きたい事あったけど聞けなかったな
少し寂しげな表情を浮かべた